「文化経済大国日本を目指しています。」株式会社和える 代表取締役 矢島里佳

和えるの店舗に展示・販売されるのは日本の技術とアイディアを掛け合わせて作られた幼児向け商品の数々。なぜ今、日本の伝統産業で幼児向けの商品を生み出しているのか。
川辺洋平

矢島 里佳(やじま りか)

株式会社和える 代表取締役。「21世紀の子どもたちに、日本の伝統をつなげたい」という想いから、2011年3月株式会社和えるを設立。幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、子どもたちのための日用品を日本全国の職人と共につくる『0から6歳の伝統ブランドaeru』を立ち上げる。http://a-eru.co.jp

東京・目黒に位置する和える第1号直営店「aeru meguro」。そこに展示・販売されるのは「愛媛県から 砥部焼の こぼしにくい器」や「福岡県から 小石原焼の こぼしにくいコップ」、「徳島県から 本藍染の 出産祝いセット」といった日本の技術とアイディアを掛け合わせて作られた幼児向け商品の数々。なぜ今、日本の伝統産業で幼児向けの商品を生み出しているのか。株式会社和える代表取締役の矢島里佳さんにお話をうかがいました。

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OYAZINE(以下、Oと略記): 会社を作る前から、伝統産業の職人さんを取材するライターとしての活動や、大学で和文化のサークル運営をしていらっしゃったと伺っていますが、起業してから何か変化はありましたか。

矢島里佳(以下、矢島と略記):はい、もともとは個人で活動していましたが、就職活動の際に、赤ちゃん・子ども向けの伝統産業品を販売する会社に勤めたいと思い、探したのですが見当たらず、ないなら創ろうと考え、法人を設立ました。また、矢島里佳個人としてというよりは、この事業を育んでいくには、会社という別人格が必要だろうなと。矢島里佳個人と"和えるくん"は別の人格。ですから"和える"の人格と世界観を持ってこのブランドになったと捉えています。

O:会社は5期目ですね。起業当時に想像していた未来と、今は重なりますか。

矢島:全く予期していなかったということは実はあまりないですね。起業当時から、和えるくんをこんな風に育てていきたいというものがあり、実現するために、一歩ずつやってきた感じがあります。ただ、それぞれのアイディアがいつ実現するかというのは多少前後します。たとえば路面店を会社設立から3年くらいで作りたいなというイメージがあり、大体3年くらいで東京直営店『aeru meguro』が完成しました。今準備中の、京都直営店の『aeru gojo』は、素敵な大家さんに出会い、予定より少し早かったのですが、ご縁に導かれてオープンすることを決めました。

O:なるほど。初期計画からぶれないところが素晴らしいです。今後の和えるの展開として、店舗を広げていく以外の事業も考えていらっしゃるのでしょうか。

矢島:活動の本質は、店舗を増やすことではなくて、文化を身近に感じられる社会を作ることだと思っています。それを私たちは、「文化経済大国日本」と表現していて、"和える"のプロダクトでいえば、0から6歳の子どもたちが、地域ならではの素材や先人の知恵が詰まったものを幼少期から使っていただくことが、日本の文化や精神性に触れる第一歩になるのではないかと思っています。これから生まれてくる新規事業も、様々な切り口から暮らしそのものを提案、提供できるような展開を考えています。

O:文化経済大国日本、大きなコンセプトですね。

矢島:私たちは伝統工芸ではなく、伝統産業という言葉を使うようにしているのですが、その理由として、まだ伝統工芸品という言葉をきくと、一品ものとか、自分からは遠い存在という印象が強いという感覚があるのです。まだまだ文化があって経済がうまれるのではなく、経済のために文化を利用しているように感じるんです。子どものための伝統産業品というものがなかったので作り始めたのですが、今後は伝統産業に触れられる時間や空間を提供するようなことに挑戦したいと思っています。

O:"和える"というコンセプトのもと、対象を広げた事業もイメージしていらっしゃるということ。

矢島:そういうことです。たとえば、個人の使い方に合わせて完全にオーダーメイドのプロダクトを提供するaeru oatsurae事業、伝統産業で生まれたものに囲まれた場所で宿泊できる空間を和えるがプロデュースするaeru room事業などです。現代的であり、伝統的であり、という和えられた空間を全国のホテルや旅館のみなさまと共に作れたら、また新たな泊まる意味を提案できるかなと。その先には企画から運営まで全て、和えるが提供するaeru houseも考えています。宿泊業をやりたいわけではなくて、伝統産業品を実際に使う機会を提供したいと考えています。

O: そこまでして伝統産業の世界を広げたい、伝えたいと思う矢島さんのパッションの源や、きっかけが何かあるのでしょうか。

矢島:私は、もともとジャーナリストになりたかったんです。今でも、自分のことを「実践的ジャーナリスト」だと考えています。学生時代に茶華道部に所属していたこともあり、とりわけ、伝統や文化に興味を持っていました。大学に進学して自分は何を専門としたジャーナリストになりたいのかを考えたときに、伝統を、先人の知恵を伝えたいという想いが強いことに気がついたのです。ですから自分が伝えたいと思えるような対象物を作るために和えるという事業に取り組みました。和えるは、自ら実践し、伝えながら実現させていくという挑戦です。

O:和えるは伝統産業にフォーカスしていますが、矢島さんの興味はもう少し広く、先人の知恵を伝えていきたい、という。

矢島:まさにその通りです。最近は、他社のブランドプロデュースや、商品開発もお手伝いしています。文化経済大国を築くには、様々な会社が共に取り組むことが大切であるというのが私たちの考えです。分野が異なっても、和えるが実践していることでなにかお役に立てることがあれば、ご一緒できれば嬉しいです。

O:ジャーナリストを目指していた矢島里佳さんが「伝統」というテーマに出会えてよかったです。

矢島:本当にそう思います。伝統って、多くの人が、立ち返りたい、知りたいと思っていた領域で、それは私も同じく現代を生きる1人の日本人として欲していたのだと思います。日本の伝統産業を子どもに伝える仕組みがないことに気がつきました。日本に生まれ育ったのに、日本のことを知らない。そんな現代の日本社会で大人になった私たちの世代は、先人の知恵に惹かれるのかもしれません。モノの豊かな時代に育った私たちの世代がだからこそ、本当の豊かさについて考え始めているように感じています。

O:「伝統」に対する興味は、若い人たちを中心に広がっているのでしょうか。

矢島:そうですね。本質的なものの魅力に興味を持ち、大切にする傾向があると思います。世代的に、豊かさの象徴が人に見せたいというものではなくなっているという感覚の違いもあるのかなと思います。自分が本当に良いと思ったコトやモノにお金をかける。10個のコップより1個の良質のコップのように、数よりも質を求めるようになっています。ものがありすぎると疲れると感じる人も多くいらっしゃいます。シンプルで良質な暮らしを望んでいる時代だからこそ、和えるが生まれたと思います。

O:先ほど、店舗をあまり増やしてもとおっしゃっていました。

矢島:そうですね。あまり増やしすぎても「和える」らしくないと思っています。和えるのお家というテーマで、東京直営店「aeru meguro」、和えるのおじいちゃん・おばあちゃんのお家というテーマで、京都直営店「aeru gojo」、もし今後店舗を増やすとしても、47都道府県のこぼしにくい器が完成したときに、47都道府県のこぼしにくい器を販売するコンセプトショップを展開するなど、それぞれのお店に意味をもたせられるような展開を丁寧に考えていきたいと思います。

▲aeru meguro の店内には暖かで静謐な空気が流れている。

O:京都店も準備されているということですし、仲間も増えたら嬉しいですね。

矢島:はい、aeruらしいお兄さん、お姉さんを募集しています。正直でそして素直な人がいいですね。似たようなことですけど、素直であることと正直であることは少し違うと思うのです。正直は姿勢。素直は気持ち。どんなときも、嘘をつかない、言い訳しない。失敗しても正直に伝える。褒められたら素直に喜ぶ。そんな気持ちの良い人とお仕事したいですね。

O:特別なことではなく基本がしっかりしている人。

矢島:そうですね。そこは教えられないなと思います。そこだけは成人するまでの時間で培われるもので、自分に素直に生きてきた人、自己愛と利他愛を良いバランスで持ち合わせている人は素敵ですね。三方よしを考えられ、自分も、相手も、社会も喜ぶ循環を考えられる人は魅力的ですよね。

O:"和える"の商品を購入するにはどうしたらよいでしょうか。

矢島:オンラインショップ もしくは 東京直営店 「aeru meguro」で購入いただけます。実際に商品に触れてみたいという方は、東京直営店「aeru meguro」に、気軽にお立ち寄りいただければ嬉しいです。

O:近著「和える-aeru-」も拝読しました。

矢島:嬉しいです。ありがとうございます。今日お話ししたような、これから先の和えるへの想いも、著書に込めてみました。赤ちゃん・子ども向けの伝統産業品を販売するaeruブランドを知っていただけたことはとても嬉しいことで、大事なことなのですが、これからはさらに、和えるが目指す世界をどのように実現しようとしているのか、少しずつ体現しながら、みなさんにお伝えできれば嬉しいなと思っています。

O:本日は貴重なお時間をありがとうございました。

矢島:ありがとうございました。

(この記事は2015年7月のインタビューを元に構成されています。)

インタビュアー/撮影 川辺洋平

編集/ライター 後藤優作