昭恵夫人Facebookコメントも"危機対応の誤り"か

100万円の事実を否定する根拠にも、昭恵夫人の喚問を拒否する理由にもならない。

森友学園籠池氏が、昭恵夫人を通して安倍首相から100万円の寄付を受領したと発言した直後に、自民党竹下亘国対委員長が、「総理に対する侮辱だ。たださないといけない」と述べ、自民党側から「籠池氏証人喚問」を仕掛けたことについて、当ブログで【籠池氏証人喚問は、自民党にとって「危険な賭け」】として、自民党側の対応を疑問視し、その後も【籠池氏証人喚問、高度の尋問技術が求められる自民党質問者】として、自民党側の証人喚問への対応に困難さを指摘し、それを理解しているとは思えない自民党側の対応について、【籠池氏問題に見る”あまりに拙劣な危機対応”】と述べた。

3月23日に行われた証人喚問では、籠池氏は、昭恵夫人が森友学園の小学校設置構想に主体的に関わっていたことを印象づける証言を行い、それに対して、与党側の「反対尋問」としての質問も、籠池氏を「嘘つき」呼ばわりするだけで、ほとんど空振りに終わった。それどころか、土地問題について籠池氏側から依頼を受けた昭恵夫人付の官僚が籠池氏側に回答をファックス送付した事実も明らかになり、安倍昭恵夫人が関わった「口利き」疑惑が表面化するなど、籠池氏証人喚問は、森友学園問題に決着を付けるどころか、事態を一気に深刻化させることになった。

籠池氏が「昭恵夫人を通じて安倍晋三首相から100万円の寄付を受けた」という話に反応して、拙速に「証人喚問」に持ち込んだ段階で、このような結果は目に見えていたはずだ。

結果的に、籠池氏証人喚問は、自民党、首相官邸にとって最悪の結果に終わり、まさに、“拙劣極まりない危機対応”であったことが明らかになった。政権与党の自民党側としては、今後はそのような間違いを犯さないよう反省しなければならなかったはずだ。

ところが、籠池氏証人喚問終了のわずか4時間余り後の午後9時半頃、私が、テレビ朝日のインターネットテレビ番組「AbemaPrime(アベマプライム)」に、「安倍総理に最も近いジャーナリスト」と言われる山口敬之氏とともに出演している最中、昭恵夫人がコメントを出したとの速報が流れた。番組終了後に確認したところ、昭恵夫人個人のフェイスブックのタイムラインに掲載されたものだった。

昭恵夫人のコメントを個人のフェイスブックで出したのは、昭恵夫人個人の立場でのコメントであることを強調するためであろう。実際に、「森友学園に関する問題についての初めての昭恵夫人個人のコメントが籠池氏の証人喚問の直後に出された」ということで、報道でもかなり大きく取り上げられている。

しかし、以下に述べるとおり、細かく分析すると、昭恵夫人のフェイスブックコメント(FBコメント)の形式・内容には、多くの疑問があり、今後、昭恵夫人の証人喚問を求める声がますます強まると予想される中で、かえって、安倍首相側、官邸側にとってマイナスに作用する可能性が強いと考えられる。

まずFBコメントを全文引用する。(下線は筆者)

本日の国会における籠池さんの証言に関して、私からコメントさせていただきます。

①寄付金と講演料について

私は、籠池さんに100万円の寄付金をお渡ししたことも、講演料を頂いたこともありません。この点について、籠池夫人と今年2月から何度もメールのやりとりをさせていただきましたが、寄付金があったですとか、講演料を受け取ったというご指摘はありませんでした。私からも、その旨の記憶がないことをはっきりとお伝えしております。

本日、籠池さんは、平成27年9月5日に塚本幼稚園を訪問した際、私が、秘書に「席を外すように言った」とおっしゃいました。しかしながら、私は、講演などの際に、秘書に席を外してほしいというようなことは言いませんし、そのようなことは行いません。この日も、そのようなことを行っていない旨、秘書2名にも確認しました。

また、「講演の控室として利用していた園長室」とのお話がありましたが、その控室は「玉座の間」であったと思います。内装がとても特徴的でしたので、控室としてこの部屋を利用させていただいたことは、秘書も記憶しており、事実と異なります。

②携帯への電話について

次に、籠池さんから、定期借地契約について何らか、私の「携帯へ電話」をいただき、「留守電だったのでメッセージを残した」とのお話がありました。籠池さんから何度か短いメッセージをいただいた記憶はありますが、土地の契約に関して、10年かどうかといった具体的な内容については、まったくお聞きしていません。

籠池さん側から、秘書に対して書面でお問い合わせいただいた件については、それについて回答する旨当該秘書から報告をもらったことは覚えています。その時、籠池さん側に対し、要望に「沿うことはできない」と、お断りの回答をする内容であったと記憶しています。その内容について、私は関与しておりません

以上、コメントさせて頂きます。

平成29年3月23日

安倍 昭恵

まず、形式面から、このFBコメントは、少なくとも、昭恵夫人の他の投稿とは多くの点で異なり、昭恵夫人自身が自ら書き込んで投稿したものかどうか疑問がある。

一つは、昭恵夫人のフェイスブックの投稿は、すべて年号が西暦表示になっており、数字はすべて半角表示であるのに、このコメントでは年号が元号で表示され、数字がすべて全角で表示されている。フェイスブックでは常に西暦表示を使っている昭恵夫人が、森友学園で講演をした日を「平成27年9月5日」と自ら書くことは考えにくい。また、昭恵氏のフェイスブックでは、通常、数字は半角で使われており、全角を用いているものは見当たらない。

また、昭恵夫人が使うとは考えにくい、典型的な「役人用語」が多く使われている(コメントの引用にアンダーラインを引いた部分)。特に「旨」「当該」「何らか」などの言葉は、典型的な「官僚的、公用文書的表現」であり、そのような役人仕事、公的事務の経験がない昭恵夫人が書いた言葉としては違和感がある。

これらのことから、このFBコメントは、昭恵夫人が直接フェイスブックに書き込んで投稿したのではなく、別に作成された文書を、フェイスブックの投稿欄にコピー・アンド・ペーストしたのではないかと考えられる。

次に、内容面からしても、昭恵夫人自身が書いたものではない疑いがある。その後の菅官房長官の記者会見での説明や、安倍首相の参議院予算委員会での答弁と比較すると、むしろ、証人喚問での籠池証言に対する「首相官邸側の反論ないし弁明」そのものであり、官邸側が作成して、昭恵夫人に投稿を依頼したのではないかとさえ思える。

まず、このFBコメントは、(1)100万円の寄付を行っておらず、10万円の講演料も受領していないこと、(2)「秘書に席を外すように言った事実」がないこと、(3)講演の控室が園長室ではなく「玉座の間」であったこと、(4)籠池氏からの携帯電話の内容、(5)籠池氏から秘書に対して書面で問い合わせを受けた件についての秘書からの報告を受けたこと、(6)「要望に沿うことはできない」という内容の回答をする旨の報告を受けたことという、籠池証言に対する首相官邸側の主要な反論をすべてカバーしている。

これだけの内容を過不足なく、籠池証言から僅か4時間余り後に、昭恵夫人が自らの記憶に基づき考えをまとめて、自ら投稿したとは、他の投稿や携帯メールの文面からすると、考えにくい。

しかも、(3)は、講演料や寄付金のことについて「記憶から飛んでしまって」「全く記憶がない」と言っている昭恵夫人が、1年半前の講演での控室が「園長室だったのか、それに隣接する玉座の間だったのか」具体的に記憶しているとは考えにくい。

(5)(6)についても、谷査恵子氏が籠池氏から受け取った手紙と、それへの対応として文書をファックス送付したことについての報告を言っているものと思えるが、この点についてのFBコメントの内容は、ファックス文書に書かれている内容と整合している。この点についても、現金の受け取りの有無について全く記憶のない昭恵夫人が、谷氏からの報告内容については明確に記憶しているということは極めて考えにくい。しかも、政府側は、谷氏が籠池氏からの手紙に対応したことは、「総理大臣夫人付職員」の「公務」ではなく、谷氏の公務員「個人」としての対応だったと説明しているのであるから、なおさらである。

これらのことから、このFBコメントは、首相官邸側で、籠池証言に対する反論として作成したものを、昭恵夫人のフェイスブックで発信させた可能性が高いと考えられる。ネット上の他のブログでも、昭恵夫人が書いたものではないとの見方が見られる(小林よしのり氏【アッキード事件の証明】など)。

偽証の制裁の下で証言した籠池氏と正面から相反するFBコメントが出されたことで、昭恵夫人の証人喚問を求める声が一気に高まっている。

もし、昭恵夫人の証人喚問が行われた場合、或いは記者会見を行った場合、100万円の寄付をしたことや10万円の講演料受領や谷氏を通じての「口利き」について質問されることになるが、その場合、籠池証言の直後に、昭恵夫人個人のフェイスブックでの投稿という形式で公表したコメントについて、その作成と投稿の経緯について質問を受けるのは必至だ。その場合、昭恵夫人に、上記の重大な疑問を解消する説明ができるだろうか。

今回のFBコメントを出したことによって、今後、首相官邸側としては、これまで以上に、昭恵夫人を、証人喚問はもちろん、記者会見の場にも立たせることはできないということになるのではないか。

しかし、会見等を避ければ避けるほど、首相官邸側が作成したコメントを昭恵夫人がフェイスブックで投稿した疑いは一層深まることになる。それは、昭恵夫人個人の私的行為と、首相官邸の対応とが「一体化」していることを示す事実であり、これまで安倍首相が繰り返してきた「妻の言動は独立した個人としてのもの」との答弁にも重大な疑問を生じさせることになる。

昭恵夫人にも確認して官僚側で作成した文書なのであれば、「個人のフェイスブックでの投稿」という形で、昭恵夫人が自らコメントしたかのように見せかけるような小細工はせず、昭恵夫人のコメントをまとめたものとして、官邸が公表するのが正直なやり方だ。昭恵氏の証人尋問を回避しようとしたことが、かえって昭恵夫人を窮地に追い込むことになりかねない。

安倍首相は国会で、昭恵夫人が「100万円の記憶がないのですが」と籠池氏の妻にメール送付したのち、返信がなかったことを、100万円の寄付がなかったことの証明であるかのように言っているが、すでにその100万円の問題について籠池氏が証人喚問されることが確定的になっている状況で、籠池氏の妻がその問いかけに答えなかったからと言って、100万円の事実を否定する根拠にも、昭恵夫人の喚問を拒否する理由にもならない。

菅官房長官は、谷査恵子氏が籠池氏の求めに応じて財務省に照会していたことを示す資料を、証人喚問終了と相前後して、記者会見で報道陣に配布したが、その際、谷氏のメールアドレスや携帯電話番号という重要な個人情報をマスキングしないまま配布したとして、翌日の国会答弁で謝罪した。証人喚問での籠池証言によって、官邸側が相当な混乱に陥っていたということだろう。

そのような官邸の混乱状態の中、籠池証言に対する反論を大慌てで作成し、昭恵夫人個人のコメントとしてフェイスブックで出すことを決定し、喚問終了後4時間余りで急きょ公表したとすると、証人喚問を提案することの決定と同様に、あまりに拙速であり、これもまた危機対応の重大な誤りだと言わざるを得ない。

森友学園問題は、国家予算、外交、防衛等の問題と比較すれば、とるに足らない些細な問題である。しかし、その問題で、籠池氏一人に、翻弄され、狼狽し、危機対応の誤りを繰り返している首相官邸の対応を見ていると、この状態で、一層緊迫化する北朝鮮問題など、国家としての重要問題への対応は大丈夫なのかと、不安にならざるを得ない。

(2017年3月25日「郷原信郎が斬る」より転載)

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