安保法案までも 強行採決の暴挙に出たことは 極めて遺憾であり、強く抗議する

「労使関係」は、英語では「Industrial relations(産業的な関係)」である。言うまでもなく、イギリスに産業革命が起こり、結成された労働組合の歴史とともに労使関係の歴史も始まった。

【古賀伸明会長のフェスティナ・レンテ】

労使関係は職場のみならず社会的な「ルールの網の目」

「労使関係」は、英語では「Industrial relations(産業的な関係)」である。言うまでもなく、イギリスに産業革命が起こり、結成された労働組合の歴史とともに労使関係の歴史も始まった。日本では、労使は「車の両輪」「鏡」などともよく言われる。アメリカの労働経済学者で1970年代の半ばに労働長官を務めたジョン・トーマス・ダンロップ氏は、労使関係を、雇用・労働に関する「ルールの網の目(web of rules)」という言葉で表現していた。

狭い意味での労使関係は、働く者が仕事を行う職場のルールの網の目である。その場合は、文字通り「労」と「使」がつくるルールであり、私たちは労使関係をこの意味合いで語ることが多い。しかし、少し考えてみれば、職場というだけでは、企業が活動を行い、働く者が日々の生活を営む大きな社会的な側面を見落とすことになる。労使関係は職場のみならず、社会的な関係を含めた広い範囲で捉えなければならない。

広い意味での労使関係のアクターは、労働組合、経営者(使用者)そして政府ということになるであろう。賃金を例にとると、賃金は使用者が定める就業規則によって示される。就業規則は、労働組合がある場合は、労使の協議や交渉によって締結される労働協約に違反することはできない。ここで登場するのは労使であるが、どの程度働くかについては国が定める労働基準法上の法定労働時間が大きな影響を持ち、賃金の場合でも最低賃金法が結果として労働協約や就業規則に反映されていなければならない。

労働基準法や社会保障立法のように労働条件や働く者の生活に直接影響を与えるもののほかに、政府の経済政策や社会政策も労働市場や働く者の生活に大きな影響を与えている。さらには、労働組合法など労使関係の内容を決める枠組みを法的に整備することや、労使間の紛争の調停に当たることも政府の役割である。

ダンロップ氏も労働組合、経営者および政府機関の三者の相互関係を分析する労使関係論を主唱していた。そして、何よりも政府は、いつも労使の間で中立的であるというわけではない。行政府を指揮する内閣を選出するのは政党であり、議員内閣制の場合には、どのような政党が国会で多数を占めるかによって内閣の性格が異なってくるのである。

国会審議が進むにつれて反対の世論が高まっている

その国民が選んだ多数を占める政権・与党が暴走している。6月19日の労働者派遣法改悪案に続いて、安全保障関連法案も7月16日、衆議院で可決した。審議時間が110時間を超えて議論が尽くされたとしているが、特別委員会などでの野党の質問や意見に対する政府答弁は、不十分で不明確なものに終始している。議論が尽くされたとは到底いえない中での強行採決という暴挙に出たことは、極めて遺憾であり強く抗議する。民主党と維新の党が共同で提出した「領海警備法案」は2日しか審議されておらず、採決の段階には至っていない。

この間、憲法調査会の参考人質疑では与党推薦の憲法学者を含めて全員が今回の法案は違憲との認識を示した。また、あるマスコミの世論調査によると、今国会での成立について約6割が反対しているし、約8割の国民が安全保障関連法案について、「国民への説明が不足している」と答えている。審議が進むに従って反対が増えており、他の世論調査でも同様の傾向である。反対がこれ以上増えないうちに採決をというのが、政府・与党の本音なのかもしれない。さらには、自民党の内部会合で一部の出席議員から、広告を出す企業やテレビ番組のスポンサーに働きかけて、メディア規制をすべきだとの声が上がった。まさに報道や言論の自由に反する極めて傲慢な発言だ。

私たちは5月の中央執行委員会で、①連合「政治方針」および「国民軽視の進め方になってはならない」「国民の懸念にこたえていない」という現時点の認識に立ち、政府の提出した安全保障関連法案に反対する立場から対応する。②政府・政党に対しては、一括の審議ではなく個々の法案ごとに、国会論戦で論点を明らかにし、オープンかつ徹底的な議論を、十分な時間をかけ行うことを強く求める。当面、「専守防衛に徹し、近くは現実的に、遠くは抑制的に、人道支援は積極的に」との考え方を明示している民主党と連携をはかりながら、国民目線でのわかりやすい議論を促し、国民の問題意識の喚起をはかることを確認している。

この確認に基づき、極めて強引な一連の暴挙に対し、集会や街宣行動などで引き続き抗議するとともに、今後の国会対応における民主党の政府・与党追及の動きを支え、世論喚起を行っていく。

学生との対話は極めて重要な連合の運動だ

7月2日、やっと念願の「学生との対話集会」を開催することができた。昨年(2014年)初めから、各地方連合会の若手リーダーや非正規で働く皆さんとの対話を続けてきたが、それに加えて、ぜひ学生の皆さんとの対話も行いたいと思っていた。

私たちはめざすべき社会像として「働くことを軸とする安心社会」を掲げ、運動を推進している。「働く」とは、現在働いている人はもちろんのこと、当然これから働く人にも密接に関連することである。学生の皆さんが、働くということをどう考えているのか、学生という立場で今の社会をどう見ているのか、社会人として踏み出す時期に希望や不安はないのかなど、率直に意見交換してみたいと長い間考えていた。働くことに関係する現状を考え、どんな働き方・生き方をしていくのか、ともに考える機会を持ちたかった。

当日は、首都圏の各大学の先生方にお願いして、ゼミ生を中心に推薦いただき、9校16人の学生が集まってくれた。また、コメンテーターとして、中央大学の宮本太郎先生・立教大学の首藤若菜先生にも参加いただき、適切な意見を述べていただいた。

調査によると、学生の就職観は、「楽しく働きたい」「個人の生活と仕事を両立させたい」の2項目で過半数を占め、学生が企業選定の時に重視することは、業種・勤務地の割合が高い。また、就活生の4割が「ブラック企業に入ってしまうかも」と不安に思っている。一方、実際に働いている人の4人に1人が「自分の勤務先はブラック企業だと思う」と答えている。そして、日本の女性の労働力率は、結婚・出産期に当たる年代にいったん低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇する、いわゆるM字カーブを描く。

このような状況の中で、「就活の課題」「ブラック企業問題」「女性の輝く社会」などを中心に意見交換し、学生の皆さんからは、当面する課題や日本社会の構造的問題など広い範囲での意見が提起された。私にとっては刺激的で有意義なあっという間の2時間強の時間だった。

これから社会に出て、働くことを通じて社会に参画する学生との対話は、極めて重要な連合の運動でもある。この種の対話会を継続して開催するとともに、現在15校となった大学への連合寄付講座の拡がりを期待したい。

(7月17日記)

※連合寄付講座とは?

「労働組合の役割、労働活動の意義」について発信するとともに、「働くうえでの課題」を理解し、その課題解決に向けて考える力を養うことを目的に大学の正規の授業として開設。

2005年4月より日本女子大学でスタートし、現在、同志社大学、一橋大学、埼玉大学、法政大学で開講(運営は教育文化協会)。また、地方連合会主催の地方版連合寄付講座は、岩手大学、山形大学、首都大学東京、福井県立大学、三重大学、滋賀大学、山口大学、佐賀大学、長崎大学、大分大学、沖縄大学で開講。

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2015年8月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。

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