「女性活用・女性活躍」で女性が苦しまないために

女性活用・女性登用対策があちらこちらで叫ばれているにも関わらず、不思議なくらい、この「女性のキャリア存続を根幹から揺るがしかねない問題」の観点からの対策が目立ってこない。

女性が真に幸せなキャリアデザインを描くため、私たちが本当に知らなくてはならないこと。

【フランス女性から見た日本の女性の不思議】

少子化が進む先進国の中で最も高い出生率を誇るフランス。

世界保健機関(WHO)のWorld Health Statistics 2013によれば、フランスの合計特殊出生率は2.0(122位/193カ国)である。それに対し、日本は先進国の中でも最下位レベルで低迷しており、いまだ1.4(同179位)となっている。193カ国の中央値2.3に着々と近づいているフランス、出生率1.9の北欧諸国やイギリスに対し、日本は今まさに人口急減時代に突入したといって過言ではない。

フランスでは、隣国ドイツへの歴史的な対抗意識もあいまって積極的な人口増強策がとられており、このフランスで教育を受けている女性たちからみると、日本の女性の出産への考え方は「信じられない」レベルである。

私がこのことを最初に痛感させられたのは2006年に開催された第7回日仏合同セミナーである。セミナーのテーマは「日本における少子化問題-フランスとの比較」であった。

当時、高齢出産を間近に控えていたこともあり、自らの経験も踏まえて大変興味を持って参加した。官民専門家・有識者からの数ある報告の中で、まさに「心に刺さった」講演は、当時も現在も上智大学外国語学部教授であるミュリエル・ジョリヴェ氏の講演であった。

「私が日本の学生や社会人の若い女性たちとお話していて、本当に驚いたことがあります。彼女たちには妊娠・出産について'biological limit'(生物学的な適齢期)という概念が全くないのだろうか、ということです。」

彼女は来日して教鞭をとり、実に沢山の20代の日本人女性と触れ合う機会を持つようになったが、20歳を過ぎた女性が、「結婚は?」「いつかはしたいです。」「で、子どもは欲しくないの?」「いつかは欲しいですね。」「相手は?」「まだいません。」という発言をし、しかもこのような応酬にたびたび遭遇したため、驚愕したという。院生レベルの高学歴女性までも同様の反応であったことはさらに彼女を驚かせた。

フランスでは妊娠・出産に関する女性の「生物学的な適齢期」がきちんと社会に認識されている。その上で妊娠・出産の選択が行われているため、20歳を過ぎてこれから社会に出ようとする女性で、しかも子どもが欲しい女性が、妊娠・出産の時期について何の計画ももっていないことについて、驚きを隠せなかったのである。

【真の女性活躍のために、「生物学的な適齢期」を社会が正確に認知する】

なぜ'biological limit'を知ることがフランスではそんなにも大切なこととされているのか。

2013年の連合の調査(*1)によれば、わが国の20歳から49歳の子どもがいない男女1831名の73.4%が「子どもが欲しい」と回答した。すでに1人子どもがいる回答者364名においても73.9%が「子どもが欲しい」と回答し、理想の子どもの数は「2名」が43.9%(有効回答3000名)と圧倒的な支持を得た(*2)。

このように多くの男女が子どもを希望しているにも関わらず、わが国の少子化はとまらない。

名古屋市立大学の杉浦真弓教授は「不妊症も流産も女性の加齢が危険因子であり、20代前半では6%の不妊症が40代では64%になるという、産婦人科医にとって常識的な生殖知識を我が国の一般女性は知りません。キャリア維持のために出産を先送りにして後悔する不妊、不育(*3)患者さんが後を絶ちません。」と述べられている(*4)。

フランスではこの「産婦人科医にとって常識的な知識」が社会でも広く認知されており、不妊がもはや「疾病」ではなく「自然の摂理」となる42歳で、体外受精治療が国の保険の対象外となる。高額の体外受精治療を国の保険で受診するために、カップルが不妊を意識する年齢は早い。また生物学的な適齢期を意識した「妊活」が、女性のキャリアデザインにおいて、早期に組み込まれるのである。

妊活が女性のキャリアデザインに与える影響は非常に大きい。先延ばしにするほど、妊活は予想をはるかに超えて女性のキャリア継続に支障をきたしだす。そして、日本の女性は、その時が考えている年齢よりもはるかに早く訪れることを理解しないまま、キャリアをスタートさせてきたのである。

女性活用・女性登用対策があちらこちらで叫ばれているにも関わらず、不思議なくらい、この「女性のキャリア存続を根幹から揺るがしかねない問題」の観点からの対策が目立ってこない。

真に女性の社会での活躍を実現するならば、何よりもまず「生物学的な適齢期」を社会が正確に認知すること、そして女性本人・家族・雇用者等が「生物学的な適齢期に配慮した」彼女のキャリアイメージを描くこと、ならびに描けるような社会システム作りを行うことが、わが国において非常に大切、かつ急務であると感じずにはいられない。

実は女性活用・女性登用も、少子化対策も、根本的な処方箋は全く同じなのである。子どもが欲しい欲しくないに関わらず「正しい情報」を知らないまま女性がキャリアデザインすることは、数々の不測の苦しみを女性に、そしてそのパートナーに、そして社会全体にもたらすことをわが国に生きる人々ひとりひとりが、もっと深刻にうけとめて欲しい。

(*1) 日本労働組合総連合会(2013年)「子ども・子育てに関する調査」

(*2) 欲しい子どもの数2位は3人(22.9%)。子どもは欲しくないとした回答者は16.2%であった。

(*3) 妊娠はするが、流産・死産などを繰り返し、生児を得ることができない状態。

(*4) 名古屋市立大学大学院医学研究科・産科婦人科教授 杉浦真弓氏による平成23年度 産科医療功労者 厚生労働大臣表彰 受賞報告より。

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 研究員

(2014年6月10日「研究員の眼」より転載)

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