ワシントン出張報告~トランプ大統領に振り回され、国内政治は混乱。しかしながら、米経済については楽観的な見通しがコンセンサス。:研究員の眼

トランプ大統領、弾劾の可能性は現時点では低いとの評価が大宗であった。

5月18日から1週間の日程でワシントンDCに出張した。現地では官公庁、国際機関、シンクタンクを中心に訪問し、米経済や国内政治状況などについて幅広い意見交換を行った。以下に今回の出張で感じたことを報告する。

(米国内政治状況):トランプ大統領は政治資本を無駄に費消

トランプ大統領の政権運営能力を懸念する声は多かった。大統領就任100日間の所謂「ハネムーン期間」で、重要政策を遂行するチャンスがあったにも拘らず、自身のロシアゲート疑惑などで政治資本を無駄に費消したとの評価のようだ。

実際、出張期間中も米メディアは連日ロシアゲートに関する新たな疑惑を報じており、トランプ政権はそちらへの対応を余儀なくされている印象を受けた。

一方、大統領弾劾の可能性が連日報じられていたが、弾劾には与党である下院共和党が鍵を握っているほか、実際にロシアゲートでトランプ大統領が直接関与した証拠がでていないことから、弾劾の可能性は現時点では低いとの評価が大宗であった。

しかしながら、秋口にかけて予算編成作業、税制改革、オバマケアの代替案、債務上限問題など政治日程が詰まっている中、8月の議会休会までの実質審議日数が30日程度しか残されておらず、ロシアゲートに関する問題への対処によって、政策実現の可能性が益々低下することへの懸念が聞かれた。

(予算・税制改革):大統領案に与党共和党も反対

予算・税制改革の動向については、議会周りや、財政や税制の専門家との意見交換を通じて情報収集を行ったが、現地においても情報が不足しており先行きが見通せないとの評価であった。

トランプ政権は、出張期間中の23日に予算教書の詳細版を発表したが、税制改革の効果による3%成長率への押上げは見込み、歳入が今後10年間で2.1兆ドル増加するとの試算を行う一方、税制改革議論が流動的なことを踏まえて、税制改革に伴うコストについては算入しておらず、非常に都合の良い試算となっている。これには、エコノミストをはじめ3%成長の前提も含めて批判的な声が多かった。

また、歳出面でも非国防の裁量的経費について、今後10年間で削減するとしている1.4兆ドルの内、0.9兆ドル分については、削減項目を特定しておらず、帳尻合わせの印象は拭えない。

このような非現実的な想定に加え、低所得者向けの公的医療制度であるメディケイドの予算を10年間で0.6兆ドル削減する案に対しては、民主党議員のほか、メディケイドに依存している選挙区選出の共和党議員からも反対の声がでているため、予算教書は既に"dead on arrival"(議会に提出された段階で廃案必至)とされており、トランプ政権が要求する予算案がそのまま実現する可能性はほぼ皆無とみられている。

一方、税制改革案では、個人、法人所得税の減税について、財源問題から規模は縮小されるものの、実現可能との見方が多かった。これは、減税については与野党問わず反対できる政治家はいないとみられているからだ。

もっとも、税制改革議論は時間がかかるほか、トランプ政権の政策遂行能力の欠如から年内の実現には懐疑的な声が大宗であった。

また、物議を醸しているライアン下院議長主導の法人税制改革案については、国境調整税が業種や地域によって恩恵に大きな差が出ることもあり、上下院共和党内で反発が強いとみられている。このため、専門家は同税の導入は困難との見方で一致している。

(米経済の評価):米経済に楽観的

米経済については、1-3月期の実質GDP成長率が前期比年率+1.2%(前期:+3.5%)と前期から低下したものの、季節調整の影響(*1)や暖冬による暖房需要などの減退が原因で米経済の基調は強いとの見方が支配的であった。

筆者は昨年、一昨年も出張しているが、米経済に対する現地の評価は今回が最も楽観的な印象を受けた。

一方、労働市場についても、完全雇用に近づいているとの認識は共有されていたものの、米企業の採用意欲が強いことを背景に、17年も雇用増加基調が持続するとの見方が大宗であった。

もっとも、雇用増加にも拘らず、生産性の伸びが低いこともあって、賃金上昇の伸びは穏やかとの見方が多かった。このため、原油価格の上昇が緩やかに留まるとの前提で、物価上昇は緩やかと予想されている。

また、金融政策については、概ねFRBの政策金利見通し(年内2回の追加利上げ)が支持されており、これまでの出張に比べて意見のバラつきが小さいと感じた。もっとも、バランスシート縮小の開始時期については、バランスシート縮小に伴う金融市場への影響を抑制するため、市場との対話を丁寧にすると年内開始は厳しいのではとの見方も一部であった。

(*1) 例年1-3月期の成長率が実力より低くでる一方、その反動で4-6月期が実力より高くでる傾向。

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(2017年5月31日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

経済研究部 主任研究員

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