【赤ちゃんにやさしい国へ】保育士さんの悩みはこの国の子育ての悩みそのもの〜イベント型保育活動・asobi基地(その2)〜

前回、「保育士さんたちがきっと世界を変えていく」のタイトルでイベント型保育活動asobi基地について書いた。取材は2回に渡って行ったので、続きを書きつつ、保育士についてももうちょっと書こうと思う。5月初めの連休中に二子玉川でasobi基地の活動があるというのでまた行ってみた。取材というより遊びに行った感じ。

前回、「保育士さんたちがきっと世界を変えていく」のタイトルでイベント型保育活動asobi基地について書いた。取材は2回に渡って行ったので、続きを書きつつ、保育士についてももうちょっと書こうと思う。

5月初めの連休中に二子玉川でasobi基地の活動があるというのでまた行ってみた。取材というより遊びに行った感じ。今回は、また三輪舎の中岡さんも来てくれた。前に「子育ての問題を本にしたい」と書いたら連絡してきた物好きな男で、今年出版社を設立したばかり。そんな作ったばかりの出版社でホントに本ができるんだろうかといぶかりつつ、彼の熱い想いに引っ張られて一緒に取材を進めている。そしてこの日は奥さんの寛子さんと8カ月の赤ちゃん、湊人くんも連れてきた。

寛子さんは別の出版社で働いていたが育休中。中岡夫妻にとってぼくが書いていることは、いままさに直面している問題でもあるのだ。

さて今回のasobi基地の会場は二子玉川のライズというショッピングセンター。この街はここ数年で再開発が進み、伝統ある玉川高島屋、通称タマタカとは別に新しく施設が次々にできている。その中には来年、楽天が移ってくるビルも建設中だ。

二子玉川は”世田谷”の専業主婦のセレブな奥様の街、というイメージだったが、新しい方の街はいまの若いファミリーに合う、もっと地に足のついた生活感がある。H&MやABCマートがテナントに入っているのが象徴している。旧来のニコタマにはありえなかったタイプの店だ。それでもどことなく”セレブ感”もほのかに漂い、いいバランスかもしれない。

そんな中にasobi基地の感覚はどんぴしゃりとハマっている気がする。

イベント全体は二子玉川ギャザリングと銘打たれている。その核となるのがasobi基地。

こんなデザインの看板がライズの中庭に立てられている。このカジュアルさが新しい二子玉川に似合っている。

うしろにH&Mがみえる中、会場の中央にasobi基地のスペースが配置されている。その姿には2014年の子育てを取り巻く現代があると思う。

前回見た時同様、遊び場で子どもたちが思うがままに遊んでいる。保育士を中心としたasobi基地のキャストたちが子どもたちが伸び伸び楽しめるよう導いている。親たちは座ってその様子を見守っていたり、自分たちも一緒に遊んだりする。

遊んでいるのはホントに素朴なもので、家の中にもありそうな紙コップだのテープだのがおもちゃになる。子どもは本来、どんなものでも遊べてしまうことがよくわかる。

子どもたちが遊ぶ脇で、親のためのコーナーもあった。「おしえて保育士さん」という、お母さんのためのカウンセリングだ。こちらはasobi基地の代表である小笠原舞さんがやっているもう一つの活動”こどもみらい探求社”の企画。

同行した寛子さんが興味を持って参加している。下の写真に写っているのだが、どれが寛子さんかはここでは書かないでおこう。

寛子さんが相談をしている間、お父さんは湊人くんの相手をしていた。お父さんはお母さんのサポートをしなきゃね。

ところで、前回の記事を読んだ方からメールをもらった。保育士だという彼女は、一方で7カ月の赤ちゃんの母親でもある。いまは育休中なのだそうだ。

前回の記事でぼくは保育士について、長く続けないことが普通になってしまっていると書いた。メールをくれた方はこれに関して切実な悩みを書いてくれていた。以下に一部を引用する。(YTさん、引用したい旨をメールで送ったのですが、Unknown userということで戻ってきちゃいました。あらためてメルアドを確認してメールしてもらえないでしょうか。以上、業務連絡)

実は私は今とても葛藤しています。保育士をしている以上仕方のない葛藤なのですが、

“このまま働き続けていいのだろうか?自分の子どもを預け、他人の子どもの世話をするのでいいのか?”というものと、”子育てしながら働くことは可能なのか?子どもにしわ寄せしないのか?”というものです。

実は潜在保育士がかず多くいる理由はこの葛藤も大きいのではないかと思うのです。

(中略)

母親になる間は保育士としてたくさんのお母さん達の相談を聞いたりもしてきました。気持ちに寄り添ってきたつもりですが、お母さんにならないとわからないことがたくさんあります。

だからこそ保育の現場には子育て中の保育士の存在は大きいと思いますが、現場の体質が、独身の体力のある若い人しかできない様な体質なのも確かです。

(激務•低賃金など)

もちろんそんな現場だけではないですが。

こんな現状があるから、結婚したら辞める。辞めるから新しい若い人が入る。一度辞めてしまうとなかなか復職しずらい。こんなループこそが潜在保育士を育成してるのではないかと思うのです。

なるほど、そうかあ。

「子供ができるまでの仕事」のイメージになってしまっていると書いたわけだが、やりがいと使命感で続けたいと思っても、ハードルがかなりあるのがよくわかった。

子育てを経験すれば、保育の仕事にきっと役立つはず。でも、ハードさの前に躊躇してしまう。だって、ワーキングマザーが夜子どもを迎えに来るまで、保育士の仕事は続く。12時間労働が当たり前なのだという。それと自分の子育てを両立できるのか。

子どもがある程度育つまで復帰は難しく、彼女の言う”潜在保育士”となっていく。これはもったいないのではないか。

それに保育士の仕事は経済的に報われにくい。体力的にもハード。

いろんな側面で、出産後も続けるのが難しいのだ。

高度成長の時代はそれでもよかったのかもしれない。ゆくゆくは専業主婦になるのが普通なので無理して続ける人も少なかっただろう。でもいまは、共働きが当たり前、と言うより共働きが必要な世の中だ。せっかく国家資格をとっても出産すると生かせなくなるようでは、本人の生活のためにも社会のためにも、よくないのではないか。

また違う話だが、asobi基地に限らず保育士さんの話を聞くと、預かる子どもたちの親との関係がいかに難しいか、わかってくる。

例えば、保育士は親と仲よくなってはいけないのだそうだ。どの家族にも公平に接しなければならないので、特定のお母さんとお茶を飲みに行くのも許されない。無用な誤解を生みかねないからだ。そうなると、ようするにどの親とも距離を置かなくてはならなくなる。保育士は保護者と永遠に”仲間”にはなれないのだ。

その話を聞いた時、その保育士さんは”保護者”ではなく”保護者様”と呼んでいた。”様”をつける関係。つまり保育所から見ると親とはお客様なのだ。保育所は、個々の保育士にそういう姿勢を求めてくる。

それはどうなのだろう。それで幸福な保育になるのだろうか。

ぼくはこの数カ月で保育についていろいろ取材してきたが、よくわかったのは、子育て中にお母さん同士がどう助けあうかが重要だということだ。子育てをするもの同士が、姉妹のように親密で悩みも喜びも共有できるのが必要だし自然だ。だから保育士と保護者は”友達”になった方がいい。

それが”保護者様”と呼ぶことでまったくできなくなる。まるでサービスを受ける者とそれに対価を支払う者のような距離がある関係では、”仲間”になれないではないか。

asobi基地の取材を通して、ぼくは保育士のみなさんの想いや悩みに少しだけふれることができた。asobi基地の活動は子どもたちのため、育てる親のためではあるが、それを保育士さんが中心になって行うことで、保育士の想いと社会との新しい接点にもなっている。そのことの意義も大きいのだと感じた。保育士さんたちの悩みには、この国の子育てが解決すべきポイントが見え隠れしている。

ところで、ハフィントンポスト日本版は今月で一周年を迎えたそうだ。ぼくは子育てについて自分のブログで書いているのだがハフィントンに転載されて拡散するので、”ハフィントンポストの記者の方”と誤解されたりしつつ、その一周年にはわが事のようにおめでたい気持ちになっている。5月27日に一周年記念のイベントがあり、ぼくも少し関与する。参加料は1000円で、申し込めば誰でも参加できる。興味あったら来てみてはどうでしょう?

コミュニケーションディレクター/メディアコンサルタント

境 治

sakaiosamu62@gmail.com

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