「出生数100万人」に届かず、「現在とまるで違う社会」へスイッチを

「変わるわけがない」という「思考停止」からそろそろ解放されるべきです。
A woman bathing her baby in baby bathtub. A baby is looking up at her.
A woman bathing her baby in baby bathtub. A baby is looking up at her.
Kohei Hara via Getty Images

2016年の子どもの出生数が100万人を下回ることが確実になりました。

いつかこの日が来ると予期していたとはいえ、「人口減少社会」に向けて記憶に刻んでもいいポイントを通過したのは間違いありません。現在は、全国的な傾向とは逆に、「子ども出生増と人口増」の傾向を維持している世田谷区ですが、近い将来には、このトレンドにストップがかかるのではないかと予想されています。

一方で、自治体の社会政策と、子どもの出生数や人口動態には、深い関連があると考えています。すでに、就労人口の多い首都圏でも人口減少は始まっています。しかし、都心からの距離や住環境等の条件が同じでも、子育て支援の環境が整っていれば「出生数」に大きな影響が出てきます。ただ、ひとつの自治体で積み重ねる努力が社会全体にどのように波及するかは、そう簡単なことではないとも考えています。

私が世田谷区長に就任した2011年4月から、認可・認証を中心に保育園約60園を開園して、4700人分の定員を増やしました。さらに、2017年4月には約20園、約2000人分の定員を拡大する予定です。それでも、認可保育園への入園希望者は増え続けて、待機児童解消にはまだ至りません。3歳までの待機児童がほぼなくなり、0歳から2歳までの低年齢児童の受け皿づくりを急いでいます。また、在宅子育て支援も充実を図っており、親子で過ごすことのできる子育て広場や、児童館の乳幼児プログラムも広げています。

たった今、産声をあげて生まれてきた子どもたちが、どのような社会に育ち、どのような人生を過ごすのかに深く影響する「人口減少社会」の将来をみつめていきたいと思います。

出生数、初の100万人割れ 10年連続で人口減:朝日新聞デジタル

厚生労働省は22日、国内で2016年に生まれた日本人の子どもは98万1千人の見込みと発表した。統計を取り始めた1899年以降、出生数は初めて100万人を下回りそうだ。出生数が死亡数より下回る人口の自然減は10年連続。人口減に歯止めがかからない。

人口動態統計の年間推計で明らかになった。出生数は前年の100万5677人から2万5千人減少し、死亡数は前年より6千人多い戦後最多の129万6千人。自然減が戦後初めて30万人を超える。

日本の人口のピークは、2010年の1億2808万人でしたが、その後に人口減少が始まり、2015年には1億2700万人と100万人減少しています。(総務省統計局「人口の推計と将来人口」)。総務省の最新の人口推計によると、死亡数(129万6千人)が出生数(98万1千人)を超えた「自然減31万5千人」は過去最大となり、東京の中野区や沖縄の那覇市の人口がそっくり1年で消えたことになります。

総務省の人口予測では、2020年に1億2410万人となり、2010年からの10年間で398万人減少するとされています。この間で、横浜市372万を上回る人口が消えていく見込みです。

出生数 初の100万人割れ 16年推計 少子化止まらず:東京新聞

政府は若い世代が希望通りの数の子どもを持てる「希望出生率1・8」の実現を目指すが、少子化に歯止めがかからない実態があらためて浮き彫りになった。塩崎恭久厚労相は二十二日の記者会見で「出生数の動向は厳しい状況が続いている。子育て支援などに力を入れていく」と述べた。

16年に結婚したカップルは62万1千組で戦後最少、離婚したのは21万7千組だった。...女性一人が生涯に産む子どもの推定人数を示す合計特殊出生率は、05年の1・26を底に緩やかな上昇傾向にあり、15年は1・45と前年から0・03ポイント回復。ただ主な出産世代とされる20~30代の女性人口は減少し、出生数自体は百万人割れが目前になっていた。

2005年以降、合計特殊出生率は上昇に転じているものの、少子化の影響を受けて20代・30代の女性人口が減少していくことで、出生数も減少を続けてきました。今後、「現在と同じような社会」が継続していく限り、出生数は推計通りに減少を続け、2020年には83万6000人となります。

少子化により減少を続けている若い世代ですが、「格差と貧困」の構図が深刻化することで、「出産・子育て」や「結婚」をあらかじめ断念せざるをえない状況に追いやられる若者も増えています。非正規労働と不安定雇用、低賃金という構造を抜本的に変えない限り、希望や将来展望を描くことはできません。また、電通の「過労死自殺」に象徴されるように、企業が働く人に対して、高度経済成長時の「滅私奉公」を強いていく体質や、「出産・子育て」をプライベートな「自己都合」と見てきた企業文化の大きな転換も求められます。

出生数が増加に転じるには、「現在とはまるで違う社会」をつくりあげる必要があります。

出生数100万人割れが示す危機に向き合え (日本経済新聞12月25日社説)

長年にわたる少子化で、母親となる年代の女性の数そのものが減っている。大台を割るのは時間の問題だった。ここにいたるまで実効性のある手を打てなかった政府の責任は重い。

子育てにお金がかかる、仕事との両立が難しい、そもそも結婚できるだけの生活基盤が整わない......。少子化の原因は繰り返し指摘され、対策も検討されてきた。

だがどんなに政策を磨き上げたとしても限界がある。エンジンがなければ船は動かないし、優れたかじ取り役も欠かせない。少子化対策は日本の最大の課題である、働き方改革とともにしっかり財源を投入することが大切だ。こうした社会的な合意は、どこまでできていただろうか。

フランスやスウェーデンは手厚い支援により、高い出生率と女性の就労とを両立させてきた。家族関係社会支出が国内総生産(GDP)に占める割合は3%前後ある。これに対し日本は1.25%だ。

子どもたちは将来の社会保障の担い手であり、日本を支える労働力でもある。未来への投資として財源を振り向ける合理性はある。

合計特殊出生率が低下しながら、政策転換によって回復した国は、「子育ての社会化」を実現しています。「子育ての社会化」によって、「出産・子育て」に対する社会的支援の土台を構築することで、「プライベートな自己責任」の枠を縮小して、負荷を軽減しています。合計特殊出生率を回復した代表的なケースとして紹介されるフランスでは、どんな子育て支援政策があるのでしょうか。

爆アゲ!?出生率を回復したフランス その政策とは (『けあGAKU これらぼ』2015年7月7日)

フランスで妊娠した場合、妊娠期間中に行う様々な検査は6ヶ月目以降は全額補償されます。さらに、出産に至っても、無痛分娩が主流であり、費用も全額社会保障費から出るため、出産までの費用が非常に少なくてすみます。

さらに、フランスでの出産に関する制度は「産めば産むほど得をする」システムになっています。まず、フランスで子どもが多いほど、税金が安くなるなどの負担減があるほか、子どもが2人以上いる場合は所得制限なしに家族手当がもらえます。

また低所得の場合は、医療費や教育費などは国が負担するほか、大学の授業料も無料となります。仕事をしている女性にとって、仕事と出産というライフワークをどのように行うかは大きな課題です。

フランスでは、妊婦さんは6ヶ月の休暇が認められているほか、育児休暇を取得した場合にも休暇前と同様のポジション・給与が保証されます。また男女問わず労働時間が週35時間と短くなり、年5週間の長期休暇がとれるなどの労働条件が整ったことから、女性も安心して働き、男性も育児に参加できる生活スタイルをとることができるようになったのです。

また、1998年に制度化されたPACSという制度も大きな影響を与えています。これは、同性・異性にかかわらず、共同生活をするために行われる契約で、結婚よりは緩いものの、法的には結婚したカップルとほぼ同等の権利が認められます。これにより、従来の「結婚して子どもを育てる」という価値観自体が変化し、結婚しなくても子どもが持てるようになったのです。

こうして、フランスの「子ども・子育て」支援政策を見ると、日本では到底実現しないとサジを投げてしまう人もいるかもしれません。

「現在と同じような社会」が今後も継続することを前提にすれば、それは無理もありません。けれども、子ども・子育て支援政策を大転換して「現在とまるで違う社会」をめざすのであれば、「変わるわけがない」という「思考停止」からそろそろ解放されるべきです。

男性の育児参加も大きな鍵となります。「出産・子育て」にあたって、女性のみではなく男性も育児休業をとることで、「子育ての当事者」としての自覚を確立することは、その後の子育てに大きな変化をもたらします。フランスでは2002年に男性の育児休暇が導入されています。

出生率が上がった。フランスが少子化を克服できた本当の理由って?『ハフィントン・ポスト』2016年11月12日、作家・少子化ジャーナリストの白河桃子さんとフランス在住ジャーナリストの髙崎順子さんの対談より)

白河フランスはどう少子化を克服したか』で紹介されている「男の産休」の話はとても新鮮でした。サラリーマンの夫が妻の出産後3日間は出産有給休暇を、そこからさらに11日連続の「子供の受け入れ及び父親休暇」を取るという、いわば「男の産休」制度。2002年に施行して、10年後には父親の約7割が取得しているという現状、すごいことですよね。

私も、子どもが生まれた当時、フリーのジャーナリストで日程調整ができたことから、2週間を共に過ごした経験を持っています。スタートラインで新生児と向き合い、母子をサポートする機会が持てたことは、その後に育児を担うことも自然にやれるようになりました。日本社会が、すぐにでも着手できるメニューのひとつとして、「男性の産休」を記しておきたいと思います。

また、日本で「子育て」に踏み切れない理由として、「高すぎる教育費の負担」の壁があります。 政府でもようやく、「給付型奨学金」の検討が始まっていますが、フランスのように大学の授業料が無料というわけにはいきません。日本では、親として子どもの教育費を負担する見通しが立てられなければ、「出産・子育て」を選択できない社会が続いています。「ひとり親家庭」や「低所得世帯」に生まれた子どもたちが、経済的な理由で大学進学をあきらめている現状を、高等教育の無償化等の「子育ての社会化」によって大きく変える必要があります。

滅私奉公で、毎日残業や接待で長時間を会社に捧げ、「子どもの寝顔しかみたことない」というお父さんたちがつくりあげた「企業文化」「生活モデル」が続く限り、「現在と同じような社会」がダラダラと続くことになります。人口減少が加速し、消費需要も減退するので、「縮小再生産」を繰り返していくことも歴然としています。

「現在とまるで違う社会」に脱皮するために、大きな転換に向けた政策メニューを示して、行動を取るべき時がきていると感じています。

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