「介護の日」である11月11日、連合は、都内で「安心の介護保険制度の確立と介護人材の処遇改善実現を求める11・11市民集会」を開催。政府が2017年通常国会に法案の提出を予定している次期制度改正に向けて、再び給付減・負担増が検討課題となっている中、全国から、介護現場で働く仲間、「介護離職のない社会をめざす会」の市民団体などから507人が参加。介護の現状と課題、制度改正への対応について認識を深めた。
次期制度改正への危機感
2000年、「介護の社会化」を掲げてスタートした介護保険制度。現在、制度の利用者は526万人を数え、介護を必要とする人にとっても、介護する家族にとっても、なくてはならない制度になっている。ところが、2014年度の制度改正に続いて、次期制度改正に向けた検討でも、「制度の持続可能性」を理由にサービスの縮小や利用者負担の引き上げ、介護報酬の引き下げが論点にあがっている。
政府は、アベノミクス新3本の矢の一つに「介護離職ゼロ」を掲げるが、これ以上サービスの切り下げが進めば、利用者の生活は行き詰まり、介護離職に追い込まれる人がさらに増えてしまう。このような危機感から集会はスタートした。
主催者挨拶に立った逢見連合事務局長は「高齢化が進む中で介護需要がますます高まることは明らかだ。また、労働力人口が減少する中で、介護と仕事の両立を支える介護保険制度の重要性はいっそう高まっている。ところが政府は、訪問介護における生活援助を担うホームヘルパーの報酬引き下げを検討している。
介護の現場からは、『低い介護報酬ではサービスが継続できない』『ヘルパーを採用できない』という悲痛な声があがっている。政府が掲げる『介護離職ゼロ』に逆行するものと言わざるをえない。介護職の賃金については、来年度予算で月平均1万円引き上げるとしているが、介護労働者の役割と責務に鑑みれば、まったく十分とは言えない。誰もが安心して住み慣れた地域で暮らし、介護と仕事の両立を可能とするより良い制度にしていくには、担い手である介護労働者の処遇改善が不可欠だ」と訴えた。
「介護」は人間のみが生みだした仕事
続いて、「高齢社会をよくする女性の会」の樋口恵子代表が、「介護離職のない社会をめざす会」の発足の経緯と活動について報告。今年2月、介護保険制度の次期改正に向けて、社会保障審議会で検討がスタートしたが、そこでは、「要介護1、2」の人への給付削減、ホームヘルパーによる生活援助の地域支援事業への移行、福祉用具・住宅改修の自己負担化、利用者負担の引き上げなどが論点にあげられた。
この動きに危機感をもった労働組合、労働福祉団体、介護の当事者団体等は3月に「介護離職のない社会をめざす会」 を結成し、精力的に「改悪反対」の活動を展開してきた。5月には、すべての政党に呼びかけて政策討論会を開催するとともに「公開質問状」を送付。その回答を得て、6月に記者会見を行い、8月には厚生労働省、9月には一億総活躍担当大臣を訪ね要請を行った。
こうした行動によって、10月の審議会では、要介護1、2の人への生活援助等の保険給付が継続される方向で議論が進められることになった。
樋口代表は「要介護1、2にたくさんサポートを必要とする人がいる。生活援助を打ち切られたら、どれだけの家族介護者が仕事を辞めざるをえなくなるかわからないと、私たちは猛然と反対の決意を固め行動した。その結果、今回は検討課題から外れたが、まったく油断はできない。
『介護』は人間のみが生み出した、弱者を決して切り捨てない崇高な仕事、向上できる、貢献できる、交流できる、感動できる、そして感謝される『新5K』と言える専門性の高い仕事だ。それを社会のどこに位置づけるかは、まさに政治と社会の品格を表す。介護労働者の処遇改善を進め、血縁でなくても支えられる本当の地域包括システムをつくりあげよう」と呼びかけた。
介護サービス利用者の立場からは、実際に介護離職を経験した林幸一さんが壇上に立ち、「両親を在宅で介護しているが、会社の上司から『親の介護とでも言えばしょっちゅう休めると考えているんじゃないの。急に休まれると困るんだけど』などとパワハラを受け、心身を壊し退職した。この国では親の介護をしているという事実を、会社に伝えると仕事を続けられない」と語った。
日本退職者連合の阿部保吉会長は「介護保険制度は、創設以来何度も見直しが行われ、その度にサービスが切り下げられてきた。このままでは、国民からどんどん遠い存在になってしまう。財政的困難は事実だが、給付切り下げだけで対応するのではなく、皆保険の実現に向けて、その基盤を整備していくという視点が必要ではないか」と投げかけた。
深刻な人手不足と高齢化
介護職場の現状は深刻だ。日本介護クラフトユニオン(UAゼンセン)の林おりえさんは「介護の現場では、過去にない深刻な人材不足が起きている。これは将来の話ではなく、今起きていることだ。人材不足で新規の利用者を受け入れられない事業所が増え、介護職員の高齢化も進んでいる。
この現状を打破するには、早急な処遇改善が必要だ。介護職の賃金は、全産業に比べ7〜8万円も低い。私たちは多くを求めているわけではない。やりがいと誇りをもって働き、当たり前の生活ができる、将来設計が描ける賃金にしてほしいだけだ。介護は、すべての人に関わる問題。自分自身の問題として介護の未来を考えてほしい」と訴えた。
北海道から駆けつけた札幌市役所職員組合連合会(自治労)の山田はる美さんは、社会福祉協議会・訪問介護事業のサービス提供責任者として働く日々について「ヘルパーの不足は深刻で、70歳代のヘルパーさんにも頑張ってもらっている。担当地域は広く、車で30分、冬は1時間かけて利用者を回っているが、生活援助の時間は45分間。その限られた時間にできる限りのことをやろうと走り回る毎日だ。2014年改正で生活援助を打ち切られた要支援1、2の人たちがどうなるのか、大変心配している。必要とする人に必要なサービスを提供できない制度にしてはいけない」と訴えた。
最後に集会アピールを採択し、さらに行動を強めていくことを確認して閉会した。
※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2016年12月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。