みずほ銀行第三者委員会は何を期待されているのか

九州電力の「やらせメール」問題の本質は、原発を運営する電力会社の組織が福島原発事故による環境の激変に適応できなかったことにあったのと同様に、反社会的勢力、暴力団の排除をめぐる最近の世の中の「激変」に、みずほ銀行という日本を代表するメガバンクの組織が適応できなかったことに問題の本質があるように思える。そこには、組織の体質、企業文化等の構造的な要因が起因している可能性がある。

10月8日、前回のブログ【メガバンクとして余りにお粗末なみずほ銀行の危機対応】で取り上げた、反社会的勢力への提携ローンを通じての融資の問題に関して、みずほ銀行が、第三者委員会である「提携ローン業務適正化に関する特別調査委員会」を設置することを公表した。

同日、佐藤頭取が、暴力団関係者への融資の問題について初めて記者会見し、歴代の頭取が報告を受け問題を認識していたこと、問題が報告された取締役会に出席していた佐藤頭取自身も「認識し得る立場」にあったことを認めた。日本を代表するメガバンクのガバナンス、コンプライアンスの根幹が問われる事態になっている。

みずほ銀行の経営陣が社会の信頼を喪失しつつあるだけに、組織の信頼を回復できるかどうか、第三者委員会の役割は極めて重大である。

重大な不祥事で社会から批判・非難を浴び、信頼を失墜した組織は、不祥事の事実関係を調査し、原因を究明して再発防止策を策定することが信頼回復のために不可欠となる。しかし、組織自体の信頼性が失われていると、組織の内部者が調査・検討を行っても、その結果が世の中から信用されない。そこで、調査・検討の中立性、客観性を確保するために設置されるのが、この種の第三者委員会である。

このような「第三者委員会」の設置と活動に関する問題については、拙著【第三者委員会は企業を変えられるか】(毎日新聞社)で、私自身が委員長を務めた九州電力「やらせメール」問題の第三者委員会の事例を題材に、詳細に述べている。

そこで重要なことは、第三者委員会が、どのような位置付けで、どのような役割を与えられ、どのような体制で事実調査・原因分析・提言を行っていくかである。

第三者委員会が、本来の役割を果たすためには、組織から独立した客観的な立場で活動が行う地位が保障され、十分な権限が与えられなければならない。

しかし、今回の第三者委員会の設置についてのみずほ銀行の対応を見ると、果たして、独立した客観的な立場で十分な調査・検討が行えるのか疑問である。

設置についての公表文では、「今般、当行は、再発防止・信頼回復のため、本件に関する事実確認、原因の究明、改善対応策の妥当性評価ならびに提言を得るべく、当行と利害関係を有しない外部の識者・専門家から構成される第三者委員会・・・を本日付けで設置した」とされているが、ここには、最も重要な「調査」という言葉が入っていない。事実「確認」という言葉からは、第三者委員会が独自に調査を行うのではなく、みずほ銀行が行う行内調査について外部専門家が検討し、その調査の手法、経過、結果が「妥当である」との「お墨付き」を与えることを目的とする委員会であるようにも思える。

今回の問題に関して調査すべき事項には、歴代の頭取が、暴力団関係者への融資の事実の報告を受けたのに、なぜ放置したのか、また、取締役会への報告を受けたのにそれを記憶していないと述べている現頭取の供述の信用性など、みずほ銀行のトップを含む経営陣の責任問題につながる事項が多く含まれている。通常、このような問題について行内調査で真相解明することは到底困難であるし、第三者委員も、独自に調査することなく、そのような行内調査の結果について、適正であるか否かを判断することは困難であろう。

日本を代表するメガバンクの経営の根幹に関わる問題なのであるから、第三者委員会の独自の調査体制を構築し、必要に応じて内部者を調査に活用することはあってもよいが、外部者中心の調査を行うべきであろう。

そして、もう一つ不可解なことは、設置後、第三者委員会側の記者会見は行われず、何のコメントも出されていないことだ。社会的にもこれだけ大きな注目を集める組織不祥事について、重大な使命を担う第三者委員会が設置された場合には、第三者委員会の側で記者会見を行い、調査の方針、調査体制、調査期間等について説明するのが通例だ。

組織自体の信頼が失われている時に、組織の内部者に代わって、第三者委員会が事実解明・原因究明の役割を担うのであれば、その第三者委員会の側から、社会に対して、それらの使命を果たすことについてしっかり責任を負う旨のメッセ―ジを発するべきだ。それが行われれば、マスコミも、世の中も、第三者委員会による事実解明に期待することになり、当該組織に対する批判・非難も、ひとまず一応沈静化する。第三者委員会が、単に、公表文という紙の上だけの存在にとどまったのでは、その設置の効果は限られたものにしかならない。

みずほ銀行の第三者委員会は、この問題を、「環境の激変に対する組織の不適応」という観点からとらえて事実解明、原因分析を行うことが重要である。

九州電力の「やらせメール」問題の本質は、原発を運営する電力会社の組織が福島原発事故による環境の激変に適応できなかったことにあったのと同様に、反社会的勢力、暴力団の排除をめぐる最近の世の中の「激変」に、みずほ銀行という日本を代表するメガバンクの組織が適応できなかったことに問題の本質があるように思える。そこには、組織の体質、企業文化等の構造的な要因が起因している可能性がある。

みずほ銀行の第三者委員会には、徹底した主体的調査を行い、このような構造的な要因を解明することが求められている。

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