3月15日の第1先行組合、そして第2先行組合でも4年連続有額ベア回答を引き出した。続く中小組合の交渉をどう支援していくのか。すべての働く者の賃金引き上げにどう波及させていくのか。逢見事務局長の進行で、労働条件委員会委員長の相原副会長、中小共闘センター委員長の宮本副会長、非正規共闘代表の松浦副会長が、「底上げ春闘」2年目の経過と今後の取り組みのポイントを語った。
(写真向かって左より:逢見直人 連合事務局長[進行]、相原康伸 連合副会長・労働条件委員会委員長・自動車総連会長、宮本礼一 連合副会長・中小共闘センター委員長・JAM会長、松浦昭彦 連合副会長・非正規共闘代表UAゼンセン会長)
大手組合を上回る要求を提出
逢見:2017春季生活闘争は「底上げ春闘2年目」として「底上げ・底支え」「格差是正」をはかる取り組みを掲げているが、これを受けて、今年は特に中小組合の要求提出の早期化や要求水準の「大手追従からの脱却」という傾向が強まったと認識している。今日は、第2先行組合までの回答内容、交渉経過、そして中小組合の交渉解決推進に向けてお話を伺いたい。
第2先行組合までの回答ゾーン(3月13日〜3月24日)における状況は、回答を引き出した組合が、1243組合(前年同時期比+60)、回答水準は定昇相当分込みで6224円と、ほぼ昨年同時期と同額となった。(回答速報はこちら)
4年連続で有額ベア回答を引き出したことは、大きな成果であると受け止めている。厳しい交渉の中で、こうした回答を引き出すに至った経過や特徴点を伺いたい。
相原:「大手追従・準拠の構造を変える」との流れを踏まえ、2017闘争では、「継続」(経済をプラスサイドに置き続ける)と「転換」(中小労組・非正規が伸び伸びと要求し、より良い成果を獲得する)を狙いとした。中小組合の多くでは、それぞれの「賃金課題」を踏まえ、大手組合を上回る要求を構築するなど、こだわりある交渉を展開している。大手組合も、経営側と「将来不安の払拭」「経済の自律的成長」などについて認識を共有しつつ、社会的責任を果たすべく交渉を進めてきた。
また、グローバルレベルで競争環境が激化する中、技術革新への対応を含め、人材の確保と育成をはじめ、魅力ある産業・企業の構築が不可欠と主張してきた。その結果、4年連続となる月例賃金の改善、大手を上回る回答を確保した中小組合など、雇用安定と生活向上の土台づくりはもとより、労働の質の高まりを受け止め得る「人への投資」が重要との認識を深め、拡げることができた。交渉中の労使においては、底上げ、格差是正の重みを真正面から議論し、確かな成果につなげてほしいと思う。
賃金水準にこだわる交渉
逢見:中小共闘センター委員長の立場から、中小組合の取り組みは?
宮本:相原さんからもお話があったが、中小組合も「わが組合員の賃金水準は世間相場と比較して充分なのか」という問題意識を共有して取り組みを進めている。中小労組は長い春闘の歴史の中で同業大手や元請企業並みの賃上げ率を追いかけてきたが、海外との価格競争激化などもあり、大手と中小の賃金水準に大きな格差が生じてしまっていることを直視して交渉を進めている。
経営側は、組合の主張に耳を傾けつつも、取引先や親企業の顔色をうかがっている感がある。連合が「大手追従・準拠の構造を変えていこう」という運動を進めているが、正直言って、それが浸透するまでには時間がかかるという印象だ。
しかし、この主張とともに「サプライチェーン全体の付加価値の適正分配」という社会運動を進めていることも経営側に訴え、このテーマは労使共通の課題として取り組めることではないかと強く主張している。 浸透するまで時間がかかるかもしれないが、粘り強くやっていくしか解決策はないと思っている。
法を上回る無期転換ルールを
逢見:いわゆる非正規労働者の処遇改善についても、正社員と同時並行的に進められ、時給の改善や雇用安定に資する取り組みも進んでいる。非正規共闘を代表して松浦さんから取り組み経過等を補足していただきたい。
松浦:地域によりバラつきはあるが、パートタイマーなどいわゆる非正規労働者の人手不足が深刻かつ長期化している。こうした中で来年4月には勤続5年以上の有期契約労働者の「無期契約雇用への転換」申し込みが始まる。正社員との比較も含めた「働きに見合った処遇」、すなわち同一価値労働同一賃金を構築していくことが、これまで以上に重要になる。
政府から「同一労働同一賃金ガイドライン案」が出されたように、単に雇用形態が違うことを理由とした処遇差は許されない。時給の改善はもとより、一時金の支給、諸手当、福利厚生・安全衛生面などの改善を進めていくことが重要だ。現時点では、こうした正社員との格差是正を求める組合要求に対して回答を示す会社が従前よりさらに増加している。まだまだ厳しい交渉が続くが、未組織労働者へ波及させるためにも精一杯の取り組みを進めていく。
社会的波及をめざして
逢見:これから中小組合、地場企業の課題解決に向けて交渉の追い上げをはかっていくことになるが、中小組合の支援については?
相原:人材の確保と育成は、中小労使の重要課題。同時に、企業の存続と発展、その基礎となる働く人のモチベーション向上も重要だ。確かな成果獲得に向け、グループ労連や親企業組合からの交渉支援を充実している。それらを通じ、自動車産業全体の付加価値向上につなげなければならないと考えている。
宮本:それぞれの産業内、あるいは地域における世間相場並の賃金水準にこだわり、賃金の社会性を重視した取り組みを進めてきている。単純に上げ幅が先行組合と同じであれば良いというものではない。ベース賃金が異なる(低位な)中で同じアップ率では格差がますます拡大してしまう。人手不足感が強まる中で、このままでは、中小企業では人材も育たない。連合全体として、企業間取引に関わる課題も社会運動として推進し、価値を認め合う社会を実現していかなければ、中小企業の支払能力も改善しない。全体で運動を進めていきたい。
松浦:正社員だけでなく、職場で働くすべての労働者が企業の成長・発展に貢献しているということを同じ働く仲間として共有し、雇用区分の違いを超えて、均等・均衡処遇を実現していくことが重要であり、そのための結果を出していく。また、中小組合の交渉については、地域や産業・業種の共闘を従前以上に拡大強化し、底上げ・格差是正を一歩でも前進させたいと考えている。
逢見:第2先行組合までの回答状況を見ると、「底上げ」にこだわる取り組みの成果が出ていると認識している。「大手追従・準拠の構造改革」も進んでいる。人手不足という状況もあるが、いわゆる春闘60年の歴史を踏まえつつ、経済社会の変化に対応する新たな取り組みが浸透しつつあるという実感がある。
この流れを継続しなければならない。今も厳しい交渉を続けている組合に対して、連合全体がサポートするとともに、組織労働者が引き出した回答を未組織労働者を含め、社会全体に波及させていくことが重要だ。
本日の対談に参加いただいた副会長の皆さん、ありがとうございました。「底上げ春闘」の結果を引き出すべく最後の最後までともに頑張りましょう。
※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2017年4月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。