皆が言う正しいことより、誰も言わないことのほうが社会変革を起こしやすい――学習塾「ロジム」代表取締役・野村 竜一

我々としても今後、教える先生も、教わる生徒もわかりやすい、とっつきやすいプログラムを作って、公教育と連携していきたいとは思っています。総合学習にかぎらず、国語・算数・理科・社会に続く科目として「論理」とか「ロジカルシンキング」という科目が作れるくらい頑張りたいと思います。

野村 竜一(のむら りゅういち)

東京大学教養学部卒。在学中カリフォルニア州立大学(USCB)へ派遣交換留学。卒業後、放送局、通信系企業社長室、戦略コンサルティング会社を経て学習塾ロジムを設立。事務局長 兼 講師 兼 代表取締役。

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小学生の子どもたちにロジカルシンキングを身につけてもらう場を提供している学習塾ロジム。2014年、3つめの教室を桜新町に開いたばかりのロジム共同代表取締役、野村さんの想いをうかがってきました。

OYAZINE(以下Oと略記述):ロジムっていう場所はなんなのかというところから伺わせください。ロジムってどういう意味でしょうか?

野村さん(以下、野村と略記):ロジムという名前は、ロジカルシンキングと、養成所という意味のジムナスティックという英語から造語しました。ロジムは子どもに考える力をつけさせる場所です。私達はいろんな勉強をして、様々な教育サービスを受けて大人になってきましたが、実感としてそれでも足りなかったと思う部分がいくつかあります。そのうちの一つが物事を論理立てて人に伝えるということです。ロジカルシンキングは自分が受けてきた教育の中では、明らかに足りなかったと思う部分なので、できるだけ若いうちから、それこそ小学生から身につけて、人との争いをうまくときほぐし、自分の言いたいことを言えるような人になってもらいたいというのがロジムの設立趣旨です。

O:何歳くらいのお子さんが通っていらっしゃるのでしょうか?

野村:小学校1年生から通っていて、メインは小学校1年生から6年生です。あとは中学生と、高校生それぞれ1クラスずつ開講しています。

O:ロジカルシンキング以外のことも教えていらっしゃるのでしょうか?

野村:小学生はロジカルシンキングをベースにした学習方法を身につけるようにしています。ロジカルシンキングだけを勉強する単科もありますが、ロジカルシンキングと、それを使う場としての主要4教科をクラスとして持っています。小学生のロジカルシンキングは、身につけても結局使う場所がなかなかありません。ロジカルシンキングの基礎的な考え方を身につけ、実際に使う場所として、国語、算数、理科、社会のクラスを提供しています。東京の小学生は、中学受験をする子も多いので、受験のその先にも役立つ勉強方法を身につけて、受験にものぞんでもらいたいと思っています。ロジカルシンキングを学習することで、初めて見る問題に「分からない」「習っていない」と言わなくなります。また、一見難解な問題を構成要素に分解して解答に少しずつ進んでいく粘り強さが身につく生徒が多く、自然と中学受験の結果も良いものになっているようです。

O:中学生や高校生はどういうクラスなのでしょうか?

野村:中学生、高校生では、ロジカルシンキングという教科はありません。小学生クラスの生徒たちが中学、高校にあがっているので、ロジカルであることの大切さや、全ての学問の中で因果関係を意識することの重要性は理解してくれた状態でいます。こういった点を数学、英語のクラスの中でも最も大切にしています。中学高校クラスは、ロジカルシンキングを直接的に教える場ではなく、ロジカルシンキングを演習的に運用する場であると考えています。例えば、英語の授業では、物事の伝達効率を高めるためにロジカルであることは必須条件です。新聞記事を題材にして外国人講師とマンツーマンでディスカッションを行ったり、プレゼンテーションをしたり等、強固にロジカルであることを求められる場面を多く持ち、「ロジカルであること」を絶えず意識するようにしています。

O:大学受験はどうせ目指すなら海外をということもロジムのWEBサイトで拝見しました。

野村:海外の大学を目指すなり、大学に入ったあとに留学するなり、どうせ将来海外を意識するなら、はじめからそれに見合う学力を身につけましょうねということを、私の個人的な体験からも伝えています。私がはじめてロジカルシンキングに興味をもったのは、留学時でした。大学生の時に、1年間交換留学でアメリカに行きました。日本では勉強も、会話も問題なくできたのですが、アメリカに行って、何も通じない世の中というものに触れました。「モノを知ってるだけじゃダメで、知っていることをどのように運用するかが大切なんだ」ということを、クラスのディスカッションや、レポートワークで感じながら、そういった訓練を全くしていない自分に気付きました。ですから、「どうせ皆多かれ少なかれ海外留学をするのですから、そこで通用するような勉強方法を身につけましょうよ、私みたいに大学入るのに猛勉強して、留学してまた苦労してというのは無駄ですよ」と、中学生、高校生クラスではロジムのメッセージとして最近伝えています。

O:ロジカルシンキングというキーワードは、留学時代に野村さんの頭の中にすでにあったのでしょうか?

野村:留学したときは、ロジカルシンキングについてはあまり考えていませんでした。大学を卒業して、コンサルタントの仕事についてからです。ロジカルに考える人が集まる場所なので、そこで働いている時に、「ああ、こういうことこそ日本の若年層に伝えるべきだ」と思い至って、勢いあまってロジムを作ってしまったという感じです。

O:大学時代は子どもに教えようとか、子どもに関わりたいとかっていう意識はなかったんですね。

野村:自分が受けてきた教育について、また、自分がこれから受ける教育について意識はありましたが、他人様に何かを教えることについては考えは至りませんでした。

O:そうなんですね。会社員時代を経て、学習塾をスタートしたわけですが、当初ロジムはどうやってスタートしたのでしょうか?

野村:最初は小学校の総合学習の時間にロジカルシンキングのプログラムを導入できないかと、学習塾をはじめる10ヶ月ほどまえに活動をスタートしたのですが、教育委員会の方や校長先生とお話しても、僕らが未熟だったこともあって、ロジカルという言葉や概念、必要性をなかなか上手には説明できていませんでした。なぜロジカルである必要があるのか、ロジカルであるとどんないいことがあるのか、そしてロジカルであることは本当に人の人生を豊かにできるのか、といったところを説明しきれていませんでした。そこで、これは自分たちの場を持って、実践をして、結果を出してからでないとと思い直しました。それから門前仲町でロジカルシンキングと国語、算数、理科、社会を学ぶ学習塾としてスタートしました。最初は4軒隣りの子どもがふらっと来てくれて、それから近所の子が集まってくれました。そこから口コミで広がって、という感じでした。スタートするときは知らなかったのですが、近所に小学校があって、学校の帰り道にみつけた子がひょいっと来てくれたりして。

O:えぇ!そんなことってあるんですね。それで、みつけた塾のことを保護者の方に言って、通ってくれたということですよね?

野村:ほんとに、寺子屋みたいな感じで。私も最初はびっくりしました。そして、来てくれた子たちが、みな入るのが難しい中学校に入っていきました。ネットの掲示板で書き込みがあったり、人伝えで噂が広まったりで、少しずつ生徒が増えていきました。今ロジム全体で中学生、高校生あわせて250人くらいの規模なので、いろんな子どもがいますが、最初はやっぱり小学生ながら自分で行きたい塾をみつけてくるような子どもたちが集まっていました。「論理的な思考力を私も身につけたい」と言うような感度の高い小学生達からはじまりました。今考えるとすごいですよね。末恐ろしいというか・・・。一生懸命勉強している子って、なぜ自分の成績が伸びないのだろうと考えるので、その理由の一つとして「ものごとを順序だてて考えていない」「暗記に頼っているわたし」ということに行き着いた子どもたちが集まったのかなと思います。塾をスタートするときは、本当に生徒が主役でした。

O:すごい...ちなみに共同代表ということはお二人でスタートされたのでしょうか?

野村:はい、苅野(共同代表)と二人でスタートしました。大学時代にお互い知り合いではあったのですが、将来まさか一緒に会社をやるとは思いもしませんでした。社会人になってから、たまたま彼も同じようにコンサル業界で働いていて、何度か会うことがありました。大人に限らず子供にも論理的にものごとを考え判断する力が欠けているという共通の問題意識を持っていました。ロジカルシンキングを身につけたら、もっと強く生きられる日本人が増えるはずだ、という話をしていて、一緒にロジムをスタートしました。

O:今後、教室を増やしていくようなイメージはありますか?

野村:増やすことも、増やさないこともあまり考えていません。今ある教室で生徒にしっかり学力を身につけてもらうことでいっぱいいっぱいです。個人的には主に英語なんでしょうが、外国語コミニュケーションに特化した教室を作りたいとは思っていますが、まだロジムの方針にはなってはいません。

O:他団体とのコラボだったり、出張授業みたいなことはありえますか?

野村:ロジムは他団体とのコラボレーションには積極的です。今までもデジタルハリウッドの研究員の方々と一緒にプログラム開発をしたり、毎日小学生新聞の方と一緒に新聞を使った授業を作ったり、いろいろな方とご一緒してきています。リバネスという理科の出張授業をしている会社ともご一緒しています。

よく、ロジカルシンキングとクリエイティブな発想は対極にあるようにとられていると感じる場面があり、私はむしろ論理的思考とクリエイティブな発想は密着していると思っています。コラボレーションするにしても、そういった「ロジカルVSクリエィティブ」のようなイメージを「ロジカルとクリエィティブの融合」というイメージに変えられるようなワークショップができると嬉しいです。

O:コラボレーションというのは、ロジカルシンキングの授業を講師とセットで派遣するようなものでしょうか?

野村:企業さんとコラボレーションするときは、ロジムの得意とする論理的な思考と、企業さんの得意な分野とが、お互いの強みを活かすように特別授業を組んで、ワークショップとして実施しています。デジタルハリウッドの研究員の方々とつくったプログラムは「広告をつくろう」というテーマでした。広告を作るプロセスから、社会全体に目を向けるような内容です。他にもリバネスとのコラボレーションでは、理科実験を見て、やってみて、「楽しかったね」で終わるものではなく、生徒自ら実験の途中で何度も仮説設定と検証を重ねるような、ロジカルを意識した授業にさせてもらいました。一方、ロジムの講師が出向いて、というパターンだと、日本女子大の生涯学習課で行う小学生対象の授業や、近隣公立小学校の総合教育の時間をご一緒していました。

O:ゆくゆくは当初のイメージどおり、公立の学校で実施されるといいですね。

野村:そうですね。初期段階から総合学習の時間へのプログラム提供を目指していることもあって、我々としても今後、教える先生も、教わる生徒もわかりやすい、とっつきやすいプログラムを作って、公教育と連携していきたいとは思っています。総合学習にかぎらず、国語・算数・理科・社会に続く科目として「論理」とか「ロジカルシンキング」という科目が作れるくらい頑張りたいと思います。

O:コラボレーションではないロジムの教室での通常授業には対話の時間があるとWEBサイトを拝見したのですが、どのような対話をするのでしょうか?

野村:生徒同士が授業内で多く意見交換ができるよう教室の机はコの字型に配置され、生徒と生徒、講師と生徒の対話から多くを学んでもらう仕組みです。特に講師と生徒の関係では、講師は生徒にものを一方的に教えることは極稀です。講師がまず、ふつうにやったら解けないような問題を生徒に出し、その問題について、講師が少しずつヒントを出して、段階を追って生徒が理解を深めていくような工夫をします。そうすることで解く力が身につくというのが全体的にロジムで統一した方法論です。なので、上手なヒントを出すことで、対話が生まれるようにしています。良き講師は、良き司会者だと思っています。

O:いつでも入塾可能でしょうか?春とか秋とか、決まっていますか?

野村:入塾の季節は特に決められていません。かならず1度、授業を体験していただくことになっています。特にテストがあるわけではなく、講師がお子さんの様子を見て、保護者の方にお電話をして、その後の通塾についての判断をお伝えさせていただきます。このまま通えますよという場合もあれば、もう少し準備が必要なので、こういう勉強をしてみてからでどうでしょうとご相談させていただく場合もあります。ペーパーで実力を判断すると、ペーパーでは測れない素質が見いだせずに、もったいない結果になってしまうお子さんもいらっしゃるので、紙の試験での判断はロジムでは行っていません。結果として、例えばインターナショナル・スクールに通っていて、ほとんど日本語が話せない子も、講師の判断で入塾するケースもあります。コミニュケーションの表層部分でなく、骨格の部分で「これから伸びそうか」を判断します。

O:そういった判断のできる講師の方を見つけるのはなかなか大変そうですね。

野村:そうですね。最近活躍している講師は、元ロジムの生徒でした。ロジカルシンキングの、というよりロジムのプロトコル(手順)がわかっているので我々も安心して授業や、いろいろな判断を任せられますし、先生ものびのびできていると思います。

O:そのプロトコルが海外でも通用していくといいですね。

野村:そうですね。私自身留学時に、言葉という表層部分が通じにくい中でコミニュケーションするには、グローバルに通用する言語下のプロトコルが重要だと痛感しました。

O:野村さんから、子どもたちにメッセージというか、伝えたいこと、伝えていることがあれば、最後に教えてください。

野村:人と違う意見を言うことをとにかく誇りに思って欲しいと思います。10人の小学生に順番に何か意見を聞くと、たいてい最初の1人2人の意見の言い換えの意見だらけになります。流れてくる情報にのっかるのは子供でも大人でも楽で心地良いのだと思います。しかし、そこからは何も生まれません。なんの貢献もありません。美しく正しいことを言うより、大間違いかもしれなくても誰もまだ言ってないことを言う方がずっと偉いという価値観を持って欲しいと思います。大人の世界でもそうですよね、皆が言う正しいことより、だれも言わないことのほうが社会変革をおこしやすい。大げさですが人類社会への貢献です。

O:今日は貴重なお時間、ありがとうございました。

野村:ありがとうございました。

(この記事は、2014年4月、都内某所にて行われたインタビューを再構成しています。)

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