マンション、ふたつの高齢化問題-"長寿時代"の住まいづくりを考える:研究員の眼

分譲マンションには「ふたつの高齢化問題」がある。

総務省「平成25年住宅・土地統計調査」によると、総住宅数は6,063万戸、「居住世帯のある住宅」は5,210万戸で、そのうち一戸建が2,860万戸(54.9%)、共同住宅が2,209万戸(42.4%)となっている。

共同住宅は過去30年間に2.4倍に増加、東京都の共同住宅率は70.0%にも上り、都市部の共同住宅居住者は多い。一方、国土交通省「平成25年度マンション総合調査」では、分譲マンションストック数は約601万戸あり、分譲マンションは今日の都市部の代表的な住まいのひとつと言えるだろう。

分譲マンションは1950年代後半から造られ、近年では年間10~20万戸が新たに供給されている。最初は富裕層向けだったが、やがて多くの人が住宅すごろくの"あがり"と考えた一戸建住宅に至る経過的居住形態として普及した。

現在の分譲マンションは居住面積を含む居住品質や耐久性が向上し、ファミリー世帯にとっても"終の棲家"との位置づけが強くなってきた。

分譲マンションには「ふたつの高齢化問題」がある。

ひとつは居住者の高齢化に伴う問題だ。階段や段差の解消など建物のバリアフリー化は進んでいるが、一人暮らしのお年寄りが増え、社会的孤立や孤独死などが大きな問題になっている。

マンションはプライバシーや居住の匿名性が重視される一方、高齢化が進んだ今日、コミュニティの希薄化が大きな課題になっているのだ。

もうひとつは建物自体の高齢化、即ち老朽化問題だ。特に旧耐震のマンション(*1)は全体の2割程度を占め、安全性に対する懸念も大きい。

また、居住者の高齢化に伴い管理組合の役員不在や機能低下が適切な維持管理を困難にしたり、居住者の死亡後に相続されずに空き家になったりするケースもある。

今後、マンションの長寿命化に伴い適切な維持管理が行われないとスラム化する恐れもあるのだが、分譲マンションには区分所有権が設定されており、解体や建替えの合意形成が難しいのが実情だ。

今後、永住の居住形態として良好な分譲マンションストックを形成するには、大規模修繕を適切に実施し、耐用年数まで使った後に円滑に解体か建替えを行うライフサイクルマネジメントが重要だ。

そのためのスキームとしては、区分所有権の解除を確実に行える定期借地権付きの分譲マンションの建設や自動車の廃車時のリサイクル券のようにマンション分譲時に解体費用を担保することが必要だ。今後は短期間のスクラップ&ビルドを繰り返すのではなく、マンションの長寿化を図らねばならない。

長寿化する人生の変化に柔軟に対応する空間・設備への変更を可能にし、大規模修繕を経済的に行える施工法や建築資材の開発を行うなど、"長寿時代"に相応しい住まいづくりが求められる。

(*1) 昭和56年5月以前に適用されていた旧耐震基準に基づき設計・建築されたもの

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(2016年3月1日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 主任研究員

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