セカンドライフ支援事業の 第Ⅱステージ

高齢化最先進国として世界の先頭を歩む日本において、年齢に関わらず活躍し続けられる社会「生涯現役社会」を真に創造していくことは時代の要請である。

高齢化最先進国として世界の先頭を歩む日本において、年齢に関わらず活躍し続けられる社会「生涯現役社会」を真に創造していくことは時代の要請である。この命題に対する一つのモデル事業として、筆者は千葉県柏市において2009~13年度にかけて、高齢者のセカンドライフの就労機会を拡大する「生きがい就労」事業開発に取り組んできた(東京大学高齢社会総合研究機構のジェロントロジー活動の一環)。その実績と成果については、基礎研レポート「セカンドライフ支援事業の軌跡~柏市生きがい就労事業の成果と課題~」(2013.6.13) の中で報告している。

(第Ⅰステージ:生きがい就労事業開発)

生きがい就労事業は、リタイアした高齢者(元会社員中心)が農業や子育て、学童保育、福祉サービス等の分野で、新たなキャリア創造を支援する取組みとして一定の成果があったと考えるが、2つの課題が残された。

その一つは、当事業を推進する機能を地域社会に実装することである。モデル事業の宿命ではあるが、当事業を育んできた東京大学他が未来永劫、事業を運営し続けることは、大学の役割等を考えても困難であり、持続可能な事業として地域社会に継承していくことが求められる。

もう一つは、高齢者の極めて多様なセカンドライフのニーズに応える仕組みのさらなる改善(拡充)である。働きたいというニーズも、業種、賃金、勤務時間等をセグメントすれば様々であり、起業したいという声も非常に多い。生きがい就労事業が開拓した事業はそのニーズの一部にすぎない。

また就労だけに限らず、NPOやボランティア、生涯学習や地域活動等、多様なニーズが確認される。地域社会(第三者)がどこまで個人(高齢者)のセカンドライフに介入すべきかという議論もなくはないが、活き活きと生産的な活動に従事する高齢者が増えることは、地域の活性化や地域力の向上、引いては地域の医療福祉財政の好転にもつながることが期待される。

(第Ⅱステージ:新たな2つのセカンドライフ支援事業)

これらの残された課題に対して東京大学高齢社会総合研究機構(セカンドライフ就労研究チーム)では、2014年度からセカンドライフ支援事業の第Ⅱステージと称するべき2つの取組みをスタートさせた。

一つは、前者の課題の解決に向けた「シルバー人材センターへの生きがい就労機能の継承」である。シルバー人材センターは、原則として全国の市区町村単位に置かれており(2013年度末1300団体・センター。会員数73万人)(*1)、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に基づいて事業を行う公共的組織である。

高齢者の雇用拡大の鍵を握る極めて重要な組織であるが、活用実績の低さ(*2)が物語るように、課題は少なくない。リタイアした高齢者、特にホワイトカラー出身の高齢者が魅力を感じられるような仕事は残念ながら少ない実態にある。

市場の問題や法律で縛られる仕事内容の制約等、課題も多いが、現在、柏市及び柏市シルバー人材センターとも協働しながら、生きがい就労事業で培ってきた活躍場所の「開拓力」であったり、高齢者と仕事をきめ細かくマッチングさせる「コーディネート力」をセンターの機能に組み込むことができないか、その方策を模索している(*3)。

もう一つは、後者の課題の解決に向けた「セカンドライフ支援・プラットフォーム事業の創造」である。リタイアした高齢者が、「これから何をしたいのか」「どのような活動に参加したいのか」、それらのニーズを一元的に受け止め、適所に誘導する新たな地域社会の仕組みを創造する取組みである。

柏市及び所管の関係部署・機関(福祉政策課、子育て支援課、生涯学習課、保健所、高齢者支援課、福祉活動推進課、協働推進課、商工振興課、農政課、社会福祉協議会、商工会議所、シルバー人材センター等)のネットワーク化をはかり、活躍場所の情報を一元化しつつ、高齢者のセカンドライフニーズとのマッチングをはかる仕組みである。昨年(2014年)11月に柏市役所内に専用の相談窓口を設置し(同時にHPを開設)、これからトライ&エラーの実績を積み重ねていくところである(*4)。

以上2つの新たな取組みについては、「就労」の部分で重複的な活動を展開しており、いずれは融合あるいは機能分担のルールを整備していく必要があるが、当面は同時並行で取組みを進め、これら事業の最適化をはかっていきたいと考えている。

なお、国においても、2015年2月から厚生労働省内に「生涯現役社会の実現に向けた雇用・就業環境の整備に関する検討会」(座長:清家篤(慶應義塾長))が設置された。そうした国レベルの議論にも参考になるように、第Ⅱステージの成功・失敗のノウハウを今後も適宜発信していきたいと考える。

*1 全国シルバー人材センター事業協会HPより

*2 退職した高齢者が次の仕事に就く際にシルバー人材センターを利用した割合は4%(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「高年齢者の継続雇用等、就業実態に関する調査」(2012年3月))

*3 独立行政法人 科学技術振興機構(JST/RISTEX)研究成果実装支援プログラムの平成24年度採択事業として実施

*4 厚生労働省緊急雇用創出事業(地域人づくり事業)平成24-25年度採択事業として実施

関連レポート

(2015年3月13日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 主任研究員

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