「時差Biz」による「働き方改革」-時間と空間に制約されないワークスタイル:研究員の眼

「時差Biz」による「働き方改革」は、日本経済の生産性の向上と一億総活躍社会の実現に寄与する。
Commuting scenery in Japan (businessman)
Commuting scenery in Japan (businessman)
Getty Images/iStockphoto

「働き方改革」に関する議論が活発だ。東京など大都市圏の働き方を改革するには通勤ラッシュへの対応が不可欠だ。

これまでも時差通勤の呼びかけはされてきたが、東京都は昨年7月の2週間、出社時間をずらし通勤ラッシュを緩和する「時差Biz」(*1)を初めて導入した。『朝が変われば、毎日が変わる。』をキャッチフレーズに約320社が参加。

個人にとっては満員電車の回避を、企業にとっては従業員の働く意欲や生産性の向上につながると、「働き方改革」に向けた「時差Biz」のメリットを訴えている。

通勤ラッシュを緩和するためのひとつの方法は、交通需要のピークを分散させることだ。朝の通勤ラッシュは午前8時から9時の間に集中しており、特に企業が始業時間を前後にずらすことで混雑率が大幅に改善されるからだ。

早朝出勤し早めに帰宅する、ゆとりを持って出勤し遅めに帰宅するなど、個々人の仕事の特性と事情に合わせた多様な勤務パターンも有効だ。フレックスタイム制は乳幼児のいる共働き世帯にとっては、朝夕の保育園の送迎など「仕事と子育ての両立」に大いに役立つだろう。

もうひとつの方法は、職住近接により通勤需要を減らすことだ。都心に集中する業務機能を郊外へ移したり、住居の最寄り駅にサテライトオフィスを設けたり、都心居住を進めることが考えられる。また、通勤場所の選択肢を広げると同時に、通勤時間との組み合わせが重要だ。

例えば、自宅近くのサテライトオフィスで朝の仕事をし、必要に応じてラッシュ時間を過ぎてから都心のオフィスに出社、早めに帰宅して夕食後に在宅勤務をするといった、柔軟に時間と空間を活用する働き方だ。

今後の人口減少、とりわけ労働力人口が減少する一方で、鉄道の輸送力強化に向けた巨額の投資を続けることは現実的ではない。しかし、満員電車の中の時間は非生産的ロスタイムで、個人的・経済的損失は甚大だ。快適な通勤環境は心身の健康を保ち、通勤時間の上手な活用は仕事の効率性を高める。

一日の仕事と通勤を合わせた非可処分時間の短縮はゆとりある暮らしにつながり、「時差Biz」による「働き方改革」は、日本経済の生産性の向上と一億総活躍社会の実現に寄与する。

2005年に始まった「クールBiz」の取り組みは、蒸し暑い日本の夏を軽装で過ごし、冷房温度の設定を適切に行うことで省エネルギーと温暖化防止に貢献してきた。現在では夏にネクタイや上着を着用しないで仕事をするビジネススタイルもすっかり定着した。

東京都の「時差Biz」の取り組みが、われわれの生活の質(QOL)と社会の生産性の向上をもたらす「働き方改革」になるためには、フレックスタイム&フレックスプレイスの時間と空間に制約されないワークスタイルの広がりが求められる。

(*1) 東京都「時差Biz」ホームページ<https://jisa-biz.tokyo

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(2018年2月20日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 主任研究員

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