公務員の労働基本権を考えよう

「公務員」というと、どんな仕事をイメージするだろうか。
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「公務員」というと、どんな仕事をイメージするだろうか。真っ先に浮かぶのは中央官庁や市町村の役所かもしれないが、実はもっと多種多様だ。警察や消防、税務署、税関、刑務所の職員、教職員や保育士、医師、看護師、水道や清掃、道路などのインフラ、森林、港湾の整備などを担う公務員もいる。いずれも、私たちの暮らしの安心や安全を守る公共サービスを提供する仕事だ。

ところが、日本の公務員は労働基本権が制約されている。団体交渉や労使協議を通じて労働条件を決定し職場環境を改善していくという、民間では当たり前のことができない。消防職員をはじめ、労働組合を結成する権利さえない場合もある。国際的に見れば、労働基本権に関するILO条約は公務員も対象に含まれている。各国でも警察や軍隊を除いて公務員の労働基本権を認めるという流れになっている。しかし、日本では1948年に権利が制約されて以来、その状態が継続している。

連合は、公務員の労働基本権回復によって自律的労使関係を確立し、民主的で透明な公務員制度改革を進めることを求めてきた。質の高い公共サービスの提供には、働く人たちが働きがいをもって活躍できる労働条件・労働環境の確保が必要であり、そのためには自律的労使関係の構築が不可欠であるからだ。

なぜ、公務員の労働基本権回復が必要なのか。もう一度わが事として考えてみたい。

クローズアップ「消防職員の団結権」

私たちは仕事に誇りと使命感を持っている

それは労働基本権の付与により揺らぐものではない

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Aさん

全国消防職員協議会(全消協)/B市消防本部職員

公務員の労働基本権問題。中でも早急な解決を求められているのが、消防職員の団結権の回復だ。団結権がないために、どんな問題が生じているのか。回復に向けてどんな取り組みが求められるのか。全消協のAさんから、消防職員の状況についてさらに話を聞いた。

─この仕事を選んだのは?

小さい頃、身体が弱くてよく入院していました。手術を受けて元気になりましたが、自分も医療現場で働いて恩返ししたいと、救急救命士の資格を取り消防署に入りました。

私は専門学校で救急救命士の資格を取得してから採用試験を受けましたが、消防職員として採用後、救命士や潜水士などの資格を取得できます。私は消防隊などを経験して、現在は救急隊員として働いています。

深夜・早朝は無賃金拘束時間

─勤務体制や職場の課題は?

消防署の隔日勤務は、一勤務が24時間勤務の三交替制で、出動要請がなければ、23時以降仮眠を取れますが、無給扱い。出動した時間だけ賃金が払われる仕組みです。また、技量を維持する訓練は、非番の日に行っています。B市は勤務扱いで手当が出ますが、勤務扱いにならず、無給の消防本部もあるようです。休みなのに休めないという日があるのです。

B市の救急要請は年間6400件ほど。高齢化率が35%を超える地域なので、出動が急増したため救急隊を増隊しましたが、増隊前は1隊で10件以上出動する日も多く、仮眠を取れずに24時間働き通しになることもあり、身体的に過酷でした。

人員が確保できない消防本部では二交替制が多く、1人の職員が消防隊・救急隊・救助隊・日勤事務と何役もこなすところもあります。こうした無理な体制は健康や安全確保の面から非常に問題です。疲れによる判断の遅れが命取りになるからです。さらに平時から無理な体制だと、災害時に対応できなくなってしまいます。ところが、労働基本権が制約されているために、人員確保や勤務体制の改善について、現場の声が反映される話し合いの場を持つことすらできない。これは大きな問題です。

─労働基本権が制約されていることの受け止めは?

多くの消防職員は「特殊な仕事だから仕方ない」と思い、使命感を支えに働いています。上意下達の職場風土が根強く、職場に問題や不満があっても「権利主張」をためらい我慢してしまう。そして、そのことに疑問を投げかける労働組合が存在しない。つまり労働基本権がないことが、自らの「労働」について考え、改善する機会を奪っているのです。

そこで、全国消防職員協議会では、少しでも考える機会を提供しようと定期的に労働講座を開催しています。私自身も、この活動を通して、自分たちの労働条件や職場環境の改善が、最終的に公共サービスの質に直結することが理解できました。

危険な現場であるからこそより安全に、誇りを持って仕事ができる職場環境にしたい。仲間が「辞めない職場」はもちろん、「死なない職場」をつくりたい。必要な人員・装備を確保し、住民の皆さんの安心を守りたい。そういう思いで活動してきましたが、休日を使っての活動は負担が大きく限界があります。一日も早く団結権を回復し、労働組合として専従者をおけるようにしたいですね。

─労働基本権回復には慎重論もありますが...。

権利を与えるとストライキが起きるという、短絡的なネガティブキャンペーンには怒りを覚えます。私たちは、東日本大震災や熊本地震、各地の豪雨災害の現場で必死に救助活動にあたりました。その姿は、皆さんの目にも焼き付いていると思います。

権利を獲得したからといって職務を怠ることは絶対にありえません。仮にそんな人がいたら私たちが現場に出しません。すでに団結権を持つ他国の消防職員に聞いても、そうだと即答します。私たちはこの仕事に誇りを持っています。その誇りは、労働基本権の回復によって揺らぐようなものでは決してありません。

─労働組合に期待することは?

労働基本権は、労働者の誰もが当然与えられるべき人権です。それを制約し、職場環境が悪化して職員のパフォーマンスが低下すれば、結果として住民が受けるサービスの質が低下します。また、現場の労使は敵対するような関係ではなく、一緒に職場環境の改善に取り組めば、住民サービスの向上につながります。連合の仲間の皆さんには、この問題を同じ労働者の立場で受け止めていただくと同時に、住民目線から「質の高い公共サービスには労働基本権の回復が必要」と訴え、世論を喚起していただけることを期待しています。そしてぜひ、皆さんの周りにいる消防職員に声をかけて「全消協」の活動を紹介してください。それがとても大きな力となります。よろしくお願いいたします。

連合のスタンスと取り組み

今こそ、労働基本権回復への歯車を回していこう

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相原康伸 連合事務局長

連合は結成以来、公務員の労働基本権回復を重視し、ILOへの提訴をはじめ、その実現に向け行動してきたが、現政権の下でその動きは停滞を余儀なくされている。いまだ公務員の労働基本権が制約される状態が続く中、今年5月末からのILO総会(基準適用委員会)では、この問題が個別審査案件された。

私たちは、まず、日本の現状に国際社会から厳しい目線が向けられていることを再確認する必要があるだろう。その上で、この動きが日本政府の対応を促進するよう、最大限の働きかけをしていかなければいけない。連合としても、ILO総会に向けて、ITUC(国際労働組合総連合)と連携して対応しているところだ。

労働基本権は、すべての労働者に保障される人権であり、「当たり前の権利」である。その「当たり前の権利」が保障されていない仲間がいるという現実を共有することが重要だ。私自身、民間の出身。連合の事務局長に就くまでこの問題を真に自分ごととして捉えることができていたかどうか。当事者である公共サービスに携わる皆さんが声をあげることはもちろん重要だが、公務・民間にかかわらず、働く仲間として、自分ごとと捉えたい。労働基本権に裏付けられたより質の高い公共サービスの重要性を疑う余地はない。あらためて考えよう。そして、連合としてもこの問題をしっかりと発信していこう。

労働基本権に基づく自律的労使関係は、一人ひとりの働きがいを高めると同時に、組織のガバナンスを深めるという意義を持つ。今こそ、連合の力を結集して労働基本権回復への大きな歯車を回していこう。

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