英語圏での「がん患者ネットワーク」と日本

「なぜ、日本にはそういう仕組みがないの?」

海外(英語圏)での「がん患者ネットワーク(がん患者情報)」の状況についてご紹介します。

(ケンブリッジの街から。チャールズ川の対岸にボストンの街が見える)
(ケンブリッジの街から。チャールズ川の対岸にボストンの街が見える)
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私は前職、米国系の投資銀行に勤務していたため、社内のアメリカ人で、がんを経験した人達とよく話しました。

その中で、カリフォルニア州立大学サンフランシスコメディカルセンター(UCSF Medical Center)病院で乳がんの診察を受けた友人の話には、とても驚きました。

彼女を診た医師が乳がんを伝えたあと、2枚の紙を渡したというのです。

それは、女性の名前、メールアドレス、電話番号が掲載されたリストでした。

「ここに載っている女性たちは、あなたと同じタイプの乳がん(がん病理)を先に患った人たちで、いつでも連絡してくれていい、相談にのるよと言う人たちのリストです。良かったら気軽に連絡してみては、いかが?」

医師にそう言われ、友人はそのリストを宝物のように持ち帰ったと言いました。

がんを患うと、多くの患者が先に自分と同じ経験をした人たちがどうやって病と向き合ったのか?今はどうしているのか?等々、知りたいことがたくさん出てきます。

そして、可能であれば、がん経験者や同じ治療を受けている人たちとコミュニケーションを取りたいと思う人も多いです。

だから、医師がその橋渡しをしてくれたことが嬉しかったと言っていました。

そして彼女から、こう責められます。

「なぜ、日本にはそういう仕組みがないの?」

後日、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター(MD Anderson Cancer Center)の医師と朝食をご一緒させて頂く機会があったので、確認した所「(この病院にも)確かにそういうサービスをしている医師がいる。病院が行っているというよりは、医師個人の判断で行っていて、病院はそれを禁じていない」説明してくれました。

本当に素晴らしい仕組みです。

その友人と医師、他の医師たちとも意見交換しましたが、日本はお国柄と個人情報保護法から、医師が行うのは難しいだろうということでした。

(ボストン、チャールズ川沿いの公園。2013年11月に訪問したとき、紅葉真っ盛りだった)
(ボストン、チャールズ川沿いの公園。2013年11月に訪問したとき、紅葉真っ盛りだった)
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一方、アメリカには民間の団体で患者のネットワークをインターネット上で作り、経験情報を交換できる大きな組織が2つあります。

❏ ペイシェンツ・ライク・ミー:https://www.patientslikeme.com/

❏ アイ・ハド・キャンサー:https://www.ihadcancer.com/

ペイシェンツ・ライク・ミー(PLM)は、もともとALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者団体でしたが、ALSに限らず、がん、慢性疾患、他の希少疾患と広げ、登録者数が60万人(2017年12月時点)いると言われています。

CNN、フォーチュンなど有力なメディが「アメリカを変える組織」として取り上げ、知名度が上がりました。

私は、PLMの仕組みはとても良くできていて、がん患者にとって精神的な救いになると感じ、そのサイトを観ていました。

ただ、すべて英語表記なので、英語を母国語とする人たち(米国、英国、オーストラリア、カナダ、等々)は、普段に利用されていますが、日本人は恩恵を受け難いです。

だからこの「日本語版」を作りたいと思い、2013年11月にPLM本社のある、ケンブリッジ(マサチューセッツ州)に行き、マーチン・コールター氏(当時CEO)とベン・ヘイウッド氏(Co-Founder)に会い、意見交換をしました。

(ケンブリッジの街、この街にPLMはあった)
(ケンブリッジの街、この街にPLMはあった)
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彼らの理想と私が目指すものを話すうちに、お互い共感し、とても盛り上がったことを今も覚えています。

そして帰国した後、PLMと似て非なる組織・仕組みを作りたいとして出来上がったのが「5years」。

いま、がん患者さんの支援活動としては、日本最大級になったと自負しています。

アメリカ人の友人たちと意見交換するなかで、時々指摘されるのが、

「日本人は、がんという病気をタブー視し過ぎている(アメリカでは、そこまでいかないよ)」

と言うものです。

つまり、「がん」と聞くと、日本人は患者本人も周囲も急にヒソヒソになり、時には腫れ物に触るかのような接し方になることがあると言われました。

納得いく部分もあり、自分なりに「なぜ」そうなってしまうのか考えましたが、私の理解では、この国には「がんの後、元気に社会に戻った人たちの情報が少なすぎる」からだろうと思っています。

これは、私ががん治療を受けていた10年前に感じたことでもあり、今でも基本的に変わっていないと思います。

元気になった人たちの情報が少ない、だから、いまだに「がんをしたら終わりだ」という考え方(ステレオタイプ)があり、その結果、タブー視につながるのだろうと思うのです。

だから、「がんの後、元気に社会に戻った人たちの情報を発信」すれば、多くのがん患者さんとご家族が精神的に救われ、がん社会が変わるのではないかと考えて取り組んでいるのがウェブサイト「5years」と「ミリオンズライフ」です。

私は常日頃お話しするのですが、がん患者とご家族には希望が必要だと思います。

それは、治療への希望であり、治療後の人生に対する希望です。

それには、がん治療後に元気になった人たちの情報が必要で、その人たちとコミュニケーションがとれるインフラが必要だと感じ、この2つのウェブサイトを運営しています。

いつか、がんをしても終わりではないとわかり、そして、タブー視されない社会になればいいなと思っています。

大久保淳一

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