スポーツのサーブ権交代のルールは勝敗にどう影響しているのか-各種球技のサーブ権のルールの意味合いを知れば、オリンピックをより楽しめるかも:研究員の眼

テニスや卓球などの球技においては、サーブ権を有しているかどうかで、試合の勝敗に影響してくることになる。こうしたサーブ権交代のルールについて考えてみる。

はじめに

いよいよ8月5日から、ブラジルでリオ・オリンピックが開催される。

ブラジルは、現在、政治が混乱し、経済が低迷していることに加えて、ジカ熱の感染拡大や豚インフルエンザの流行が懸念され、治安水準も問題視される等、大きな課題を抱えている状況にある。

さらには、ロシアのドーピング問題への対応も発生する等、いろいろと大変だとは思うが、無事オリンピックが開催されて、日本選手が活躍することを是非期待したいと思っている。

ところで、各種競技の中で、テニス、卓球、バレーボール、バドミントン等の球技は、個人的に学生時代に、テニスや卓球をプレーしていたこともあり、深い関心を持ってみていきたいと思っている。

こうした球技においては、サーバーとレシーバーという概念があり、サーブ権を有しているかどうかで、各ゲームのポイントの獲得ひいては試合の勝敗に影響してくることになる。今回は、こうしたサーブ権交代のルールについて考えてみる。

サーブ権交代のルール

ひとえに、サーブ権といっても、実は球技の種類によって、そのルールやゲーム(ポイント)の与え方については一律ではない(*1)。

例えば、テニスは、サーブはゲーム単位(1ゲームは4ポイント先取制、お互いに3ポイントで同点になったときは「デュース」となり、 そのあと2ポイント差がつくまでゲームは行われる)で1人の選手に与えられる。1ゲーム毎にサーブ権が交代し、1セットは6ゲーム先取となっている。

卓球は、サーブ権が1人の選手に2本ずつ、交互に与えられる。以前は5本ずつであったが、2001年に1ゲーム21点制から11点制に変更された時に、2本ずつとなっている。なお、卓球では、セットにあたるものがゲーム、ゲームに当たるものがポイント(点)となっている。

バレーボールでは、サーブ権は得点を挙げたチームに与えられる。従って、得点を挙げ続ける限りにおいては、何回もサーブを続けることになる。

なお、以前は「サイドアウト制」(サービスポイント制)といって、サーブ権を有しているチームのみが得点できる制度を採用していたが、1999年から「ラリーポイント制」といって、サーブ権に関係なく得点できる制度に移行している(*2)。また、1セットは25ポイント(第5セットのみ15ポイント)制となっている。

バドミントンも、以前はサービスポイント制を採用していたが、バレーボールと同様に、2006年10月から、1ゲーム21点先取のラリーポイント制を採用している(*3)。なお、バドミントンでも、セットにあたるものがゲーム、ゲームに当たるものがポイント(点)となっている。

なお、いずれの球技においても、セット(ゲーム)を取得するためには、相手に対して2点差を付けている必要がある。

こうして述べてみると、昔自分たちが若いころにプレーしていたときと比べて、サーブ権交代に関わるルールも大きく変わったものだと改めて認識させられる。

サーブ権の有無による有利・不利

さて、こうしたサーブ権交代に関するルールの違いや変更が、試合の有利不利にどう働くのかは気になるところである。

まずは、球技によって、サーバーとレシーバーの有利・不利関係は異なっている。

一般的には、テニスの場合、サーバーが有利であると考えられており、勝利のためには、自分のサービスゲームを確保することが極めて重要になっている。卓球の場合も、テニスほどではないが、自分のサービスゲームは有利と考えられているのではないか、と思われる。

これに対して、バレーボールの場合には、もちろん、強力なサーブで相手を崩すこともできるとみられるが、最初にスパイク等によるアタック権を得ることができることから、レシーブを受けるチームが有利と考えられている。

バドミントンの場合も、テニスのような上からの強力なサービスを打つことが認められておらず、必ず腰より下からのサービスとなるため、サーバーが有利ということにはなっていないように思われる。ただし、バレーボールのように必ずレシーバーが有利ということでもないらしい。

なお、バレーボールやバドミントンのような、勝者がサーブ権を保持するようなゲームの場合、サーバーとレシーバーの有利不利を過去の試合結果に基づいて分析することも行われている。

ただし、この場合には、強い選手ほどサーバーになりやすいのでサーバーの勝率が高くなってしまう、という内在的な傾向を、何らかの手法で補正する必要が出てくるので、なかなか難しいものとなる。

サーブ権交代のルールによる勝敗への影響

以上のように、球技の種類によって、サーブ権の有無が有利・不利いずれに働く場合もあるが、以下では、サーブ権がある方が、先手を取れるという意味において、一律に有利である場合を念頭において考える(そうでない場合には、逆に考えていただければよい)。

問題は、最初にサーブする選手の勝率が、サーブ権交代に関するルールによって、どのような影響を受けるのかという点にある。あるスポーツにおいて、試合に勝利するために、n個のポイントを獲得する必要があるとして、サーブ権交代のルールに関して、以下の3つのシンプルなケースを考える。

ケースⅠ 直前のゲームの勝者(ポイント獲得者)がサーブ権を有する。

ケースⅡ 直前のゲームの敗者がサーブ権を有する。

ケースⅢ 直前のゲームの勝敗に関わらず、常に交互にサーブ権を有する。

この場合に、最初にサーブする選手にとって、どれが最も有利なルールか、という問題を考えてみる。感覚的には、ケースⅠが最も有利なのではないかと思ってしまうかもしれない。

答えは、選手の実力が同じであり、各ゲームが互いに独立であるという前提の下では、

これらのいずれのルールを採用しても、最初にサーブする選手の勝率には影響しない。

ということが知られている(誤解しないでもらいたいのは、あくまでも最初にサーブする選手の勝率が変わらない、ということであり、(サーブ権が有利に働くという前提の下では)最初にサーブする選手の勝率が最初にレシーブを行う人の勝率よりも高いことは言うまでもない)。

これは、ある意味で、驚くべき事実であるように思われるかもしれないが、いずれにしても、「最初のサーバーが勝利するためには、(2n―1)回のラウンドで、サーブは高々n回、レシーブは高々(nー1)回までしか行わないことから、サーブとレシーブの順番は、勝率に影響しない。」ということになる(「確率パズルの迷宮」(岩沢宏和著))。

これについて、nが小さいときには、場合分けをして検証してみることもできるので、参考までに、一番シンプルなn=2の場合について、最後に計算例を示しておく。

過去において、サーブ権交代に関するいくつかの改正も行なわれてきているものの、ベースにこうした観点からの公平性の確保が担保されているということが重要だと理解できる。

各種の研究

今回は、あくまでもサーブ権交代のルールが勝率に与える影響について述べたが、そもそも、各種のスポーツのサーブ権交代のルール等に基づく勝率の状況については、各種の研究が行われており、大変興味深い。

サーバーとしての勝率とレシーバーとしての勝率の関係によっても、勝率が影響を受けることになる。こうした内容を、数学的に定式化し、モデルを考えてみることも研究されている。

まとめ

以上、あくまでも、理論上の話を述べてきたが、実際には、2人の選手(あるいは2つのチーム)の実力等には差異があるし、心理的な面も影響することになる。

2人の選手の実力の差異といっても、各選手の特徴があり、サーブが得意な人もいれば、レシーブが得意な人もいる。さらには、バレーボールの場合には、チームのメンバーの誰がサーバーになるのかによっても状況が異なってくることにもなる。

心理的にも、相手にサーブ権をずっと与えて、大差を付けられたら、いくら後半が自分に有利になるとわかっていても、ゲームへの集中力をなくしてしまうかもしれない。

逆に、追い上げ型の人間にとっては、後半に自分にサーブ権が与えられていて、有利な状況にあるということが強い心の支えになるかもしれない。

このように、スポーツは極めてメンタルな要素による影響も大きいことから、単純に数学的理論に基づく結果通りになるとは限らない、ことはいうまでもない。

だからこそ、実際の選手にとっては厳しいことなのだが、観客の立場からは、スポーツをみることの醍醐味があり、大変興味深く楽しめる要素なのだと思われる。

最後に、今一度、日本選手のみならず、全てのオリンピック参加選手が、心置きなく、全力を発揮して、好成績を収められることを祈念したい。

(*1) なお、テニス、卓球、バドミントンでは、ダブルスもあり、その場合にはルール等も異なり、チームという概念で捉える必要が出てくる場合もあるが、以下では、基本的にはシングルスを想定して記載している。

(*2) これは、「サイドアウト制」だと、得点の加算に時間がかかり、その予測も困難だったことから、テレビの放映時間内に試合を終了させることを主な目的として、変更されたとされている。

(*3) 現在、サービスポイント制を採用している例としては、スカッシュにおいて、3ゲーム方式で、1ゲームを9点先取とする場合に、サーブ権がある場合のみにポイントが取れる方式(ハンドアウト方式と呼ばれている)がある。ただし、正式な試合は、5ゲーム方式で、1ゲームを11点先取とするラリーポイント制で行われている。

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(2016年7月25日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

取締役 保険研究部 研究理事

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