複製社会とキャラ立ち

アップル社の発売したiPhoneがヒットし、いわゆるスマホが普及すると、他の多くのメーカーが同じようなスマホの販売を始めた。インターネット上でSNSが流行すると、類似のSNSサービスが次々に立ち上がった。口コミサイトやまとめサイトとなどのサービスも同様である。

アップル社の発売したiPhoneがヒットし、いわゆるスマホが普及すると、他の多くのメーカーが同じようなスマホの販売を始めた。インターネット上でSNSが流行すると、類似のSNSサービスが次々に立ち上がった。口コミサイトやまとめサイトとなどのサービスも同様である。

現代は、モノやサービスを真似しやすい社会ではないだろうか、と思うことがある。

機械化、グローバル化、情報化、製造業におけるモジュール化などのさまざまな要素が、モノやサービスのコピーを容易にしているように思う。これは、複製コストの低下と言い換えられるかもしれない。

複製コストの低下はニセ物ブランド(模倣品)の氾濫や、もっと単純に個人による違法なコピペ(コピー&ペースト)、違法アップロード/ダウンロードによる著作権侵害などといった犯罪を生む側面もあるものの、企業(あるいは個人)が市場に参入することが簡単になり(参入障壁が低くなり)、競争によってより良い商品(モノ・サービス)が生まれやすくなるという恩恵ももたらしている。

一方、複製コストが低下する、つまり何らかの「機能」を複製することが簡単になるということは、その機能自身が持つ付加価値が低下しやすいということでもある。そのため、価値ある商品を開発して利益を得るためには、複製しやすい「機能」ではない部分で、価値を高める必要がある。

今まで市場に存在しなかった新しい商品を生み出せば、先行者利益は得られるかもしれないが、複製コストが下がっているため、すぐに類似の商品が販売されて、利益は薄くなるだろう。結局、高い付加価値を維持するためには、複製しにくい部分が必要になる。

複製しにくい価値の典型例は「ブランド」だろう。

「機能」としては同じものを作ることができても、ブランドは複製することはできない。つまり、希少性が保たれ、高い価値を維持しやすくなる。他者に真似できないように研究・開発に注力して機能を高度化するなどの方法もありうるが、現代では、技術の進歩は追いつかれやすく、高度な機能も短期間で複製コストが低下してしまう。

また、そもそも消費者が高度な機能を欲しいと思っていない可能性もある。iPhone以外の高機能スマホが多く発売されている現在でも、iPhoneが一定のシェアを維持できているのは、市場に新しいものを投入したという先行者利益に加えて、非常に高いブランド力が存在するためだ。しばしば指摘されるように、スマホを作る技術は多くのメーカーが持っていて、決してアップル社がズバ抜けて高い技術を誇っている訳ではない。

もちろん、複製しにくい価値を生み出すことは「言うは易く行うは難し」である。特に、ブランドの構築など「複製しにくいコト・モノ」を生み出し、付加価値に結びつけることは容易ではない。

その理由のひとつとして、生産性の向上を目指すことに慣れている企業にとっては、「複製しにくいコト・モノ」は基本的に厭われるということが考えられる。生産性を向上させようとすると、どうしても効率化・簡素化・マニュアル化など、むしろ複製を容易にする方向を目指しがちになってしまうのではないだろうか。

一般には、需要が供給を大幅に上回っている状態で、供給を増やせば(生産性を向上させれば)、全体としての利益が増加する。しかし、「複製社会」では多くの企業(個人)が供給を行うことができるので増加分の利益が分散しやすい。さらに、必ずしも「複製しにくいこと」が「高い付加価値」に結びつくとは限らない。

「高い付加価値」に結びつけるためには、消費者に価値を認めてもらい、需要を生み出すというハードルをクリアする必要がある。

したがって、「複製社会」が成熟化すればするほど、その社会で生き延びるためには、どこかに効率化による生産性の向上とは異なる「真似できない工程」を盛り込むことが必要となってくるように思う。

最近、「ゆるキャラ(ゆるいマスコットキャラクター)」がブームである。ただ、企業や自治体が、組織の知名度や価値を高めるために「ゆるキャラ」を導入したとしても、それだけでは単なる真似(どこでもやっていること、できること)であり、価値に乏しい。その言動やtwitterの発言などに真似できない要素があってこそ付加価値となる、つまりキャラ立ちする(個性が際立ったキャラクターとなる)のである(もちろん消費者に受け入れられることが必要である)。

企業や「ゆるキャラ」だけでなく、複製社会で過ごす人間自身も同じかもしれない。複製コストが低下していく社会で生き延びていく(自身の付加価値を高めていく)ためには、どこかに「真似できない部分」を持つこと、つまり、キャラ立ちが必要なのではないだろうか。

役に立つ知識・技術と言えば「英語」や「IT」などが挙げられるが、これらは複製社会で生き延びる決定的な武器にはなり得ないかもしれない。体系化され学習しやすい知識や技術は、商品で言うところの真似しやすい「機能」に似ている。よほど高度な知識や技術でない限り、高い知識・技術を持っていても(商品で言うところの「機能」を有していても)、複製が容易なため、希少性に乏しくなってしまう。

複製社会が成熟化してきた日本のような社会で活躍できる人は、キャラ立ちし、そのキャラが広く受け入れられた人と言えるのではないだろうか。役に立つ知識や技術を保有しているだけでなく、人間的な魅力があり、その人だから、と言われるような人が活躍するのではないだろうか。また逆に、そういった自身の魅力を発揮していかないと、活躍が難しくなる社会になりつつあるかもしれない。

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株式会社ニッセイ基礎研究所

経済研究部 研究員

(2014年8月27日「研究員の眼」より転載)

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