「子ども人口増」「認可園申し込み者増」を追う「待機児童対策」

保育定員の拡充は営々と進めていきますが、在宅子育て支援や多様な保育形態を工夫することも大切だと思います。
Mother holding baby boy in arms, side view
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BLOOMimage via Getty Images

3月3日の区長定例記者会見で、私は世田谷区の新たな「人口推計」の予測値を発表し、2015年秋の国勢調査速報値で人口90万人を超えた世田谷区は、2035年から40年にかけて「100万人」になる可能性があることを示しました。新聞各紙とも、このニュースを取り上げました。

東京・世田谷区の人100万人へ 35年~40年に

東京都世田谷区は同区の人口について、一定の出生率などを前提にした場合、2035~40年に100万人に達するとの推計をまとめた。中でも高齢者や子どもの数は急増を見込む。介護施設や保育所といった福祉サービスの供給がより厳しくなる状況が懸念され、財源確保を含め抜本的な制度改革が迫られそうだ。

23区で人口が最多の世田谷区は15年の国勢調査人口(10月1日時点の速報値)が90万391人と90万人台に乗った。同区の1人の女性が生涯に産む子どもの数である合計特殊出生率を1.21(現在1.06)とするなど現実的な推計の場合、40年に100万人へ到達する。出生率がさらに高まる上位推計だと35年に100万人になる計算だ。(日本経済新聞2016年3月4日)

住民基本台帳に登録された人口は、88万4244人(2016年3月1日現在)となっていて、 昨年(2015年)の1年間だけで、9000人を超える人口増です。全国的な人口減少と少子化の波とは逆に、人口増だけでなく子どもの人口増も顕著な傾向となっています。私が世田谷区長に就任した2011年には85万2117人だった人口は、5年間で3.7%増えました。一方で、0歳から5歳までの子ども人口は、3万9628人(2011年)から4万4083人(2016年)と、実に11.2%増加しています。

この5年間で、0歳から5歳までの子どもが4455人増加し、毎年900人台(2015年は700人台)も子どもの人口が増えているのです。この原因として、当初は「乳幼児を連れた転入者が多いのではないか」との予想を聞いていましたが、2年ほど前に「0歳から5歳までの子ども人口で見ると、転出者の方が転入者よりもやや多いという統計が出ています」という報告を受けて、転入より転出が多いのになぜ人口が増えるのかという疑問に突き当たりました。

その答えは簡単で、「出生数が毎年増えているから」ということでした。たしかに、0歳児の出生という自然増が子ども人口を押し上げていたのです。それでも、毎年1000人近い子ども増は説明できるのだろうかと考え込みました。そこで、出生数に着目すると、2011年7272人→2012年7433人(+161人)→2013年7731人(+298人)→2014年8090人(+359人)という数字でした。2012年の0歳児は、そのまま世田谷区で成長していたとすると2013年には1歳児となり、前年より161人増えることになります。2013年の0歳児は、2014年には1歳児となって298人増となります。出生数が前年比で増えていれば、乳幼児の各世代で少しづづ増えた人口が合算すると900人台になるという仕組みです。つまり、転入という社会増ではなく、出生数の増という自然増で子ども人口が増えていたことがわかりました。

2004年には年間6000人前後だった出生数は、この10年のうちに2000人ほど増えて年間約8000人になっています。それでも、合計特殊出生率は2004年で0.78、このところ上昇してきているとはいえ2014年で1.05とようやく1を回復した状態です。世田谷区で子どもが増えてきたと言っても、持続可能な社会にはほど遠く、まだまだ子どもの数は少ないのです。

さて、待機児童数がもっとも厳しいと言われている世田谷区ですが、2011年に1万1265人だったか保育定員数を2016年で1万5925人まで4460人増やしてきました。その間、保育園の数も、198園から257園に増えています。一方で、認可保育園入園申込者数も2011年の4407人から、2016年の6439人と2032人(146%)という急激に増加し、保育園は新たに開園し保育定員も増えているのに、待機児童数は2012年786人、2013年884人、2014年1109人、2015年1182人と増えています。

世田谷区では「待機児童数の発表」にあたって、「育児休業の延長」「自宅で求職中」等のケースは待機児童数に入れています。多くの政令指定都市等では、この状態にあるケースを待機児童数から外しています。自治体によって「待機児童」を数える物差しが違うことについては、厚生労働省に向けて「待機児童数の数え方」は統一するように申し入れてきましたが、「自治体の判断に委ねたい」(厚生労働省)となっています。私は、見かけ上で待機児童数を削減することは、保護者に誤った情報を伝えることになりかねないと考えてきました。ただし、その上でも世田谷区の待機児童数が多いのはまぎれもない事実です。

また、待機児童が0歳・1歳・2歳に集中していることも見逃せません。2015年4月1日現在の1182人の待機児童の内訳は、0歳児434人、1歳児537人、2歳児156人、3歳児53人、4歳児2人、5歳児0人となっています。新設される認可保育園は、0歳から3歳までは定員通りに入園しますが、4歳・5歳はどこも開園時は定員割れしている状況です。したがって、厳しい待機児童状況の中で保育定員を1250人拡大しても、4・5歳が定員割れしていることから、入園する子どもの数は、定員をかなり下回ることになります。そこで、0歳・1歳・2歳を対象とした保育定員を拡充することが求められるわけですが、子ども・子育て新制度においては、認可保育園の運営に比べて低年齢児を対象とする小規模保育等の整備・運営補助条件が厳しいために、十分な整備数が確保できない状況になっています。

認可保育園をつくるにあたっては、整備できる適地を見つけるのが一苦労です。国の国家公務員住宅跡地を長期にわたって区が賃貸借して保育園運営事業者を公募し認可保育園にする手法や、都営住宅等の建替え時に生れた空地を利用して保育園用地にする等で整備を進めていきました。しかし、保育需要に比べて十分な供給があるわけではなく、地域的にも偏在します。残る候補は民有地ということになります。

住宅地が多く土地の賃貸料が高い世田谷区は、保育園運営事業者から敬遠されてきました。事業者が土地を見つけてオーナーに賃貸料を支払うにあたり、負担額が大きいことが参入障壁になってきたのです。

さらに知恵をしぼります。民間事業者が用地を探してきた場合に、民間事業者がオーナーに支払う賃料の3分の2を、区が20年にわたって補助するというスキームを導入しました。認可保育園用地だと賃料は平均で年1500万円、20年間で3億円の負担になります。このうちの3分の2、つまり2億円を区が助成することにしたのです。以前の助成額は4千万円ほどでしたから、思い切った判断を下しました。(「待機児童全国ワースト1」から脱却するために 『太陽のまちから』2015年1月27日)

一方で不動産資産の有効活用を考えている土地オーナーと、保育園運営事業者とを結びつけるために、不動産の専門家を区で登用して相談に応じられるように体制を組んで、ポスターで「保育園用地を探しています」と各所で宣伝したところ、2013年12月から2016年2月までに470件の土地の相談が寄せられ、すでに8園が開園し、また24件で開園の準備が始まっています。

このように、保育園開設に向けてフル回転で準備を進めている一方で、「保育の質」を確保することにも細心の注意をはらうようにしています。世田谷区では、「世田谷区保育の質ガイドライン」を公開し、保育園開設を予定する社会福祉法人や株式会社等の「保育の質」をチェックし、補助金を決定するかどうかの審査にあたっています。保育の「量的拡大」と「質の確保」を両立させようとしているということです。

当面は認可保育園整備をさらに進め、低年齢児を対象とした小規模保育を拡充していきたいと考えています。また、3・4・5歳で定員に満たない認可保育園があることに着目して、3歳未満までは駅周辺の小規模保育施設で保育し、3・4・5歳の子どもを駅周辺のステーションで預かり、周囲の認可保育園との間をバス送迎で結んでいく経費補助も始めます。

保育定員の拡充は営々と進めていきますが、在宅子育て支援や多様な保育形態を工夫することも大切だと思います。人口減少と少子化に歯止めをかけようという議論がある中で、どうしたら子どもや子育てが具体的に社会化され、子どもを歓迎される地域社会を築いていけるのか。今後も継続して、この課題を掘り下げていきたいと思います。

[付記]

3月22日にTBSのニュース番組で「『保育園落ちた』 待機児童最多の世田谷区長を直撃」という特集が放送されました。番組冒頭に「待機児童解消に全力をあげ、保育定員2万人に」との昨年4月の私の選挙チラシが紹介され、「なぜ公約が守れないのか、区長を直撃しました」とスタジオで断定的に言及されました。「公約」は政治家にとって重いものです。区長の任期中に達成するとした公約は、「待機児童解消に全力をあげる」ことであり、「保育定員2万人の目標値」に向けて定員を増やしているのが現実で、「公約が守れない」状態ではありません。

「2万人」は1年で実現するものではなく、2015年から5年間で5200人の保育園定員の増を実現するべく整備を進めています。本文中にもありますが、2016年春で1250人の定員増で1万5925人に増やしています。

また、TBSに抗議したところ3月23日朝、釈明を受けました。『「なぜ公約を守れないのか」という表現を使いましたが、保坂区長の選挙公約は「待機児童の解消に向けて保育定員を2万人に増やす」ことでした。従って表現に正確さを欠いておりました』という番組からのコメントをいただいています。

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