サッカーのない人生など考えられない。「ジョゴ・ボニートからヴィダ・ボニータへ」

私たちは、ブラジルW杯を、インターネット上でグローバルな多言語キャンペーン「サッカーのない人生など考えられない」を始める絶好のタイミングとして選びました。

サッカー ― ブラジル人の言う「ジョゴ・ボニート(ビューティフル・ゲーム)」 ― には、神話の一部となった、不滅の名言があります。史上屈指の名将、リバプールFCのビル・シャンクリー元監督による、世界中の熱狂的ファンの心情を凝縮した言葉です。「サッカーのことを、生きるか死ぬかの問題だと言う人がいる。だが私は断言できる ― サッカーは生死よりはるかに重要な問題だ」

そこまで言う人は少ないでしょうが、「ジョゴ・ボニート」の心のふるさとブラジルで、まもなく始まるワールドカップ。何億もの人々が、あらゆる通信手段を駆使して、7月中旬のクライマックスまで、4年に一度のサッカーの祭典に参加します。サッカーに限らずスポーツは、様々な観点から、人々の生活にとって非常に重要なものです。プレーや観戦を楽しむ人もいれば、W杯が生み出す巨大規模の経済活動にかかわる人もいます。着る服から話すことば、聞く音楽、手本とする有名人に至るまで、社会全体に多大な影響を及ぼすのです。

世界が4年に一度のサッカー・フィーバーの準備をしている今、試合終了の笛が鳴り、大会が幕を閉じて観衆が帰った後のことを考えてみることは大切です。OECDはこれまでも、「翌日」、つまり大規模なスポーツ大会の遺産に目を向けてきました。2012年ロンドン五輪を前にした2010年、私たちはオリンピックとパラリンピックがロンドンに何を残すかについて考察を行い、その中でこう主張しました ― 開催地が既存の施設等の活用を土台にすることができるなら、大規模なイベントは開催地に有益かつ永続的な貢献をすることができる。ゼロからスタートする必要はない、と。ロンドンについては、こうも述べました。「イースト・ロンドン住民の話をもっとすることが重要だ。この地域には交易・物流・生産の中心地として、豊かな歴史がある。類まれな性格の勤勉な人々、移民や亡命者が作ってきた歴史だ・・・これ以外の生き方はできないという、生きがいのある暮らしがあるのだ」

最後の「これ以外の生き方はできないという、生きがいのある暮らし」の部分が、主張の核心です。OECDのブラジルにおけるパートナー、ジェトゥリオ・ヴァルガス財団(FGV)は、サッカーがブラジルの社会経済の発展に与えるインパクトを分析しました(FGV Projetos Cadernos 6/13 no22)。オリンピックもそうですが、ワールドカップの開催にはコストがかかります。ブラジルは、大会用のスタジアムや、空港・港湾施設の改修、都市部の交通インフラの改善に、260億レアル(110億ドル)の支出を見込んでいます。しかしこの金額は、ブラジルが2010~24年に予定している投資全体から見れば、0.7%に過ぎません。また、投資の影響の多くはすでに実感できます。一方、開催都市や開催州では、ワールドカップ関連の支出は公式推定で、2014年の予定歳入のわずか0.24%から12.75%までと幅があります。

それでも、110億ドルは大金です。近年貧困から抜け出した数百万のブラジル人は、サッカーに使うには多すぎると思っているかもしれません。税金を払う下位中流層の増加に伴って、より良い教育や保健、交通の需要は高まる一方です。ピュー研究所が最近行った調査によると、人口の60%以上は、ワールドカップ開催を国にとって悪いことだ、その分、学校や医療などの公共サービスの予算が削られるから、と考えています。W杯は雇用を創出し、経済に良い影響があると考えているのは34%に過ぎません。ほぼ同数(35%)が、W杯開催はブラジルの国際的イメージ向上に役立つと考えているのに対し、39%は悪影響があると回答、23%はどちらでもないと答えています。

いかに生きがいのある暮らしを送るか、対立する利害や能力や目的のバランスをどうやって取るかは、政府にとって永遠の課題です。OECDは、「より良い暮らしのためのより良い政策」の策定に貢献することを目標に掲げています。しかし、これはサッカーファンが、史上最高のチームはどこか(1970年のブラジル代表か? 1960年のレアル・マドリードか?)を議論するのと同じで、決定的な答えはありません。ですから一般市民や有権者、納税者に情報を与え、世界中の政策立案者や有力者に、自分たちが大切に思っていることは何か、意見を伝えることができるようにすることが重要なのです。

そのために、私たちは6月9日、伝説的サッカー選手ペレ、ブラジル・スポーツ相アルド・レベロおよび我々の「指標」のパートナーであるジェトゥリオ・ヴァルガス財団と共に、OECDの「より良い暮らし指標」のポルトガル語版「O Indice para Uma Vida Melhor」を公開しました。これは、世界中の一般市民が、自分にとって何が大切かを基準に、自分の幸福度や生活の質を指標化することのできるオンライン・ツールです。ユーザーは、幸福度を左右する11の項目について、相対的な重要度を設定するよう求められます。11項目には収入、雇用、住居といった物質面だけでなく、共同体意識、教育、環境、ガバナンス、健康、ワーク=ライフ・バランス(仕事と生活の両立)、そして生活の満足度、つまり幸福度といった、生活の質の面も含まれます。現在、この指標には世界36カ国のデータが収集されており、今後増えていく予定です。各国における生活の質の全体的な説明も提供されていて、その国が全11項目を通じてどのような成績かも分かるようになっています。また、OECDレポートなどの情報源も提供し、ユーザーが自由にアクセスして活用していただけます。

最初のバージョンである英語版の発表以来、184カ国の400万人以上が、OECD「より良い暮らし指標」を利用しました。この指標は幸福度の尺度のモデルとして、国際的に参照されています。英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、ロシア語版に次いで6番目となるポルトガル語版で、さらに2億5000万人が母国語でこの指標を利用できるようになります。

今回、初めてお目見えする新機能として、世界6万5000人以上が生活の質に何が一番大切な要因と考えているかを、過去3年間に利用者が入力・シェアした指標をご覧いただけるようになりました。この生きたデータベース(http://www.oecdbetterlifeindex.org/responses/)は、インタラクティブ・マップとして閲覧可能で、「指標」のユーザーにとって大切なことは何かが、どこからでも見られるようになっています。「指標」は自分たちの暮らしを左右する政策をより良く知る手立てを一般市民に提供するとともに、政策立案者や有力者に対しては、自分たちが奉仕する人々にとって何が最も重要かを知るきっかけになります。それは彼らが自分たちのパフォーマンスを改善し、市民の満足度や関与を向上する一助になるはずです。

私たちは、ブラジルW杯を、インターネット上でグローバルな多言語キャンペーン「サッカーのない人生など考えられない」を始める絶好のタイミングとして選びました。これはブラジルだけでなく世界中で、人々の日々の暮らしに何が大切か、21世紀における幸福や生活の質の要素は何か、ということについての意識向上のキャンペーンです。

ブラジルの文豪マシャード・デ・アシスの『日付のない物語』で、登場人物のマティアス・デオダテ・デ・カストロ・エ・メロ(Matias Deodato de Castro e Melo)は、「幸福とは一足の靴だ」と言っています。あなたの応援するチームがどこであれ、これからの数週間に、彼らのシューズが幸福を運んできますように。そうしたチームやファンに起こる出来事や、勝負の結果にかかわらず、「ジョゴ・ボニート(ビューティフル・ゲーム)」の後には「ヴィダ・ボニータ(ビューティフル・ライフ)」を築くべき時が来るのです。

アンソニー・グーチ

経済協力開発機構(OECD)広報局長

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