「女性活用」は、食育から。

経済協力開発機構(OECD)は、今年3月8日の国際女性デーを前に、加盟国の家事時間に関する調査結果を発表した。

男性が家事しない国ランキング第3位の日本。

わが国の人々が「日本らしく」幸せに生きるために

【女性が社会で活躍する時間が、ない】

経済協力開発機構(OECD)は、今年3月8日の国際女性デーを前に、加盟国の家事時間に関する調査結果を発表した。

その調査結果をみてみると、わが国の「女性活用がなかなか進まない」背景に、やはり、伝統的な家族観に基づく男女間の家事分担負担の違いが大きな障害となっていることが浮き彫りになっていた。以下はOECDデータより筆者が作成した「男性が家事しない国ランキング」である。

左表は、OECDが集計した、成人男女それぞれが家事・買い物・育児・介護・雑用などの「無償労働」に費やす時間に関する統計データから、男女の時間差を算出し、男性が女性よりもどれくらい無償労働しないか、というランキングを作成したものである。

メディアでは単独の男性の家事時間だけが話題となったが、韓国のように女性の家事時間とのバランスをみると日本よりは女性に家事偏重ではない国もあるため、男女差を集計することで家事労働の「男女間のアンバランスさ」に注目した。

残念ながら、日本は男女差で堂々のベスト3入りを果たしており、これではいくら「女性活用・女性登用」を頑張っています、といってもみても、国際的には全く説得力がないことを、OECDに示されてしまったのである。

日本では女性に比べると、男性が1日に家事をする時間は237分、約4時間も少ない。この差はOECD26カ国平均の134分と比べても、際立っている。しかも、男女差で上位にいるメキシコ、トルコの男性の家事時間に比べて、実に6割程度の時間しか家事を行っていないのである。

先月筆者が書いた、「女性活用・女性活躍」で女性が苦しまないために、でも紹介した合計特殊出生率で先進国トップを走るフランスでは、男女差表から、男性が積極的に家事参加している(男女間の負担差が小さい)ことがわかる。また出生率が1.9と、2.0にせまる勢いの北欧諸国・英国における男性の家事分担も、同じ表における順位を見ていただければ一目瞭然といえよう。

■男女とも義務教育に「食育」を

このように、世界から見ればもはや「特異な」家庭環境で育ってきたわが国の成人男女に、いきなり「男性は家事を頑張りなさい、女性は外で働きなさい」といっても、何をすればよいのかわからない、それが本当に幸せなのかさえも、僕には、私には、わからない、というのが本音であろう。

ある実験では、幼児に15分間、ままごと遊びのテレビを見せた後に自由に遊ばせると、男児女児ともままごとに熱中し、格闘技をみせれば、その後、男児女児入り乱れての大乱闘になったという報告がある。所詮、ヒトは猿真似を大前提として育つのであろう。

そこに生まれつきの男女差があって、女子は家庭的、男子は社会的活動を好む、というのは、どこか歴史過程で政策的にコントロールされたものである可能性が否めない(*1)点に注意しなければ、女性活用は、伝統的な価値観とそれに基づく子どもたちの生育環境のサイクルの壁に阻まれて、数歩も進まない、ということになりかねない。

では、わが国のこの世界でも際立つ「男女の家事負担の差」を縮小するためには、どうすればよいのか。いきなり男性に家事全般に取り組め、というのではなく、ある特定の家事分野から開始してはどうだろうか。

日本には他国に類を見ない、すばらしい文化がある。「食文化」である。

ユネスコ(国連教育科学文化機関)は2013年12月、「和食」の食文化は、「自然の尊重」という日本人の精神を体現した食に関する「社会的慣習」であり、伝統的な社会慣習として世代を越えて伝承されていると評価し、「無形文化遺産」に登録することを決議した。

またフランスのタイヤメーカー、ミシュランが発行している世界的に有名なレストラン格付けガイドブック「ミシュラン・ガイド」の「東京、横浜、湘南」の2014年版では、三つ星を獲得したレストランは14軒であり、昨年10月発行の関西版の14軒と合わせると、日本では28軒が三つ星を獲得している。

この数値は、今年2月に発行された本国フランスのミシュラン・ガイド2014年版での三つ星獲得レストラン27軒を1軒上回り、「ミシュラン三つ星数世界一の国」であることは食通の間では世界的に知られている。

生活を支える要素として「衣食住」という言葉があるが、日本は世界的にみて、特に「食」に優れた文化をもち、そしてそれを支える人々が暮らす国、といっても過言ではないだろう。この点に注目し、男性の家事への取り組みも「食」から始めてはどうであろうか。

そこで、男性の家事進出における「食への取り組みの可能性」をみることができるデータを紹介したい。

20歳以上の男性の82%が自宅で料理をすることがあり、そのうちの半数以上の52%が週に1回以上自宅で料理をしている。また自宅で料理をする男性の4割が「料理教室に通いたい」とも回答している。自宅料理経験のある男性に「料理をしたきっかけ」を尋ねる質問には、26.1%が「料理が好き・楽しい」から、と回答しており、4人に1人は料理に精神的な抵抗がないことがわかる。

注目すべきは、この「料理が好き・楽しい」との回答割合が、他の「料理をしたきっかけ」理由である「家事参加」「1人暮らし」「節約」などを全て抑えて1位の理由となっていることである。また、特に若い世代でこの理由の割合が高く、実に20代男性では33.7%、30代男性では36.5%が「料理が好き・楽しい」から、と回答している(*2)。メディア等で報道されている「料理男子の増加」は、このようにデータで見ても明らかである。

以上から、他国の猿真似ではなく、わが国の世界に誇る文化を活かしつつ、日本らしさを活かした「女性活用」を目標として、今後、義務教育課程の早期の段階から「食育」を最重点科目として盛り込んではどうであろうか。

私も1児の母であるが、残念ながらわが国の素晴らしい食文化を学ぶ「食育」は、幼児から小学校4年生までは学校から親への「給食便り」「保健便り」での通知等、「給食における充実」にフォーカスされがちである。子どもたちが実学として教育を受けているとは到底、言い難い。

四季の豊かな日本の食材、その調理の実習、栄養の理解などの「認知と実践」(*3)が、男女とも、幼いころから自然と身につくように教育制度を改革するならば、子どもたちは早い段階で日常において調理することに男女の区別を感じにくくなるだろう。

そして、それこそが「わが国が世界に誇る文化をも活性化する女性活用」を将来的に生み出すのではないだろうか。小学校には既に家庭科室があり、インフラ的には問題がない。

「食育」の義務教育化によって、将来、男女とも家庭においても社会においても、日本人ならではの特性を活かし活き活きと活躍できる場が生み出され、さらには、豊かな食生活が世界第2位(*4)を誇るわが国の「健康寿命」を、家庭において、たとえ男性が調理をしても、女性が調理をしても維持できる、そんな社会が実現するのではないだろうか。

(*1) 第二次世界大戦に際し、フランスでは国策的に人口増強のための女性の家庭への誘導が行われた。

(*2) ライフメディアリサーチバンク(2014)「男性の料理に関する調査」、有効回答1000人(20代から60代各200人)。

(*3) 現在調理実習はわずかな単位ではあるが小学校5年生からようやく義務教育に組み込まれる。机上の学問としてではなく、出来る限り調理実習に重点をおき、男女とも自らの豊かな食生活をすすんで維持できる能力を「早期から」育成するべきと考える。

(*4) OECD Health at a Glance 2013 1位スイス82.8歳、2位日本・イタリア82.7歳

【関連レポート】

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 研究員

(2014年7月14日「研究員の眼」より転載)

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