新たな研究センターはどうなるのか?

今回のSTAP騒動の帰結がセンターの規模を半分程度にすることになるとすると、これは適切な対応とは言えないのではないかと思います。

昨日のうちにリーク報道もあったようですが、本日、理化学研究所の研究不正防止に向けたアクションプランの発表に合わせて、STAP現象(←細胞ではなく)の検証に関する中間報告が為されました。

アクションプランには、6月12日に出された「改革委員会からの提言書」を受けて、「社会のための理研改革」として、ガバナンスの強化(外部有識者を過半数含む経営戦略会議の設置、役員の補佐体制の強化、広報体制の見直し等含む)、発生・再生科学総合研究センター(CDB)の大幅な改組(後述)、研究不正防止対策、第三者によるモニタリングを含む取り組みのチェックという4つの柱が盛り込まれています。

改革委員会からの提言書で「解体」という非常に強い言葉が使われたことを受けて、本年11月までに大幅な改組を行う方向で、9月までに運営体制の改革を進めることとしています。また、新しいセンター長の選考には新たな委員会を設置し、年度内を目処に選定する予定と書かれています。再編されるプログラムは以下のような内容です。

① 細胞環境応答研究プログラム(仮称)

② 器官創生研究プログラム(仮称)

③ 幹細胞臓器再生研究プログラム(仮称)

④ 数理発生生物学研究プログラム(仮称)

⑤ 網膜再生医療研究開発プロジェクト(仮称)

看板としてのプログラム名からは、数理発生生物学研究と網膜再生医療研究以外は、どのように再編されるのが不明確ですが、そもそも、新センターがどのようなミッションで発生・再生を軸とした(あるいはしないという選択もありえますが)研究所を目指すのか、とくに、基礎ととトランスレーショナル研究のどのあたりを主軸にするのかが、今後のポイントになると思われます。

研究組織改革にあたっては、任期制研究員の雇用契約を維持した上で、若手リーダーの独創的なボトムアップ型研究を、医療イノベーションに明確につなげるため、それぞれの研究の連携及び融合を意識した上で、目指すべき目標を明確にした研究体制をゼロベースで再編する。また、目的志向型の研究課題(プログラム)の設定に当たっては、発生・再生科学総合研究センターが世界をリードしてきた組織・器官形成に関わる研究を活かした加速が必要であり、ここ数年で急速に知見が蓄積された初期化やゲノム修飾等の新たな成果を踏まえる。

ただし、ここで大きな問題は、概要の方に「センターの規模は半分程度に縮減。研究者の雇用は確保」と書かれていることです(詳細な記述の方には具体的に「半減」とは書かれてはいないのですが......)。確かに、改革委員会からの提言において「解体するが雇用は確保せよ」となっているのですが、実際上、雇用だけが確保されても研究を行うことはできません。また、雇用は継続されるものの、理研内の他センターへの異動も必要であり、マッチングは容易なことではないと思われます。さらに、個人的な事情によって、他の地域に異動することが難しい方もいるのではないかと思います。

CDBのこれまでの運営体制の中で改革すべきことは改革すべきですが、「概要」にあるように、「規模を半分に縮小」することがその答えになるのでしょうか? 以下、アクションプランのp3-4より抜粋します。

発生再生科学分野が生命科学における最も重要な分野の一つであることに鑑み、発生・再生科学総合研究センターは体制を刷新した上で、国の科学技術政策に基づく中期目標及び中期4計画に沿いながら、今後の科学的潮流を見据えた研究活動を行うこととする。今回海外の有力学会、著名な科学者たちから発生・再生科学総合研究センターの研究活動と人材育成方針を支持する 170 通以上の文書が寄せられたことは、同センターが世界の中で、発生再生科学分野の中核を担ってきたことを意味する。この顕著な成果は約 250 名の研究者の研鑽に基づくものであり、従って彼ら彼女らの意欲を損なうことなく雇用を維持したい。

他の組織の運営について個人ブログで意見を公表することは不適切と思い、これまでコメントしておりませんでしたが、あえて個人的な見解を述べるとすると、今回のSTAP騒動の帰結がセンターの規模を半分程度にすることになるとすると、これは適切な対応とは言えないのではないかと思います。科学の世界において本来、研究不正への対応は、きちんとした不正調査が為され、関係者がそれ相応の処分を受けるべきですが、それが研究所レベルでの処罰に繋がるようなことがあっては、健全な科学研究活動がそこなわれるのではないでしょうか?

もう一つ気になったのは「広報体制の改革」です。今回、1月末の最初の記者会見等についての「過剰な広報」が大きな問題となって、話が科学者コミュニティーの中で解決できない問題に広がったことは事実ですが、それがCDBの「国際広報室」の落ち度によるものだったとは思えません。むしろこれまで、CDBの広報は国際レベルでの成功事例であり、ゼロから出発したCDBを10年の間に世界的な知名度を上げるのに貢献してきたと思います。とくに、国際的な幹細胞研究コミュニティーへも発信するなどの実力があったことは、間接的には例えば山中さんのノーベル賞受賞にもつながっていたのではないかと考察します。

研究不正防止については、かなり具体的な記載があり、これまでにきちんとした対応が為されていない研究機関には、大いに参考になると思われます(実際に運用してどうなるかは今後次第ですが)。9月末に研究不正に関するシンポジウム(下記・追って詳細ご案内)に登壇するので、その折に内容を盛り込もうと考えています。

......30ページに及ぶアクションプランを読んで時間を取ってしまったので、「検証実験」については明日以降にします。

○シンポジウム「科学研究の規制と法(仮題)」

日時:2014年9月28日(日)13:00〜17:00(予定)

会場:東京大学医学部教育研究棟14階 鉄門記念講堂

http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_02_09_j.html

<総合司会>

水野紀子・東北大学教授(民法)

<ご講演・パネルディスカッション>

大隅典子・東北大学教授(発生発達神経科学)

中村征樹・大阪大学准教授(科学技術社会論/科学技術史)

藤垣裕子・東京大学教授(科学技術社会論)

米村滋人・東京大学准教授(民法・医事法)

<パネルディスカッションご登壇のみ>

長谷部恭男・早稲田大学教授(憲法)

町野朔・上智大学名誉教授(刑法・医事法)

(2014年8月27日「大隅典子の仙台通信」より転載)

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