都道府県別出生率と「女性活躍」-データ分析が示す都道府県別出生率と働く女性の関係性:研究員の眼

「働いている、または即戦力として働く見込みのある女性の割合」と「出生率」の関係が果たしてあるのかどうか、統計的に検証してみる。
Toshimasa Ishibashi/Flickr

【はじめに】

厚生労働省が2014年の人口動態統計を発表した。

残念ながらわが国の合計特殊出生率(以下、出生率)は1.42と9年ぶりに0.01ポイント減少に転じている。

都道府県別にみると、最低は東京の1.15で、最高は沖縄の1.86である。

出生率が低迷するわが国において、沖縄県はいまだ突出した出生率を誇っている(図表1)。2014年の沖縄県の出生率は昨年よりも低下したとはいえ1.86であった。全体的に見ると沖縄・九州において出生率が高い。

「都道府県別の出生率の高低差はなぜ生じているのか。」

この理由について、筆者は取材などで「東京や大阪など大都市では出生率が低い。女性の社会進出で出生率は下がっているのではないか?」という質問を受けることが未だに少なくない。

そこで本稿では、その回答を統計的に探るべく、都道府県別の出生率と女性活躍の指標の一つとなる「女性労働力率」のデータを用いて両者の相関分析を試みた。

【都道府県データで見た女性労働力率と出生率の相関関係】

国立社会保障・人口問題研究所が発表している人口統計資料集2015年と厚生労働省の平成26年度人口動態統計月報年計のデータを利用して、各都道府県の「出生率」と「女性労働力率」の相関(異なるデータ間の関係性の強さ・有無)を分析した結果が図表2である。

女性活躍推進や少子化対策に政府が力を入れている現在、都道府県別の「働いている、または即戦力として働く見込みのある女性の割合」と「出生率」の関係が果たしてあるのかどうか、同分析で見ることが可能である。

ちなみに「女性労働力率」とは、15歳以上の女性人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合を示す指標である。

このうち「完全失業者」とは、仕事がないだけであって仕事さえあればすぐに就業する意思がある者(国の調査期間中に仕事はしていなかったが、求職活動中または求職活動の結果待ちをしており、仕事があればすぐに就職できる者)をさしている。

各都道府県の女性労働力率(全年齢階層、年齢階層別)と出生率の相関係数は、以下の通りとなった(図表2)。

都道府県データによる女性労働力率と出生率の関係を見ると、出生率と女性労働力率(総数)だけでは両者にまったく関係がないように見える。つまり、「女性活躍」と出生率の間には関係性が見られない。

また、15歳から29歳という日本の第一子平均出産年齢30.4歳(平成25年数値・厚生労働省発表)にとどかない年齢層での、女性労働力率と出生率との間にも相関が見られなかった。

しかしながら、第一子出産後から子どもが大学院を卒業するくらいまでとみられる30歳から59歳の年齢階層においては、女性労働力率と出生率との間にははっきりと「中程度の正の相関がある」ことが判明した。

この場合、

①出生率が高いほど子育て期の女性労働力率が高い

②子育て期の女性労働力率が高いほど出生率が高い

のどちらとも推定が可能であるが、いずれにしても第一子出産年齢の平均から考えると「子育て期にあたる年齢の働く女性」が多い都道府県のほうが、出生率が高い、ということがわかる。

少なくとも「女性が社会進出しているから、出生率が低い」という考え方は統計的には否定されたのである。

【分析結果からの示唆】

子育て期の女性が経済力をもっているエリアほど出生率が高い。共働きで子育ての財力があるので妊娠出産に取り組む、あるいは、子育てと仕事の双方にとりくみたい女性が増えている等、理由は様々であろうが、「女性の社会進出は出生率を低下させていない(むしろ子育て期の女性においては正の相関がある)」日本の現状が垣間見えた。

女性活躍推進(女性労働力率の上昇)そのものは出生率上昇に向かい風ではない。

しかしながら、働きながら「早く」産める労働環境を整備する、これが伴わなければ出生率の大きな上昇は望めないことは生物学的に確かである。

晩産化を阻止しつつ女性が活躍できる社会作りを政府・民間一体となって推進すべきであると考えている。

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(2015年7月13日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 研究員

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