セクシー素数-お堅いイメージの数学にも一見粋な名称の概念が存在しているって知っていましたか:研究員の眼

皆さん、「セクシー素数」という概念をご存知だろうか。

はじめに

皆さん、「セクシー素数」という概念をご存知だろうか。

昔、NHKのテレビ番組「サラリーマンNEO」で「セクスィー部長」なるコーナーがあり、俳優の沢村一樹氏が演じる「色香恋次郎」が男の色気で問題を解決するコントを演じていた。ここでは、「セクシー」ではなくて、より英語の発音に近い「セクスィー」という表記が用いられていた。

実は、「セクシー素数(sexy primes)」の「セクシー」の意味するところは、このような性を意味する「sex」に由来しているのではなくて、ラテン語で6(six)を意味する「sex」に由来している。

今回は、「セクシー素数」を初めとした素数に絡む名称等について紹介したい。

双子素数

まずは、「素数」とは、「1 より大きい自然数で、正の約数が 1 と自分自身のみである数」のことをいう。よく知られているように素数は無数存在している。また、素数については、今なお未解決な問題がいくつか存在している。

そのうちの1つに、「双子素数が無数存在している」との予想がある。「双子素数(twin primes)」とは、「差が 2 である2つの素数の組(p, p + 2)」のことである。例えば、(3, 5), (5, 7), (11, 13), (17, 19),等がこれに該当している。

いとこ素数、セクシー素数

この概念の延長として、「差が 4 である2つの素数の組(p, p + 4)」のことを「いとこ素数(cousin primes)」と呼んでいる。「セクシー素数(sexy primes)」とは、「差が 6 である2つの素数の組(p, p + 6)」のことをいう。これを聞いてしまうと、何だ、そんなことかと思う人も多いかもしれない。

なぜ、「いとこ素数」というのかについては、明確ではないが、いとこが4親等にあたるから、と言われているようである。双子は2親等だから、なるほどと思われるが真偽のほどはわからない。

いずれにしても、これに従うと「セクシー素数」は、6親等に相当する「はとこ素数」ということになるが、これではあまりにも味気ないものになっていたといえるかもしれない。因みに、「はとこ」は英語で「second cousin」という。

なお、「いとこ素数」も「セクシー素数」も無数に存在しているかどうかわかっていない。

素数の組のその他の概念の名称

「双子素数」の概念の延長として、「三つ子素数(prime triplet)」「四つ子素数(prime quadruplet)」等といった概念が存在する。

双子素数は「2つの素数の組 (p, p + 2)」と定義されるが、3つの素数の組である「三つ子素数」は「(p, p + 2, p + 4)」とは定義されておらず、3個の素数の組で、(p, p + 2, p + 6) または (p, p + 4, p + 6) のタイプのものと定義される。

これは、(p, p + 2, p + 4)の形の素数の組を考えた場合、3つの数の中に必ず3の倍数が存在することから、結果的に3つの数が全て素数になるのは (3, 5, 7) に限られることによる。

「三つ子素数」も無数に存在すると予想されているが未だ証明されていない。

「四つ子素数」とは、4個の素数の組で、(p, p + 2, p + 6, p + 8) のタイプのもののことをいう。ここで、先に述べた定義から明らかなように、(p, p + 2) および (p+ 6, p + 8) はいずれも双子素数であり、(p + 2, p+ 6) はいとこ素数であり、(p, p+ 6) および (p + 2, p+ 8) はいずれもセクシー素数であり、(p, p + 2, p + 6) および (p + 2, p + 6, p + 8) はいずれも三つ子素数である、というように、「四つ子素数」はその構成要素にこれまでの概念の素数を含んでいることになる。

「四つ子素数」が無数に存在するのかどうかについても未解決である。

なお、さらに、こうした考え方を延長した「五つ子素数(prime quintuplet)」「六つ子素数」(prime sextuplet)等といった概念も存在し、これらについても無数に存在するかどうかはわかっていない。

上記の概念延長と同様な考え方に基づいて、「いとこ素数」「セクシー素数」の概念を拡大することも考えられる。例えば「セクシー素数の3つ組(sexy prime triplets)」(p, p + 6, p +12)、「セクシー素数の4つ組(sexy prime quadruplet)」(p, p + 6, p + 12, p + 18)、「セクシー素数の5つ組(sexy prime quintuplet)」(p, p + 6, p + 12, p + 18, p + 24)といった概念もある。

「セクシー素数の3つ組」や「セクシー素数の4つ組」は無数に存在するかどうかわかっていないが、「セクシー素数の5つ組」は、(5, 11, 17, 23, 29)に限られる。

これは、交差6の等差数列を5つ並べた時に、5と6が互いに素であることから、5つの数字のうち必ずどれかは5で割り切れることになるからである。従って、また29に6を加えた35は素数でないことから、「セクシー素数の6つ組以上」も存在しないことになる。

一方で、セクシー素数の延長である「差が 8 である2つの素数(p, p + 8)」(例えば、(3, 11), (5, 13),等)については、特段の名称は与えられていないようである。

2017年は、セクシー素数の年

今年2017年は「セクシー素数」の年である。というのも、2017は2011とのセット(2011、2017)で「セクシー素数」に該当しているからである。何かの時の話題にしてでももらえればと思う。

因みに2023(=2017+6)も一見すると素数に見え、2011、2017と合わせて「セクシー素数の3つ組」を構成しているように思われるかもしれないが、2023は、7、17、119、289で割り切れる。

その他の素数の名称

素数に関連しては、ここで挙げた以外にもいろいろな組み合わせ等に対する名称が付与されている。

例えば、「ソフィー・ジェルマン素数(Sophie Germain prime)」というのは、pも 2p +1も、ともに素数となる(p, 2p +1)の組におけるpのことである。この時、2p +1については、「安全素数(safe prime)」と呼ばれる。安全素数という名前は暗号理論に由来しているが、ここでは詳しくは説明しない。

素数についての予想

いずれにしても、自然数あるいは実数の中での素数の分布状況については、高度に非自明で、「リーマン予想」などの現代数学の重要な問題との興味深い結び付きも発見されている。

なお、「リーマン予想」とは、ドイツの数学者ベルンハルト・リーマンによって提唱された、ゼータ関数の零点の分布に関する予想であり、未だ解決されていない問題である。

「ゴールドバッハの予想」と呼ばれているのは、「全ての 2 よりも大きな偶数は二つの素数の和として表すことができる。」というものである。例えば、12=5+7、20=3+17=7+13 といった具合である。

このように、素数に関しては、未解決問題がいくつか存在しており、複雑で不思議な世界を構築している。だからこそ、多くの人を惹き付ける魅力を有したものとなっている。

まとめ

セクシー素数という名称が、「受け」を狙って付けられたものかどうかは定かではないが、結果的にこうした「インパクトのある」名称の付与を通じて、素数そのものや一般の人にはあまり馴染みのない概念に、より多くの人の興味・関心が惹き寄せられ、これに関する研究についての理解が深まっていくのであれば、それはそれで大きな意義があり、重要な役割を果たしているものと思われる。

その意味で、以前の研究員の眼「名前の付け方って、結構重要です-「あ」や「A」から始まる名前の優位性-」(2016.5.10)でも述べたが、今回は別の観点から、「名称の付け方も結構重要だ」と感じた次第である。

関連レポート

(2017年8月1日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

取締役 保険研究部 研究理事

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