舛添氏の「驚異的な粘り腰」の背景にあるもの

舛添都知事問題の背景にあるものを、しっかり見極めていく必要がある。

舛添要一氏が、とうとう都知事を辞職することになった。

都議会総務委員会で、どんなに追及を受けても、傍聴席から野次を浴びせられても、ほとんど同じ言葉を繰り返すことで逃れ、総務委員会集中審議では、野党に加え、与党公明党も辞任を要求したが、「リオ五輪が終わるまで猶予を」と訴えて、ただちに辞任する気がないことを公言。

都民の怒りが参議院選挙に影響することを恐れた自民党は、舛添氏の辞任を求める方向に転換。野党と公明党が不信任案を提出する中、都議会議長が、自主的に辞任するよう説得したが、舛添氏は拒否。

本日(6月15日)未明、とうとう自民党も不信任案を提出したが、舛添氏は、不信任案が可決されても、議会解散を模索しているということであった。

その後、本会議で不信任案が可決される見通しとなったのを受け、都議会を解散しても、改選後の再可決が必至とみられることから辞職願を提出したようだ。

この辞職願を出すまでの経緯は、まさに、「驚異的な粘り腰」といえる。

これ程、「四面楚歌」の状況に陥りながら、自治体首長の職にとどまろうとした例はあまりないのではないか。

なぜ、舛添氏が、ここまでの「粘り腰」を発揮したのか。

そこには、佐々木善三弁護士らに「第三者調査」を依頼した経緯が関係しているように思える。

何と言っても、舛添氏が現在のような苦境に追い込まれた最大の原因は、「第三者の弁護士による調査」を依頼し、その調査結果が都民の怒りのボルテージを一気に高めたことにある。

「第三者弁護士による調査」を行わず、舛添氏が自分自身の言葉で対応していたら、ここまで追い込まれることはなかったであろう。

では、この佐々木弁護士らによる「第三者調査」というのは、いったい誰が発案し、どのような経緯で依頼が行われたのか。

それを推測する手掛かりとなるのが、小渕優子氏の政治資金をめぐる問題での佐々木弁護士の動きと発言だ。佐々木弁護士は、この問題でも第三者委員会の委員長を務め、「第三者の弁護士」として調査を総括したが、その調査結果が、依頼者の小渕氏に極端に甘いものだった上に、記者会見では、その問題で、政治資金規正法違反で起訴された元秘書の折田氏をかばう発言や、小渕氏にエールを送るような発言まで行った。

この時、第三者委員会や佐々木弁護士に向けられた批判(【本当に第三者?小渕優子氏疑惑調査で甘い報告】)は、今回の舛添氏の第三者調査に対する批判とそっくりだ。

しかし、この問題では、調査報告書公表の時点で、一時的にはマスコミから批判を受けたりしたものの、その後、事態は沈静化し、小渕氏は議員辞職も免れた。そういう意味では、佐々木弁護士が総括した「第三者調査」は、小渕氏の問題の「火消し」という意味で成功を収めたのだ。

今回の舛添氏の問題で調査を担当した「第三者弁護士」として記者会見を行った際の佐々木弁護士が行った発言の中には、「政治資金で購入したシルクの中国服を書道に使うとスムーズに筆を滑らせることができると舛添氏が実演し、説得力があった」という理由で「政治資金の支出として不適切ではない」と認定した説明があったが、「常識に反する」と厳しく批判され、一部では「失笑もの」にもなった。

佐々木弁護士は、小渕氏の調査結果公表の会見でも、「折田氏の責任感・義務感の強さが虚偽記入に結びついた」「折田氏を批判することには躊躇を覚える」というような、全く常識に反するコメントをしている。

このような「依頼者側に思い切り肩入れするやり方」は、今回の舛添氏の問題での調査が初めてなのではなく、小渕氏の問題での調査の際のやり方を踏襲したものと言える。

ということは、「第三者の弁護士による調査」を理由に説明責任を果たそうとしない舛添氏への批判が高まる中で、佐々木氏は、当初から、小渕氏の「第三者調査」と同様の姿勢で調査に臨み、同様の結論を出せば良いという前提で調査を受任した可能性が高いと考えられる。

今回の問題での「第三者弁護士による調査」というスキームは、舛添氏自身が思い付いたことではなく、小渕氏の際の「成功体験」に基づいて、自民党関係者から話が持ち掛けられ、「依頼者側に肩入れして擁護してくれる弁護士」として紹介されたということも考えられるであろう。

そうだとすると、そこには、この「第三者弁護士調査スキーム」でマスコミ・都民からの批判をかわし、問題を先送りして辞任を回避する、ということについて、舛添氏と自民党サイドとの間で何らかの合意があった可能性も否定できない。

実際に、舛添氏が都知事の定例会見で「第三者の弁護士による調査」を依頼する方針を明らかにした直後の、日曜日のフジテレビの番組に出演した林芳正元農水大臣が、「第三者の弁護士の調査を待って」というような発言を行っていた。少なくとも、この時点では、自民党側に、「第三者弁護士の調査」を前向きに受け止めようとする考え方があったことは間違いないように思える。

そこに、舛添氏の「驚異の粘り腰」の理由があったのではなかろうか。

「第三者の弁護士による調査」が、自民党サイドから持ち掛けられ、それによって、辞任を回避するという話だったとすれば、その調査によって、辞任不可避な状況に追い込まれた舛添氏としては、「自民党に辞任を求められるのは納得がいかない」と思うのも無理はないように思える。

今回の問題は、根本的には、舛添氏の政治家としての姿勢・資質によるものだというのが当初からの私の見方であり(【舛添東京都知事の資質・姿勢に対する根本的な疑問】)、辞任に追い込まれたのは当然だと思う。

しかし、その舛添氏にこれまで手を貸し、利用しようとしてきた勢力にとっては、話は複雑であろう。

今後も混乱が続くことは避けようがない舛添都知事問題の背景にあるものを、しっかり見極めていく必要がある。

(2016年6月15日「郷原信郎が斬る」より転載)

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