専業母と兼業母の出生力-少子化社会・女性活躍データ考察-女性労働力率M字カーブ解消はなぜ必要なのか:研究員の眼

「女性は子どもが生まれたら育児に専念する方が少子化は止まる」という母業専念議論は、少子化を研究する研究者にとって「それはない」議論である。

【はじめに】

「女性は子どもが生まれたら仕事をやめて、育児に専念する。その方が、日本の少子化は止まるのではないか」「専業主婦の方が子育てに専念できるので、子どもを産むのではないか」このような母業専念議論は、少子化社会を研究する研究者にとっては「それはない」議論である。

働く女性の子育てを支援するための初の法律、育児休業法成立の1991年から26年、四半世紀が経過している中で、よもや少子化対策として上記のような「母業専念」論を真剣に推す者はいないと思いたいところである。

しかしながら、統計データを観察する限り、母業専念論が主流であるかのような社会が日本の姿でもある。

少子化対策の分野は「一億総意見可能」テーマである。なぜならば、誰しもが社会の構成員であり、かつては子どもだったからである。何かしら意見を語ることが可能である。これが金融デリバティブや不動産リート、などと言われると一億の相当数が意見をだそうと思わないだろう。

それだけに個々の周囲で起こる現象が多様であるが為に、少子化対策では実に様々な意見が「間違いない(私の周りでは)」的に出され、意見同士が優先度を巡って紛糾してしまうことが政策決定上の問題であろう。

本稿では、それでは一体「どの印象論がデータ上のリアルに近いのか」を検証してみたい。

上に述べた「女性は母親業に専念した方が、子どもは生まれるのではないか」といった議論をデータで見ると、どうジャッジ可能であるのか、また、「母業専念論が主流であるかのような日本社会」を示す具体的なデータは何か、を示してみたい。

そして最後に、データをふまえるならば、日本の少子化対策としてより有効な考え方とは何か、を提案してみたい。

【母業専念は出生率にどう影響するのか】

「子どもが生まれたら、女性はやはり働かずに育児に専念した方が子どもは増えるのではないか」を検証するために、47都道府県の子どもを持つ母親の有業率と合計特殊出生率(*1)(以下、出生率)の関係性を統計的に検証してみたい。

まず、47都道府県の母親の有業率は平成24年就業基本構造調査(2012年:総務省)によって知ることが出来る。有業率との間に時差はあるものの、2015年における47都道府県の合計特殊出生率(厚生労働省 人口動態統計)と母親の有業率の関係の強さを相関分析によって示したものが図表1である。

母親に占める有業率である有業母率と出生率の相関係数は0.46であり、両者には「正の相関関係がある」ことが判明した。

図表1からは、沖縄県と京都府が日本全体の傾向に比べて外れた動きをみせていることもわかる。沖縄県は「女性労働力率に比べて出生率が高いエリア」であり、京都府は逆に「女性労働力率に比べて出生率が低い」エリアとなっていることも、あわせて指摘できる。

さてここで、有業母の割合と出生率の正の相関関係において、以下の双方向に関係性を解読することが可能である。

「A:出生率が高いエリアほど有業母率が高くなる、もしくは、B:有業母率が高いエリアほど出生率が高くなる」

では、今回のケースではAとB、どちらが妥当な見方といえるであろうか。ある国際比較データを用いて考察してみたい。

【有業母に立ちはだかる大きな壁】

日本は世界の先進国ではすでに少数派となった「ある壁」が存在している(図表2)。

上の表をみてみると、出生率が2.0に近いフランス、イギリス、スウェーデン、アメリカなどを見ると、20代前半から女性の労働力率が上昇し、20代後半から50代前半まで労働力率が落ちることがない。

ところが日本は20代後半から30代前半で女性の労働力率が大きく減少(80.3%から71.2%に下落)し、40代後半(77.5%)になるまで70%前半台で低迷する。

男性でいうところのいわゆる「働き盛り」の女性の労働力率の減少を示すデータ(図表2)は、まるでMというアルファベットのようである(女性労働力率のM字カーブ(*2)化)。

ここで、10ポイント近く女性労働力率が減少する「日本の女性の30代前半」とは何を意味しているのだろうか、別のデータで考えてみたい。

日本の女性の第1子平均出産年齢は図表2の年次にあわせて2015年でみてみると、30.7歳である。

同じ2015年の第2子、第3子の平均出産年齢もそれぞれ32.5歳、33.5歳であり、すべて30代前半に集中している(図表3)。

つまり、30代前半で起こる女性の労働力率の減少は、女性が出産を契機に労働市場から退出しているだろうことが一因であるとみてとれる。

日本が長い間、脱却することが出来ず、「女性活躍の未解決部分」ともいえる年齢帯別女性労働力率のM字カーブの存在から、図表1の解釈に関して、「A:出生率が高いエリアほど有業母率が高くなる」は考えにくい。

出産を契機に多くの女性が労働市場から退出する傾向にある日本においては少なくとも、「子どもが多く生まれるエリアほど母親が働きにでるのでは?」という選択とは逆の選択が行われているのである。

今回の場合、図表1の正の相関関係は、「B:有業母率が高いエリアほど出生率が高くなる」(逆に、専業母率が高いエリアほど、出生率は減少する)とみることが他のデータと照合した場合、整合性が高い、と考えることができる。

図表1ならびに図表2のデータからは「子どもが生まれたら、女性はやはり働かずに育児に専念した方が子どもは増えるのではないか」は、統計的には納得することが難しい意見であることがわかるだろう。

【保育園だけでは女性活躍は大きく変えられない】

女性の労働力率の底は、女性の30代前半から15年間に渡って続いていることを上で述べた(図表2)。

第3子までの平均出産年齢は30代前半である。平均的に、第1子で考えると0歳から15歳(中学卒業まで)、第2子で考えても0歳から13歳(小学校卒業)まで、労働市場からの女性の退出が生じている。

ここで、日本の既婚カップルはほぼ2人産んでいる(2つの出生力推移データが示す日本の「次世代育成力」課題の誤解-少子化社会データ再考:スルーされ続けた次世代育成の3ステップ構造 参照)ことを考えると、やはり、平均的には小学校卒業までの「保育園ならびに小学校の放課後の居場所作り」がいかに重要であるか、がわかるだろう。

以上から、

の3点が明らかとなった。

しかしながら、保育園の待機児童問題ばかりが優先的に取り上げられ、学童保育の待機児童問題を含む「放課後の居場所作り」については議論が後回しにされることに悩む母親やメディア企画者は多い。筆者のもとにも、「放課後の居場所づくり」の社会的認知度の低さに関する相談が後をたたない状況である。

例えば、第2子が保育園に入れたとしても、小学校に上がった第1子の放課後の居場所が確保されなければ、その親の就業継続問題が発生する。女性活躍が徐々に進む中で、長年勤務した職場を諦めるといったケースも出てきている。

真の一億総活躍を目指すのであれば、個々人の「自分の小学校時代はこうだったから、保育なんて小学生にもなれば必要ないだろう」議論はさておき、統計データ的には

「せめて子どもが小学校を卒業するまでの切れ目なき社会的な子どもの居場所作り」

が喫緊の課題である、ということになるだろう。

(*1) 筆者のレポートでは毎回説明しているが、合計特殊出生率は、単なる平均出生率(生まれた子どもの数)/(15歳から49歳の女性の数)ではなく、各年齢の女性の出生率を積み上げ計算することによって、そのエリアで生きるいわば典型的な女性の出生率を算出する統計的な指標である。

(*2) 日本の女性労働力率のM字カーブの存在については、古い資料では内閣府「平成18年版国民生活白書」が詳しい。また最近の資料としては内閣府「平成27年版 男女共同参画白書」等を参照されたい。

【関連レポート】

(2017年6月26日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 研究員

注目記事