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明治安田生命が2月22日に発表した「理想の上司」アンケートで、2016年の男性編は元プロテニスプレーヤーの松岡修造さんが1位になりました。「熱血、頼もしい、指導力がある」という点が支持を受けたそうです。
一方、活躍のフィールドは違いますが、子どもたちから絶大な信頼を受けるカリスマ小学校教諭がいます。やる気を引き出し、MCのような楽しい授業を繰り広げることで話題の"ぬまっち"先生こと沼田晶弘さん。
クラスの成績は優秀、チームワークは抜群、加えて各々が驚くほどの自発性を持ちあわせているという理想的な状況を作り上げています。
熱血で頼もしく、指導力があるという3大要素はまさに「理想の上司」像そのものですが、なぜ"ぬまっち"がいると、こんなにも上手く回るのでしょうか?
毎日どのように部下と関わったらいいのか?
ある意味、大人社会よりもデリケートな人間関係と365日向き合っている小学校教諭・沼田さんのコーチングから、そのヒントを探ります。
会社と小学校には共通点が!10歳で人格はほぼ形成される
小学校と会社、子どもたちと部下との関係。同じ考え方は通用しないと思いがちですが、人を動かす方法は基本的に変わらないと沼田さんは言います。その理由は、大人と子どもの社会には、思っているほど差がないからだとか。
沼田 僕は6年生のクラスを担任している(※2016年3月3日現在)んですが、大人とほぼ同じように扱っていますよ。実は10歳くらいで人格形成ができると言われているんです。
例えば、若干素直じゃない発言をし始めるのもこの頃から。時間に間にあわなさそうだなと思った時、低学年は「急ぎなさい」と指示して素直に急ぐけど、10歳を超えたあたりから「いや、こっちだって急いでるし」って言ってくるんですよ。
もっと大人になってマドンナくらいのレベルになると「私だって遅刻したくてしてるんじゃない」って言い訳が巧妙化してくるでしょう。まぁ彼女は特別だと思いますが(笑)。10歳は言い方の巧妙化も含め、大人の入り口に立っているわけです。
対人関係でも"子どもだからみんな仲良し神話"は通用しないと思っています。大人に合う・合わないがあるように、子どもにだって事情があるからそれを無視しない。だからせめて"仲悪くするな"、と言うようにしています。
「みんな仲良く」はハードルが高いし、生徒たちもプレッシャーだけど、「仲悪くするな」は意外とできちゃうんです。実際、クラスの雰囲気はいいですし、すごくよくまとまってると思いますよ。
それともう一つは、世の中に認められたいという"承認欲求"が強いということ。SNSを使う環境で育ってきた若手の社会人は、特にこの傾向が強いのではないでしょうか。
これは大人も子どもも共通していますが、やっぱり自分のことを気にして欲しいんですよね。ちゃんと見てるぞ、味方でいるぞという合図は何よりも大事。それがあって信頼関係は生まれるものだと思っています。
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問題と失敗は「生ごみ」と同じ
先に「信頼関係」というキーワードが出ましたが、一人ひとりときちんと向き合うことでその人が持っている最大のパフォーマンスを引き出す関係が作れるのだとか。
沼田 まずはしっかりコミュニケーションを取れる関係であることが最重要です。上司は部下に歩み寄って話せる環境を作ってあげたほうがいいです。
「分からないことがあったらなんでも聞いて」と言ってあげるのも策ですが、実際には話しかけづらいもの。僕の場合は毎日子どもたち全員と交換日記をやり取りしていますが、会社だったらコピーをとりながら軽く雑談してみるとか、自分の分と一緒に部下にもコーヒーを淹れてあげて、渡しがてら声をかけるとか、こちらからアクションを起こす方法はいろいろあると思います。
上司もある程度隙があったほうがよくて、理想はツッコミあえる仲。相当信頼関係がないとできないことだと思いますが、これができればコミュニケーションの程度は格段にあがるでしょう。
僕に言わせれば"問題と失敗は生ごみと同じ"。早めに処理すればどうってことないのに、腐った時の大変さ、そして処理した後も匂いが残る。そこから虫がわいたりすると、もうどうしようもないじゃないですか。
だから早めに処理できる環境を作るのは、パフォーマンスを上げるという面でも有効だと思います。
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部下が失敗したとき、できる上司はどうするのか?
信頼関係が生まれたら、次は個性を伸ばすことに注力しているのだとか。失敗したからといって"見切りをつけない"のが鉄則。
沼田 僕は基本的に加点法なので、成功体験を持たせて自信をつけさせたいんです。もし失敗したらそこには向いていなかったと切り替えればいいだけで、違う一面を見つけて認めればいい。
失敗したところだけを取り上げて怒るのは逆効果です。得意な面を認めつつ、失敗を一緒に分析していく姿勢が大切。それが上司の役目ではないでしょうか。
頑張っているのにできないんだったら、怒るのではなく、思い切ってポジションを変えたり、長所を生かせる方法論を提案するべきだと思うんです。
適正なポジションに着いたら、みんなでゴールを共有します。それによって人の成功も自分の成功になるんです。
例えばうちのクラスでは、「卒業遠足でルミネザよしもとでお笑いを見て、帝国ホテルでバイキングを食べ、その後リムジンに乗る」というゴールを設定しました。
そのためにはお金が必要ですよね、だからこの一年、子供たちは自主的にコンクールを調べて応募し、賞金を稼いできたんです。
ゴールの共有がしっかりできれば、一人一人の良さをみんなが理解し、それを生かそうと動くんです。だからクラスの誰かがコンクールで入賞したら、全員が自分ごととして喜べる。そう簡単に賞は取れないってわかっているから、子供たちはどう工夫したら入賞するのかと、ひとりひとりが、日々分析や研究に励んでいました。
この段階までいくともうチームとして無敵ですよ。小さな失敗もバネにするし、自主的に立ち上がったプロジェクトをこなす毎日で、小学生なのにものすごく多忙だから(笑)、人を妬んだりする暇もありません。
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「任されている」と「やらされてる」は、実は同じこと
甘やかすのとは違ったポジティブな指導、そこに愛情や信頼を感じた子どもたちが一丸となってついていくのは、大人の社会よりもずっとシンプルな構図でしょう。
こうなると仕事を任されても決して"やらされている"とは思わず、むしろやる気全開で立ち向かっていくと言います。
沼田 実は"任されている"のも"やらされている"のも同じことなんだけど、受け取り方次第なんですよね。
信頼関係が培われたら、自ずとお互いがお互いのためになんとかしようっていう状況になるから、ネガティブな感情にはならないです。
ここで注意しなきゃいけないのは、思い切って仕事を任せたからには、途中で口出ししないこと。
戦う力を磨いているのだから、見守って待つ勇気を持ったほうがいい。そして万が一失敗したとしても、ちゃんと守ってあげる。動いている部下に楽をさせてもらっている部分はあるのだから、そこは責任とらないと!(笑)
実際に、僕も自主的に動く生徒たちに、だいぶ楽をさせてもらってますよ(笑)。部下が自主的に動く環境を整えられれば、上司の負担も格段に減るんです。
と言いつつも、口を出したくなる場合もありますよね。むしろ、変な方向に行きそうだな......と思ったら方向修正するのも上司の役目です。むやみに失敗させる必要もない。
そこで意識して欲しいのは言い方。例えば、部下が作成した資料を見て、イマイチだなと思った時、頭ごなしに「ダメだ!今すぐ直せ」というのではなく、「先方は⚪︎⚪︎を希望されているけど、このままの資料でいいと思う?」と投げかけてみる。そうすると、相手から「⚪︎⚪︎についての記述が足りないので、もっとここを掘り下げますね」などと、比較的高い確率で自分の意見を踏まえた答えが返ってきます。
こちらの言いたいことを、相手にしっかり「I(自分)」を主語に話させることが大事なんです。
この言い方であれば、部下も「口を出された!」と思うことはありません。むしろ「一緒に考えてくれた」「話のわかる人だ」と、信頼度が上がります。
2月25日には初の著者本『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』をリリースした沼田さん。カリスマ小学校教諭が書いた異色のビジネス本は、早くも話題を呼んでいます。
沼田 生徒がひとりひとり全く違うように、読む人によって環境もフォロワーも違うから全部が参考になるとは思っていません。だけど、必ずどこかにハッとする部分はあるはずなので、うまく活かしてもらえれば嬉しいです。
あくまでもこれは僕のオーダーメイド服。生地やスタイルを利用してリメイクしちゃってください!
価格:1404円(税込)
(2016年3月3日「QREATORS」より転載)
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