Netflixについてわかってきたのは、まだ何もわからないということだ。

謎のベールに包まれていた感のあるNetflixが、いきなり重たい岩戸を開けて情報を浴びせるように放ちはじめたのは先週、6月17日以降だった。
FILE - This Jan. 29, 2010 file photo, shows the company logo and view of Netflix headquarters in Los Gatos, Calif. Netflix Inc. has reached a multiyear agreement Tuesday, Aug. 10, 2010, to stream movies from Paramount, Lionsgate and MGM online starting Sept. 1. It's a major move as Netflix looks to cater to people who want to watch movies instantly. (AP Photo/Marcio Jose Sanchez, file)
FILE - This Jan. 29, 2010 file photo, shows the company logo and view of Netflix headquarters in Los Gatos, Calif. Netflix Inc. has reached a multiyear agreement Tuesday, Aug. 10, 2010, to stream movies from Paramount, Lionsgate and MGM online starting Sept. 1. It's a major move as Netflix looks to cater to people who want to watch movies instantly. (AP Photo/Marcio Jose Sanchez, file)
ASSOCIATED PRESS

謎のベールに包まれていた感のあるNetflixが、いきなり重たい岩戸を開けて情報を浴びせるように放ちはじめたのは先週、6月17日以降だった。日本法人代表のグレッグ・ピーターズ氏が様々な会見やイベントに登場しはじめたのだ。

まず17日にはフジテレビとの共同会見で『テラスハウス』の新作とドラマ『アンダーウェア』の制作を発表した。「共同制作」の触れ込みだが、実際にはフジテレビが制作してNetflixが配信する仕組みだ。

18日の朝には記者を集めてプレゼンテーションが行われている。同じ日の夜には雑誌WIRED主催のトークイベントが代官山で開催された。抽選だったのだが当たったのでぼくも行ってみた。

その時のトークを含めた印象を、WIREDの編集長氏が記事に書いている。

彼はNetflix制作の第一弾がよりによってテレビ局の、しかも『テラスハウス』だったことがよほど気にくわなかった様子で、実際こんなことを記事中に書いている。

"というわけで、代表取締役社長を招いてのイヴェントは、いきなり不安が立ち込める仕儀となった。"

いやいや、不安を立ちこめさせたのは編集長氏のほうだ。ぼくたちは『テラスハウス』制作をなんとも思ってないのに、あからさまに落胆して場を白けさせたことがホストの態度として適切だったのか。こちらとしてはそんなことは置いといてどんどん聞くことを聞いてほしかった。彼が「しかしテラスハウスねえ・・・」とため息をつくたびに空気が澱んでしまった。

彼自身も記事でも書いている通り、『テラスハウス』は第一弾に過ぎず、これからおそらく続々企画が発表されるだろう。少なくとも、ぼくたちが想像するよりずっと多くの制作者にコンタクトして企画について議論しているらしい。その中には、制作会社や個人のクリエイターも多いようだ。編集長氏が心配しなくても、エッジーなものも早晩出てくるだろう。

さて20日土曜日朝5時の『新・週刊フジテレビ批評』では、グレッグ・ピーターズ氏へのインタビューが放送された。インタビュアーは光栄なことに、ぼくに話が回ってきた。ずいぶん前にゲストで出してもらい、その後はコメント出演程度だったのだが、VODの話ならこいつだと思い出してくれたのだろう。前々からNetflix社にインタビューを申し込んでいたのが、理想的な形で実現した。いい年してさすがに興奮した。

実はインタビューは、17日のフジテレビでの共同会見前に30分間だけ時間をもらって行った。念願のインタビューだったので、番組スタッフとも入念に打合せした上で質問項目も整理し、高揚しながらグレッグに話を聞いた。

ただ、同時通訳を介しての時間が限られたインタビューは想定以上に時間がかかり、用意していた質問は半分程度しか聞けなかった。

そして、「フジテレビとは次々に制作をするのか」「他にはどんな企画が準備中か」「月額いくらで検討しているのか」「共同制作では著作権はどちらが持つのか」そういった核心に触れる質問には「それはいま議論を重ねているところだが、日本のコンテンツは素晴らしい」などとうまくかわされてしまった。

番組を見た人は、それなりに濃い内容と思えたかもしれないが、うまく編集してもらえたからで、けっこう空振りの質問が多かったと思う。近々、別のところでインタビューの書き起こしを読んでもらえるようにしたい。

もう少し聞きたかったなあと思っていたら、さらに別の人たちへのインタビューの機会を設けてくれるとNetflixから連絡をもらった。ちょうど本国から役員らが来るので、彼らの時間をとってくれるという。それが実は昨日、6月25日だった。日本のスタッフと、本国のスタッフ二人に話を聞けて、お腹いっぱいになった。かなりわかってきたぞ、Netflix!

彼らへのインタビューも後日できるだけ全文を読んでもらえる状態にしたい。ただ、ぞんぶんに話を聞いてよーくわかったことがある。それは、彼らはまだ何も決めていないし、彼らもまだわからないことがいっぱいある、ということだ。さっきインタビューで"かわされた"と書いたが、決まってるけど言わずにかわしたのではなく、ほんとうに決まったことがあまりないから言わなかっただけのようだ。

例えば料金。アメリカの料金からすると、日本では1000円程度になりそうだが、まだ決めていないという。どうやらほんとうにいま、議論の真っ最中らしく、アメリカの料金をそのまま為替レートに照らして決めるわけではないようだ。

フジテレビとの今後の制作も、お互いに前向きなのは間違いないようだが、ここまでいっぱいいっぱいで、次々に決まるかどうかはまたこれからなのだろう。噂レベルで聞いた話では、決まった2作もここまでで何度も頓挫しそうになったらしい。

共同制作で著作権はどうなるのか。これもケースバイケースとしか言えず、定型があるわけではないようだ。お金の出し方も、何割かを持ちあう場合、全額Netflixが負担する場合といろいろある。ただ、お金を出したからには著作権を主張する、わけでもないらしい。自分たちに必要な配信期間がいちばん大事で、その後はそちらでご随意に、と渡してくれることもある。フジテレビとのケースがまさにそうなのだし。

それから、ここがポイントだと思うが、日本に満を持してやって来るからには、それがこのレンタルDVDが根づいている上、dTVとhuluという先行者がいる難しい市場であるからには、普及させる具体的な勝算があるのではないかとみんな思っているだろう。ぼくもそう考えていた。

今回のインタビューで感じたのは、「こうすれば普及する」という算段はこれから立てるようだ。別にそう言ったわけではないが、インタビューで伝わってきたのだ。そしてそれを悲観してもいない。「みんなで考えればなんとかなるだろう」そんな空気を感じた。

面白い人たちだ!

それはもちろん、自分たちのサービスに自信を持っているからだと思う。「うーん、そんなにレンタルが根づいているのかあ。・・・まあ、でも絶対我々のサービスは便利なんだから、いずれ使ってくれるだろう」そんな風に感じている様子なのだ。

ということは、彼らは何年も粘るのだろう。一年とか二年やって大してユーザーが増えなかったとしても、撤退を検討、などはしそうにない。成功するまであれこれ策を講じつづけるのだと思う。

Netflixについては過度な反応をする人が多い。地上波の放送事業を脅かすにちがいない!いや、怖れるに足りないちょこざいな存在だ!新たな方向性を映像制作にもたらすのだ!いやいやテレビ局と組むのだから結局何も変えやしないのだ!

何かみんな、この時点で判断をしようとしている。けれども、Netflix自身がまだ何も判断していないし、日本でも成長するのかしないのか、どんなコンテンツを作るのかも悩み中、模索中なのだから何も決めようがないのだ。そしてぼくたちは何も判断する必要はない。いいの悪いのを言うより、「ねえねえ、こういうこと一緒にやらない?」と持ちかける側になったほうがずっといいだろう。

味方だと決めつけて安易な交渉をすると、したたかにおいしいとこどりをされるかもしれない。用心しすぎて疑ってばかりだと、何も進まないかもしれない。とにかく過度に敵視も期待もしない、というのがいま言えることだと思う。

そしてとは言え、彼らの日本進出でいろいろ面白い変化も起こりそうだとも考えているのだが、それはまた別の機会に書こうと思う。

ところで今週、6月27日朝5時の『新・週刊フジテレビ批評』にも出演し、今度はフジテレビのコンテンツ事業局長、山口真氏とお話しするので、よかったら見てね。

コピーライター/メディアコンサルタント

境 治

sakaiosamu62@gmail.com

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