本格的な回復局面に入った2012年以降、J-REIT(不動産投資信託)市場では12社が新規に上場し、運用プレイヤーとアセットタイプの裾野が着実に広がるなか(*1)、新たにヘルスケア施設に投資する「ヘルスケアREIT」への注目が高まっている。
ヘルスケア施設とは、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などシニア向け住宅のほか病院・医療モール施設のことを指す。
政府は、急速に進む高齢化社会に対応するため高齢者人口に対する高齢者向け住宅の割合を3~5%に高める方針のもと、その財源を確保するにあたりJ-REITの優れた資金調達力に着目し、現在、官民一体で「ヘルスケアREIT」創設に向けた環境整備を進めている。
早ければ今年秋にも初の「ヘルスケアREIT」が東京証券取引所に上場する見通しで、その後も複数の事業者が上場を予定している(下表)。
一般に、「ヘルスケアREIT」は施設の運営者(以下、オペレータ)と長期一括での賃貸借契約を結ぶため長期安定利回りが期待できる。
また、景気や不動産サイクルの影響を受けにくい資産特性から、不動産ポートフォリオに収益源泉の多様化とリスク低減効果をもたらすとされ、米国では「ヘルスケアREIT」が時価総額の11%を占めるなど主力セクターの一角を形成している。
しかし、ヘルスケア施設はオフィスビルや商業施設など従来型の不動産と異なる投資リスクがあり、J-REITにとっては難易度の高い代物である。具体的には、第1に、オペレータの支払う賃料は多かれ少なかれ介護保険の給付を原資とするため、将来の制度改正リスクがあること。
第2に、オペレータが経営破綻するなどして施設利用者へのサービス提供が困難に陥った場合でも、施設の性格上、サービス継続に向けたオーナーシップを全うしなければならないこと。
第3に、シニア向け住宅の不動産価値は、建物などのハード面より食事や介護サービスなどソフト面の比重が高いとされるが、J-REIT自体は施設所有者に過ぎずソフト面の付加価値を創出する手段を持ち合わせていないことなどが挙げられる。
それでは、「ヘルスケアREIT」がこれらの投資リスクを軽減し投資家の信頼を高めて成功を収めるには、何が大切になるであろうか。
一般社団法人有料老人ホーム入居支援センター理事長の上岡氏によると(*2)、入居者や家族にお薦めできる老人ホームは、その施設で働く職員にとっても働きがいのある良いホームであり、施設所有者にとっても長期にわたって安定的な賃料をもたらす優良不動産とのことである。
残念ながら、このような施設は多くはないそうで、入居者や家族が独力で巡り合うには、相応の手間暇を覚悟しなければならない。
そこで、「ヘルスケアREIT」が物件取得時のデューディリジェンス(物件調査)や継続的なモニタリングを通じて優良施設を多数所有することで、シニア向け住宅を探す人々に「自宅に勝る終の棲家」を提供するオーナーブランドを確立することができれば、さらなる成長への道を拓くことになると思われる。
「ヘルスケアREIT」によるオペレータの外部評価の充実は、環境整備に向けた有識者会議の報告書(*3)で指摘された期待のひとつでもある。J-REIT市場の社会的役割(*4)を踏まえると、高齢化に対応した社会インフラの拡充を金融面から支援する「ヘルスケアREIT」誕生の意義は大きい。が、それだけに失敗は許されないであろう。
そのためには、米国「ヘルスケアREIT」の成功に学び、将来的にはJ-REITにおける柔軟性の高い事業運営の是非についても検討が必要になると思われる。
(*1) J-REIT市場の上場銘柄数は45社、運用不動産額は約12兆円に拡大している。
(*2) 上岡榮信『親に薦めたい!自分も入りたい!老人ホーム探し50の法則』(日経BP社、2013年11月11日)
(*3) 国土交通省『ヘルスケア施設供給促進のための不動産証券化手法の活用及び安定利用の確保に関する検討委員会』取りまとめ(平成25年3月27日)
(*4) 岩佐浩人『J-REIT市場 3本の柱~「資産運用」「不動産投資市場」「都市ストック」のアンカー役としての責任~』(ニッセイ基礎研究所、研究員の眼、2013年4月24日)
株式会社ニッセイ基礎研究所
研究部 主任研究員
(2014年4月30日「研究員の眼」より転載)