「ポケモンGO」と高齢社会(その3)-SNS時代の「シルバー民主主義」:研究員の眼

市民一人ひとりの意思を表明・集約するSNS時代は、「シルバー民主主義」を克服する上での世代を超えた民主主義成熟への重要な一歩ではないだろうか。

先日行われた東京都知事選挙では、小池百合子氏が291万票あまりを獲得、次点の増田寛也氏に112万票近い差をつけて当選した。

小池さんが圧勝した要因のひとつは、SNSを活用したネット選挙を展開、多数の浮動票を獲得したことだろう。

8年前の米国大統領選では市民活動の経験豊富なオバマ氏がSNSを活用し、"Yes, We Can"というメッセージを連呼して勝利したことも記憶に残っている。

都知事選に先立って行われた参院選などの国政選挙における世論調査の場合、政党支持率に関する設問の選択肢の「支持なし」はきわめて重要になる。

政党支持者を中心とする組織票だけでは当選には不十分で、多くの浮動票を集めることが勝敗を決するからだ。近年ではSNSの普及が浮動票を獲得する有効な手段となり、選挙の勝敗の行方を大きく左右する。

このような社会現象は、だれかの小さなささやき(Tweet)が多くの人の行動に伝播する事例だろう。子どものころからラインやツイッターを利用してきた若いデジタル世代にとっては、特別な現象ではないのかもしれない。

選挙権年齢も18歳に引き下げられ、今後はますますSNSによる浮動票の獲得など、人々の新たな投票行動が選挙結果に大きな影響をおよぼすことになるだろう。

少子高齢化という人口構造の変化が高齢者中心の政策展開につながり、社会の持続可能性が損なわれるのではないかという「シルバー民主主義」に対する危惧がある。

しかし、SNS時代には組織票に偏らず、若者と候補者が直接つながり、国民一人ひとりの声が政治に反映されることも期待できる。

一方、目先の人気取りで民意が誘導されるポピュリズム的な民衆主義に陥るリスクも否定できない。

スマートフォン用ゲーム『ポケモンGO』の人気がすごい。スマホ所有者の4人にひとりがプレイを楽しんでいるそうだ。

先日の夜、いつも帰宅途中に通る公園で、多くのスマホ片手の人が集まっている光景を目にした。そこはポケモンがたくさん出現するポケストップらしい。

SNSで情報の共有が瞬く間に広がり、夏休み中の子どもや若い世代を中心に中高年を含む大勢の人が集まったのだろう。『ポケモンGO』を知らない人にとっては、なんとも奇妙で不可解な光景に思われたのではないか。

社会現象化している『ポケモンGO』は、ゲームエリアの設定などをめぐりさまざまな議論を喚起している。SNS時代の民意形成のあり方もそのひとつかもしれない。

従来の組織や集団に縛られず市民一人ひとりの意思を表明・集約するSNS時代は、大衆に迎合する民衆主義とは諸刃の剣ながらも、「シルバー民主主義」を克服する上での世代を超えた民主主義成熟への重要な一歩ではないだろうか。

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(2016年8月9日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 主任研究員

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