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2018年04月24日 15時52分 JST | 更新 2018年04月24日 15時52分 JST

「割合」と「比」と「率」-疫学では、死亡率は「率」だが、乳児死亡率は「率」ではない !?:研究員の眼

実際の数値を読み解く上で、混乱を招く恐れもある。

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物事の現状を観測したり、過去の出来事を調査したりする場合、ある状態の出現や発生の頻度が問題になることがある。そして、頻度が高いものは、より注意深く、観測や調査が行われる。

それでは、頻度を定量的に表すにはどうすればいいだろうか。通常は、「割合」、「比」、「率」のいずれかが用いられる。これらの概念は、日常生活の中で自然に使われているもので、お互いによく似ている。それぞれの意味やニュアンスの違いを、あまり意識せずに使われることもあるかもしれない。

しかし、病気の発生原因を解き明かすことを目的とする疫学では、概念を正確に理解することが必要とされる。「割合」と「比」と「率」を混同すると、疾病の頻度を測定する基準が揺らいでしまうためだ。以下、疫学で用いられるそれぞれの概念を、簡単にみていこう。

「割合 (proportion)」

全体のなかで、ある特定の特徴をもつものが占める部分の大きさをいう。分子は、分母の部分集合である。「割合」は0から1の間の値をとる。分子と分母は同じ単位であり、「割合」には次元はない。

「比 (ratio)」

異なるもの同士を割り算して得た値をいう。分子と分母の両方に含まれるものがあっても構わない。「比」は0から無限大の間の値をとる。「比」の次元は、分子と分母の単位により、さまざまとなる。

「率 (rate)」

「比」の特殊な形で、分母が時間を表すものをいう。「率」は、0から無限大の間の値をとる。「率」の次元は時間のマイナス1乗となる。

定義だけを見ても、ピンとこないかもしれない。そこで、疫学でよく使われる頻度を表す用語をいくつか取り上げて、3つの分類をしてみよう。

・罹患率

ある集団で、分子を観察対象の疾病発生数、分母を各人の観察期間の合計としたもの。罹患率は「率」である。まあ、これは、当たり前のことかもしれない。

・累積罹患率

ある集団で、分子を集団の観察期間内の疾病発生数、分母を観察期間開始時の集団の人数としたもの。各人単位での観察をせずに、集団全体で観察するもので、発病の時期を特定しにくい高血圧、糖尿病、認知症などの病気で、罹患率に代わって用いられることが多い。累積罹患率は、分母を時間としていない。このため、累積罹患率は、「率」ではなく「割合」となる。

・有病率

ある時点で、集団内で、特定の疾患状態をもつ人のグループの大きさ。有病率は、「割合」である。

・死亡率

罹患率で、分子の観察対象の疾病発生数を死亡数に置き換えたもの。死亡率は、「率」となる。

・乳児死亡率

ある集団で、分子をある年に1歳未満で死亡した人の数、分母をその年の出生数としたもの。一般に、乳児死亡率の分子と分母は別人となる。生まれた乳児が同じ年に死亡すれば、分子と分母に含まれる。過去には、乳児死亡率が大きく変動したことがある。

1966年は丙午(ひのえうま)にあたり出生数が少なかったため、乳児死亡率が上昇した。翌1967年は、前年の出生数が少ないことの影響で死亡数が少なかったため、乳児死亡率が低下した。乳児死亡率は、「率」ではなく「比」なのである。

・致命率

致命率という用語には、2つの意味がある。

1つは、ある集団で、特定の疾患について死亡率を罹患率で割り算したもの。死亡率と罹患率の分子の死亡数と疾病発生数は、別人の可能性もある。このため、この意味の致命率は、「比」となる。

もう1つは、急性疾患などの患者の集団のうち、一定期間内に死亡した人の数を表すもの。一定期間内に、患者が死亡か回復かに分かれる疾患でよく用いられる。この意味の致命率は、「割合」となる。

まとめると、罹患率は「率」だが、累積罹患率や有病率は「割合」となる。死亡率は「率」だが、乳児死亡率は「比」。そして、致命率は、意味によって「比」や「割合」となる。

用語の概念の違いなど、日常では、あまり気にならないかもしれない。しかし、「割合」と「比」と「率」とで、その違いを踏まえておかないと、実際の数値を読み解く上で、混乱を招く恐れもある。たまには、こうした用語の概念の違いを確認してみることも必要と思われるが、いかがだろうか。

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(2018年4月3日「研究員の眼」より転載)
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保険研究部 主任研究員
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