情報化の担い手が育つ仕組みを (庄司昌彦)

ICTによる真の地域活性化のため、「モノ」であるICTを使いこなす「ヒト」への投資を提言する「ネットと地域活性化を考える会」。連載第5弾は、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)講師/主任研究員の庄司昌彦さんが、地域情報化プロジェクトに携わってきた十数年の経験を振り返り、成果を生み出せる人材像や人材育成のヒントについて寄稿しています。

ICTによる真の地域活性化のため、「モノ」であるICTを使いこなす「ヒト」への投資を提言する「ネットと地域活性化を考える会」。連載第5弾は、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)講師/主任研究員の庄司昌彦さんが、地域情報化プロジェクトに携わってきた十数年の経験を振り返り、成果を生み出せる人材像や人材育成のヒントについて寄稿しています。

地域の情報化を進める担い手の重要性については、散々痛感しています。私が取り組んでいる問題や体験に触れながら、そのあたりの話に入っていく方が分かりやすいと思いますので、まずは簡単に自己紹介をさせてください。

■10数年、地域情報化に携わってみて

「オープンガバメント」という言葉がここ2年ほど、一般の新聞等でも取り上げられることが増えてきました。元々は2009年にアメリカのオバマ大統領が行政の透明化と参加と協働という理念を掲げたことが発端ですが、民間側が行政の抱える情報やデータを共有するには、行政側の電子化と仕事の仕方の見直しが欠かせません。私は、GLOCOMで電子行政や地域情報化について研究しており、2009年から3年間、総務省のIT戦略本部「電子行政に関するタスクフォース」のメンバーとして、オープンガバメントの推進に関わりました。そして12年からは「オープンナレッジファウンデーション・ジャパン」(OKFJ)を設立し、その流れを加速しようと取り組んでいるところです。

※(関連写真)世界中の公共データ利用を促進するOKFJ主催イベント「オープンデータデイ」の様子。今年は旭川市から佐賀市まで32地域が参加

現在は、電子化の視点から国や自治体を研究することが多くなっていますが、もともとは中央大学総合政策学部の学生時代、地方自治そのものに興味をもっていました。大学入学後まもない1997年に介護保険法が成立し、地域ごとに給付水準を設定することになります。ベースは国で決めたうえで、あとは自分たちの地域で決めるというまさに「地方自治」の可能性を感じたのです(介護保険法は修士論文のテーマに取り上げました)。ちょうど、同じタイミングで日本でもインターネットが本格的に普及し始めました。各自治体でタウンミーティングが流行し、オンラインでも市民から意見を募集し始めます。"電子会議室"など地域の情報化を進めるプロジェクトも増え、私もそれに携わるようになりました。

そうした中、2004年に熊本県八代市の職員の方がSNSを開発します。この年は、アメリカのOrkutが人気を集め、Facebookや日本のmixiが創業するなどSNS時代の幕開けで、地域の人が地域の情報をシェアし合うというネットワークの仕組みづくりは、まさに時代の先端の動きをとらえていました。その後のSNSブームとも相まって、各地に独立系の地域SNSが続々と誕生していきます。その当時、それらの担い手だった人たちとお会いすると、皆、30歳前後の若い方が多かったのが印象的でした。同世代の活躍に私も刺激を受けたのが思い出されます。

■ 進まぬ新陳代謝、補助金頼りの課題

ここで「ヒト」を巡る問題に戻しましょう。この10数年、地域情報化の担い手を見回すと、リーダー的存在の顔ぶれがあまり変わっていないのです。当然、この間に政府はICTによる地域振興のために予算や施策を意欲的に講じてきました。現地のパートナー役となるキーマンは必要なのですが、どうしても"ベテラン"組に偏りがちです。たしかに彼らの経験は頼りになりますが、新しい人材が入ってこないと画期的なアイデア、サービスは生まれにくくなりますし、結果として活性化しなくなる恐れがあります。そうした硬直化の背景としては、現行の仕組みが補助金に引っ張られやすい構造になっていることが考えられます。ベテランになると、来年度予算の補助金の動きをにらんで「次は何を取りに行こうか」と割り切っている方もいるくらいです。

なぜ補助金頼りとなってしまうのか。ひとつにはITサービスで採算を取って持続可能にする「自活」に失敗した人が相次いだことがあります。2000年代半ば、ITサービスでは広告収入で食べていこうと目指した動きがありましたが、単純な広告モデルでは利用者が数百人レベルだと採算が取れず多くは挫折しました。またアメリカと比べ、ベンチャーキャピタル市場が貧弱なのでスタートアップに流れ込むお金が少ないという環境も大きいでしょう。

■ヒトにどう投資していくのか

一方で、光明もあります。震災復興で注目され始めたクラウドファンディング。今までの日本では寄附文化が無いと言われていましたが、地域を良くしたいという同志から種銭を募ることができる仕組みが出来ました。ネットを通じて広く薄くお金を集めることができますので、たとえば岩手県釜石市の地域情報化事業をやろうという起業家がいたとします。当該地域にお住まいの方々だけでなく、都会に出て行った釜石出身のサラリーマンの方からも手ごろな金額で投資できるようになります。行政が手がけるプロジェクト「失敗しました」と終わることは出来ないので、投資的リスクに後ろ向きですが、クラウドファンディングのように民間主導でお金を集めたものの方がチャレンジできます。若いチャレンジャーに種銭を与えて、意欲をカタチにできるようにしたいものです。

行政側にもできることはあります。「ヒト」に直接予算を付けることで育成を促す手法も有効です。独立行政法人「情報処理推進機構」による未踏IT人材発掘・育成事業では、ソフトウェアの関連分野で独創的なアイデアや技術を持つポテンシャリティの高い人材を発掘してきました。この事業で「天才プログラマー」や「スーパークリエーター」として認定されている方々は、本当に面白いと思います。ちなみに全く個人的な感覚ですが、地域情報化の推進役で活躍されている方には高等専門学校出身が多い気がします。前述の八代市でSNSを手掛けた小林隆生さんは八代高専(現熊本高専)のOBですし、福井県鯖江市を全国随一のオープン化の立役者となったIT起業家の福野泰介さんも福井高専出身。5年間をかけて実用的な技術を学ぶことができ、ロボットコンテストに見られるように実践的なチャレンジの場があることも大きいのでしょう。クリエイティブな人材の宝庫として高専にもっと注目していいように思います。

※(関連写真)2月の「オープンデータ・ユースケースコンテスト」(経産省・総務省主催)では、明石高専の生徒が大人を抑えてグランプリを受賞し、審査委員長を務めた筆者から表彰状を手渡された

■多様な人が育つ仕組みを歴史に学ぶ

最後に唐突になりますが、私のライフワークのひとつに民俗学や人類学への関心があります。日頃の研究領域にしている最先端のデジタル分野とまったく対照的なアナログの世界ですが、ICTも同じ人間の営みの結果ですから共通することもあります。たとえば村等の地域コミュニティーの一大プロジェクトである「祭り」を人々がどう運営してきたかを考えてみると、毎年同じことの繰り返しでいるようでいて、運営の中心を担う人が固定化せず交代していく仕組みを持っていたりします。それは地域社会の中で新しい担い手を育てていく仕組みでもあるし、新しい工夫を取り込んでいく仕組みでもあるように思います。地域の情報化もこれと同じこと。次代の担い手を発掘し、育てる。参加者を多様化する。そんな多極構造にしていかなければいけないと考えています。

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