投資家別売買金額と株式市場

近年、国内株式市場では海外投資家の売買動向が注目されている。東証1部の売買代金に占める海外投資家の割合が5~6割にまで達し、その動向が株式市場を左右し兼ねない状況となっているためだ。

短期的な市場変動に惑わされない冷静さと慎重さが必要

近年、国内株式市場では海外投資家の売買動向が注目されている。東証1部の売買代金に占める海外投資家の割合が5~6割にまで達し、その動向が株式市場を左右し兼ねない状況となっているためだ。

実際、海外投資家の月間売買代金とTOPIXの推移を示した図表1を見ると、海外投資家が国内株式を大きく買い越している2003年から2007年にかけてTOPIXは上昇する一方、売り越しが目立つ2008年から2009年にかけては下落している。

こうした関係は、2012年暮れの政権交代以降にも確認できる。TOPIXが67%上昇した2012年12月から2013年12月には、海外投資家の買い越し額が16兆円にも上った。しかしTOPIXが下落した今年の1~3月には、1.8兆円の売り越しに転じている。今年度に入ってからは、海外投資家は総じて動意薄となるなか、TOPIXは一定のレンジ内での動きとなっている。

海外投資家の月間の売買金額(ネット)を横軸にとり、対応する月のTOPIXの変化率を縦軸にとった図表2を見ると、海外投資家の売買行動とTOPIXの変化の関係がより鮮明となる。海外投資家が買い越すとTOPIXは上昇する確率が高まるという関係だ。

海外投資家の動向に関心が寄せられる背景には、こうした過去10年強を振り返って認められる関係がある。

投資家の売買動向という点では、足元、国民年金・厚生年金の積立金の運用を担うGPIFの動きが注目されている。今年度は、国民年金と厚生年金の5年に一度の財政検証にあたる。

検証結果を受け基本ポートフォリオの見直しが行われるが、「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」の最終報告を踏まえて、国内債券の比率が引き下げられる一方で、国内株式等のリスク性資産の比率が引き上げられる等、各資産の構成比率が大幅に見直される可能性がある。

仮に、基本ポートフォリオにおける国内株式の構成比率(以後、基準比率)が12%から17%へと5%引き上げられる場合、現在の運用資産額を130兆円弱として、およそ6.5兆円もの買い需要が新たに発生することになる。

2015年10月に一元化される国家公務員共済、地方公務員共済、私立学校教職員共済や、GPIFと同様の運用利回りが求められる厚生年金基金の代行部分に相当する積立金の運用においても、GPIFと同じ方向に資産構成比率が見直されるとすると、国内株式への買い需要は更に多額となる。これらを合算した運用資産総額はおよそ200兆円であるため、それぞれが国内株式比率を5%ずつ増やすとすれば、10兆円規模の買い需要が発生することになる。

GPIFの新しい基本ポートフォリオは早ければ6月にも決定されるとの観測もあり、市場参加者の間では自ずと関心が高まっている。

しかし、GPIF等の運用方針の見直しが株式市場に上述ほどのインパクトをもたらさない可能性がある点には注意が必要だ。

GPIFの実際のポートフォリオにおける昨年度末の国内株式の構成比率はまだ公表されていないが、16%程度まで上昇している可能性がある。この場合、上述の仮定のように国内株式の基準比率を17%に引上げたとしても、追加の買い需要は1%に留まることになる。

また、GPIF等の公的年金の資産運用においては、市場に影響を与えないような慎重な売買が志向されており、時間をかけて少しずつ変更される可能性がある。特に、実際のポートフォリオにおける構成比率が許容範囲(現行の国内株式の許容範囲は6%~18%)に収まっている場合は、売買が見送られる可能性もある。

この他、国民年金・厚生年金では積立金の取り崩しが行われており、取り崩し資金捻出のための資産売却によっても構成比率が変更される可能性があり、その場合は国内株式市場に流入する新規資金も抑えられよう。

そもそも一部の投資家の売買動向と株価の因果関係は、必ずしも明確ではない。海外投資家の買いにより株価が上がるのか、株価が上がる局面を捉えて海外投資家が買いを入れているのかは、判然としない。

確かなのは、株価は景気や企業業績といったファンダメンタルズに基づいて決まるということだけである。海外投資家や公的年金の投資スタンスが、他の投資家の行動に影響を及ぼす可能性は否定できないが、ファンダメンタルズの改善なくして株価上昇を期待しようもない。

特定投資家の売買が市場に短期的な影響を及ぼすとしても、中長期的なトレンドを決定付けることにはならないと考えるのが自然であろう。その意味では、短期の市場変動に惑わされない冷静さと慎重さを保ちながら、投資意思を決定していくことが引き続き求められると言えそうだ。

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株式会社ニッセイ基礎研究所

金融研究部 上席研究員

(2014年5月30日「研究員の眼」より転載)

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