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2014年03月21日 01時18分 JST | 更新 2014年05月19日 18時12分 JST

さよなら「住宅すごろく」-賃貸多様化で広がる住み替え自由度

■いま賃貸住宅が面白い

戦後長らく、賃貸住宅といえば個人の遊休地に節税目的で建てられた、コストを押さえた木造アパートが典型的なものでしたが、最近の新築物件の品質向上は著しいものがあります。分譲住宅と比べて不満の大きかった防犯、収納、遮音、断熱性能の改善はもちろん、女性利用者を意識した洗面や浴室など水周りのグレードアップ、改装OKやペット飼育可能物件※1も珍しくなくなってきました。共働き世帯が増えたことで子育て支援もキーワードのひとつ※2になっており、人口減少に悩む地方自治体が民間資金を利用して子育て賃貸住宅を建設する動きもあります※3。

ファンドブームで市民権を得た高額所得層向けの都心型賃貸マンションでは、分譲マンションと同等の耐震性やグレード感、管理サービスを保持しつつ、狭いながらも快適に過ごせるよう工夫された間取りや収納スペースが魅力的です。防災性能の高さや省エネを謳った大型賃貸マンションも、これからは増えそうです。

既存の住宅では、入居者の高齢化と団地の老朽化に悩む都市再生機構(UR)が、大手家具店や雑貨店などと共同で賃貸住宅団地の一部住戸を改修したり、1棟リノベーションのデザインコンペを実施したり、居住者によるリフォームをOKとするなど、若い世代を呼び込もうと知恵を絞っています※4。また、全国で増加する空き家対策のため、国は借り主による自由な改修を認める新しいルールの導入で中古住宅の賃貸化を促進しようとしています。

さらに、最近注目されているシェアハウスは中古住宅を改修したものが多いですが、学生や起業家など単身者向けから子育て世帯と高齢者が助け合うものまでさまざまなタイプが登場しており、新しい家族やコミュニティのあり方を考えさせられます。

■顧客志向を強めるマーケット

このように、借り主にとって魅力的な賃貸住宅が増えてきた大きな理由のひとつとして、需給のバランスが崩れて危機感を持った事業主が顧客志向を強めていることが指摘できます。少子高齢化で需要が伸びなくなって全国的に空室率が高まっていますが、消費税率引き上げや相続税対象の拡大を見据えた節税対策として賃貸住宅を建てる動きも活発化しています。不動産投資マインドの盛り上がりもあって今後も新規着工の増加が続くと予想されます。

最近は、相続対策に加えて家賃収入による住宅ローン返済の軽減が期待できる※5として、マイホームと賃貸の併用住宅プランを土地所有者に売り込むハウスメーカーも目立ってきました。また、高齢者の増加でマーケット拡大が期待できるとして、サービス付き高齢者向け賃貸住宅を建てる動きも加速しています。しかし、ブームに煽られただけの安易な建設計画も少なくないようで、特に高齢者向けは一般的な賃貸住宅以上に専門的な経営ノウハウが求められるだけに、今後はサービス内容や経営手腕による事業格差の拡大が目立ってくると思われます。

高齢者や一人暮らしの女性は長く居つくなどと家主が嫌がるためアパートが借りにくい、といわれた時代もかつてはあったようです。しかし、少子高齢化と同時に新規の着工や既存住宅の活用も進むため、賃貸住宅マーケットは今後ますます借り手優位になることは間違いありません。顧客志向をさらに強めなければ生き残りが難しいビジネスであることを、不動産事業者や家主は自覚すべきでしょう。

■さよなら「住宅すごろく」

高度経済成長時代には、「新婚時代は小さなアパート、子供が生まれて少し広めの賃貸住宅に住み替え、会社で役付きに出世して分譲マンションを買い、最後にそれを売却して庭付き一戸建てを手に入れ"一国一城の主(あるじ)"になって上がり」という"住宅すごろく"が理想の住み替えパターンと言われました。要するに、借家はしょせん仮の住処、庭付き一戸建てを持ってこそ一人前の男という価値観で、今となっては人口・経済・地価の高度成長と終身雇用・年功序列賃金を享受できた世代にしかできなかった住み替えのかたちです。

もっともその彼らの多くも平均寿命が大きく伸びたため、一戸建て住宅で人生の終末を迎えるはずが、それを売り払ってサービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームに入居する新しい"上がり"に戸惑っているはずです。さらに、人口が減少する地方や郊外のマイホームは、大都市に住む子供たちが相続したところで買い手がないため売るに売れず空き家として放置されるという番外編も現れ、先に紹介したように空き家対策が大きな社会問題になっています。

いまや、大都市圏の若い世代には新築信仰も薄れ、中古や賃貸も悪くないという人々が増えています※6。マイホーム取得と住宅ローン返済に一生の多くを費やすだけの人生より、ライフステージやライフスタイルに合った住まい方が自由に選べ、住み替えが容易にできる方がより豊かな人生ではないでしょうか。新築分譲偏重の住宅マーケットから、中古流通と賃貸ともバランスのとれたマーケットに変わっていけば、私たちの住み替え自由度が大きく広がるのは間違いありません。

 

※1 松山市には、入居者が旅行や出張で留守にする際、専門業者が運営するマンション1階にある「ペット保育園」でペットを無料で預かるサービス付きの賃貸マンションを展開する不動産会社がある(日経産業新聞2014年3月3日)。

※2 埼玉県の三井開発は、保育園・託児所併設の6階建て賃貸マンションを開発している(週刊住宅2014年2月24日)。

※3 佐賀県みやき町は、コミュニティスペースを備えた子育て支援マンション24戸を整備、4月から入居を始める(週刊住宅2014年2月17日)。

※4 一方、URが管理する賃貸住宅団地を、自立型高齢者向け住宅に改修するなど団地再生のための事業手法も検討されています。

※5 ただし、自宅と併用する賃貸戸数が多くないため空室発生によるローン返済への影響ガ大きいこと、相続の発生などいざという時に一般の戸建て住宅に比べて売りにくいことなど、賃貸併用住宅のデメリットにも建築主は留意する必要があります。一方、借り主にとっては、広さはともかく、家主の自宅同等の品質が確保されるという利点があります。

※6 マイホームと並んで高度経済成長時代の豊かさの象徴だったマイカー(自家用車)も、高い維持費を負担してわざわざ所有しなくとも、レンタカーやカーシェアリングを活用すれば、利便性を損なわずに生活できるようになってきました。

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松村 徹

まつむら とおる |金融研究部 不動産研究部長


研究・専門分野

不動産市場・投資分析


80年代後半の土地バブル時代から20年以上にわたりオフィスを中心にした不動産市場分析を担当し、団塊世代リタイアの影響にいちはやく着目して警鐘を鳴らしました。また、長期的な市場サイクルの山谷を2度経験できたことは、アナリストとして非常に貴重な経験だった思います。不動産の証券化が進んだ90年代後半には、機関投資家の立場で不動産投資市場の分析や投資助言にも取り組み研究領域を広げました。いまや、国内中心だった不動産投資の世界も、アジア新興国を初めとしたグローバルな展開が不可欠となり、また、地球環境問題や省エネルギー対策が不動産市場の持続的成長と不可分なテーマとなっており、このような新たな研究領域に挑戦していくとともに、政策提言やオピニオン発信にもより積極的に取組みたいと思っています。

(2014年3月19日「研究員の眼」より転載)