近年、気候変動などによる自然災害の被害が世界中で深刻になってきていることから、途上国でも災害に関する法、政策両面の整備に進展が見られるようになってきました。しかし、緊急復興支援と防災対策は必ずしも順調に進んでいるとは言えません。
進まない途上国の災害対策
2015年のネパール大地震で崩壊した校舎
緊急復興支援では、災害支援における国際基準を満たしておらず、被災者のニーズや声が反映されずに、独善的で押し付けになりやすいという現状に警告が発せられています(スフィア・ハンドブック 2011年版 日本語版 特定非営利活動法人 難民支援協会)。
また、子どもたちの中には、災害に遭った時の恐怖心や家族を失った悲しみが持続し、急に感情が高ぶって精神的に不安定な状態になり、結果授業に集中ができず、学校をやめてしまうケースもあります。避難所でも不衛生な環境、心のケア不足、暴力・虐待、プライバシーの確保など、さまざまな問題があります。授乳スペース不足など、女性被災者への配慮も欠けています。
一方、防災対策では粗末な素材でできた脆弱な校舎の修繕や改築がなかなか進みません。根本的な問題は、建物の安全性評価すら行われていないことです。安全かどうかも分からない状況では対策の立てようもなく、予算化もできません。学校における防災教育のカリキュラム化も遅れがちです。
住民参加による公平な緊急支援
民主的に支援世帯を協議するプラン・ベトナム活動地域の住民
予算の限られた緊急支援においては、住民の参加と透明性の確保が大きな鍵になります。そのためには、被災地域の住民委員会や村長などと連携しながら被災状況に基づいて支援世帯数を割り当てること、各村では村民会合の場で貧困レベル、家屋の損壊や家財への被害の程度などを基準に、住民の声を反映させた民主的な手法で最終的な支援世帯を決定すること、支援世帯決定後は、実際に訪問して支援の妥当性を再度検証することが重要です。
調達する緊急支援物資は、ニーズ調査によって選ばれなければなりません。物資配布当日は、行政、住民委員会、支援団体関係者、メディアなどの立会いのもと、支援者名簿と住民登録証などの身分を確認できるものを照合した上で物資を配布。また、配布後には支援世帯を訪問し、物資の使用・消費状況を確認することも透明性を確保するうえで重要です。
災害に強い学校の建設
防災の授業でハザードマップを作成するベトナムの子どもたち
学校には避難所、防災教育の場としての役割もあります。子どもたちが安心して学べるよう、校舎を鉄筋コンクリート製などの堅固な建物に再建しなければなりません。また、障がいのある子どもたちに配慮し、手すりのついた緩やかなスロープにするなどの工夫も必要です。
防災教育のカリキュラム化も促進し、ハザードマップの作成、負傷者の応急処置・早期警報・避難訓練、心のケアなどを通じて、学校防災計画の作り方や災害への備え、緊急対応について子どもたち自身が自主的に動ける体制作りを進めることが望まれます。
プランは「災害に強い学校」世界プログラムを推進し、災害対策におけるハード、ソフト両面の支援を行っています。昨年大震災に見舞われたネパールでは早速成果が現れ、子どもたちは未曾有の事態にもひるむことなく、使命感と自信を持って緊急支援活動を支えることができました。被災を通して経験を積んで行くことで、子どもたちは災害を乗り越える強靭さを身につけていくのです。
2015年3月に仙台で開催された国連防災世界会議の防災担当大臣級によるセッションではプランの校舎の安全性評価や防災教育への取り組みが評価され、大きな励みにもなりました。今後は、2017年までに計40カ国約7500校の子ども約153万人まで支援の拡大を目指しています。
防災に重点を置いた対策を
国連防災世界会議に登壇したプラン・カンボジアの女の子
2015年9月に国連サミットで採択された「2030年までの世界の持続的な発展を目指す新たな開発目標(SDGs)」では、国際社会全体で災害対策に取り組むことが目標の一つになりました。災害対策は、被災地域のニーズや公平性を重視した緊急支援(治療)と防災対策(予防)の両面から推進しますが、現実的には、すべての自然災害に対応するのは困難です。一旦、大災害によってインフラや経済が大きな打撃を受けると、復興は容易ではありません。
今後は、特に防災と災害リスクの軽減に重点を置いた事前対応の強化が求められます。これが結果として災害からの復興を早め、中・長期的なコストの削減にも繋がるのではないでしょうか。
また、女性被災者への配慮や、女性ならではの細やかな配慮を活かすために、災害対策に女性をリーダーとして登用することも重要です。そのためには女の子や女性の声を施策づくりに活かすことの重要性を国際社会に訴える機会を一層増やしていくことが求められます。
内山 雄太(うちやま・ゆうた)
途上国開発専門家(国際保健、薬剤管理)、薬剤師、国際NGOプラン・ジャパン アドボカシーオフィサー
1962年、兵庫県生まれ。製薬会社に約12年間勤務後、途上国開発にキャリアチェンジのため退職。1998年よりボストン大学公衆衛生大学院で学び、公衆衛生学修士号(Master of Public Health)取得。2000年よりJICA技術協力専門家、WHO技官としてカンボジア、パキスタン、ジンバブエなどで結核対策、母子保健対策、HIV母子感染予防対策の技術指導、薬剤管理ガイドラインの策定、途上国への抗結核薬の供給などに従事。2010年より現職。著書『Operational Guide on the Management of Anti-tuberculosis Drugs』(Ministry of Health, Pakistan)、共著『Operational Guide for National Tuberculosis Control Programmes on the Introduction and Use of Fixed-dose Combination Drugs』(WHO)、論文『An assessment survey of anti-tuberculosis drug management in Cambodia 』(International Journal of Tuberculosis and Lung Disease)など。