「はざま世代」が思う、競争と個性

筆者は1984年生まれ。「はざま世代」である。何の「はざま」かと言えば、「競争で一番を目指すこと」と「個性を尊重すること」のはざまである。

筆者は1984年生まれ。「はざま世代」である。

何の「はざま」かと言えば、「競争で一番を目指すこと」と「個性を尊重すること」のはざまである。

「はざま世代」は、1982〜86年ごろの生まれを指している(使う人によって多少は前後するようである)。これは「氷河期世代」(1970〜82年ごろの生まれ)と「ゆとり世代」(1987〜2004年ごろの生まれ)との中間にあたる。この世代を表現する言葉はあまり普及していないようで、ネット上で偶然「はざま世代」という表現を見つけてからは、便利なので時々使っている(ただ、定着はしていないようだ)。

例えば、堀江貴文ライブドア元社長(ホリエモン)は1972年生まれで氷河期世代。メジャーに移籍し活躍している田中将大選手(マー君)は1988年生まれでゆとり世代。はざま世代は、歌手の宇多田ヒカルさん(1983年生まれ)や女優の深田恭子さん(1982年生まれ)がいる。

さて、先輩にあたる「氷河期世代」の由来は就職氷河期である。

この世代は団塊ジュニア、ポスト団塊ジュニアにあたるため人口が多い。バブル崩壊後の経済停滞期に就職活動が重なった世代であり、就職難を経験した人たちである。勝手なイメージで恐縮だが、偏差値や年収のような序列への意識が強く、期せずして「競争」することが求められた世代という印象である。

バブル期は、好景気を背景に収入を増やした人、資産運用などで富を得た人が少なくなかった。「氷河期世代」は、学生時代にバブル景気を経験し、こうした「典型的な成功」を直接に見てきた世代でもある。好調だった時代を見る一方で、自身が就職する頃は優勝劣敗も大きくなっており、こうした状況が、競争重視に拍車をかけた面もあるかもしれない。

バブル崩壊以降、日本の低迷は長引き、失われた20年と呼ばれる時代に突入した。多くの人が「勝ち組」になれる時代は終わった。大企業のリストラも珍しいことではなくなり、良い企業に勤め、出世しても報われないことなどが指摘されはじめる。

こうした状況のなかで、「典型的な成功」像というものは薄れている。後輩にあたる「ゆとり世代」の由来は「ゆとり教育」であり、戦後の詰め込み教育から脱して、自分らしさを重視した教育のことを指している。

「ゆとり世代」のイメージは、マイペースで自分の時間を大切にし、勝負の勝ち負けよりも「個性」を大切にする世代である。稼ぐことと幸せになることは違うなどの価値観が普及した世代と言えるのではないだろうか。

そして「はざま世代」は、これらの中間にあたる。自分の経験を振り返っても、思い当たるフシはある。競争して「上」を目指したい人には年収の高い外資系のコンサルティング会社や投資銀行が人気だったし、就職せずに自分探しをする人、定職に就かない人も少なくなかった。

「はざま世代」は競争重視と個性重視の間にはさまれた、ともすれば中途半端な世代である。しかし、自分が属していることもあって、個人的には嫌いになれない。良く言えば、競争重視の視点と個性重視の視点の双方を見ることができる世代と言えるだろう。

もちろん、生まれた世代だけで、人の性格や価値観が決まるとは思わない。ただ、それぞれの時代の経済環境が、その世代の人の価値観に影響を及ぼしてきた面は皆無ではないと思う。

では、「競争重視」と「個性重視」ではどちらが重要なのかと問われれば、それはどちらも重要だと思う。競い合うことで技術や能力は向上していく。その意味で競争は大切である。

ただし、様々な人を一緒くたに同じ土俵に乗せて競争させるのではなく、それぞれの強みを活かすこと、個性や多様性を尊重することが重要となる。これは競争を避けるということではない。それぞれが好きな分野、得意な分野を選び(見つけ)、そこで強みを伸ばすために必要な競争をするということである。

今の日本の経済状況を見ると、アベノミクスによる成長力向上が期待されている。なかでも、民間投資を喚起する成長戦略(いわゆる「第3の矢」)への注目は高まっている。成長戦略の推進にあたってもこの「競争」と「個性」の双方を重視して欲しいと思う。

すでに日本は、グローバル化、情報化、高齢化などで、モノづくりを含め、これまで日本が強かった分野で勝ち続けることは難しくなっている。しかし、観光やクールジャパンなど、個性を活かし今だからこそ発揮できる強みもある。日本の強みは保護して守るのではなくて伸ばすべきであり、そのために必要な競争は促進すべきだろう。

「氷河期世代」「はざま世代」「ゆとり世代」は、育ってきた環境はそれぞれ異なるかもしれないが、これからの日本を創造していくという意味ではいずれも主役であり、同じ役割を担っている。それぞれの良い点を活かして、次の世代に引き継げたら、と思っている。

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株式会社ニッセイ基礎研究所

経済研究部 任研究員

(2014年6月25日「研究員の眼」より転載)

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