賃上げをすべての働く者へ ー地方連合会の 中小・地場支援の取り組み

すべての働く人に届く情報発信を
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3年目となる「底上げ春闘」。そのカギを握る中小・地場の闘いは、これからが正念場だ。

解決促進に向けて、地方連合会では、中小・地場組合の支援のための情報発信や世論喚起、行政や経営者団体への要請、交渉力強化など多彩な取り組みを展開している。今号では、連合北海道と連合埼玉の取り組みを紹介する。

連合北海道 すべての働く人に届く情報発信を

─中小・地場組合支援の取り組みは?

道内企業の99・8%、15万4000社が中小企業であり、そこで働く労働者は約124万人と道内全労働者の85%を占める。GDPの6割が個人消費であることを考えれば、中小・地場の賃金引き上げなしに、経済の自律的成長も地域の活性化も実現できない。

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杉山元

連合北海道 事務局長

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山田新吾

連合北海道 組織労働局長

2017年の春季生活闘争では、北海道においても、中小の賃上げ率が大手を上回る結果を出すことができた。今季は、この流れを確実なものとすることが求められている。大手と中小の賃金格差は、企業の収益格差(支払い能力)によるところが大きい。その一因は、価格転嫁拒否や優越的地位濫用などの不公正な取引だ。格差を是正するには、連合方針が掲げる「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配」にもっと踏み込んでいく必要がある。

具体的な中小・地場組合の支援としては、1月下旬から2月中旬にすべての地協で討論集会を開催して方針を共有し、2月内の要求提出を促している。要求基準については、地域ミニマム運動で収集した「最低到達水準」を公表し、地場の相場観を示している。また産業別部門連絡会を複数回開催し、要求内容、交渉・妥結状況の情報交流をはかるとともに、各産別には、単組の闘争指導強化、グループ企業内の組合への支援、中小の賃上げや非正規労働者の処遇改善についての組織内の合意形成を要請している。さらに地方連合会の役割として、組織内外への情報発信や世論喚起にも力を入れている。

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連合北海道2018春季生活闘争勝利! 3.5全道総決起集会

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経済5団体(北海道経済連合会、北海道商工会議所連合会、北海道商工会連合会、

北海道経済同友会、北海道中小企業団体中央会)との労使懇談会

コミュニティラジオもスタート

─情報発信のツールは?

組織内に向けては、妥結情報をメール・FAXで連日発信している。経営側は同業他社の動きに敏感だ。いち早く単組に情報を届け、その交渉を後押しできればと考えている。討論集会や総決起集会、要請行動などは、「2018春季生活闘争ニュース」を発行し、連合北海道のホームページにも掲載している。

組織外に向けては、世論喚起のための街宣行動を展開中だ。全道の13の地協所在地の駅頭で街宣を行うとともに、3月中旬以降は街宣車を道内に走らせて訴えている。連合本部の器材を参考にしつつ、連合北海道独自で街宣用の音声テープを作成している。クラシノソコアゲキャンペーンと連動させ、月例賃金の大幅引き上げ、36協定締結、労働規制緩和阻止、地方財政の確立、奨学金問題などについて呼びかけている。

新たな試みとして、連合北海道提供のコミュニティラジオもスタートさせた。齊藤勉副事務局長がパーソナリティを務め、北海道労働局も準レギュラーで出演する。毎週月曜日の夜7時から1時間、若者雇用やワークルール、働き方改革や春季生活闘争などのテーマをわかりやすく解説し、好評だ。

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「RADIO TXT ワーク・ライフ・シナジー」

全国どこでも、パソコン・スマホで聴取できる。

人手不足と若者の離職に危機感

─政策要請行動は?

2月28日に経済5団体との労使懇談会、公正取引委員会北海道事務所、中小企業庁(北海道経済産業局)への要請を行い、道内の雇用・経済情勢や課題について認識を共有した。道内で深刻化しているのは、人手不足と若者の離職だ。特に人口減少が進む地域や中小企業で危機感が強い。道内の有効求人倍率は1・16倍と前年を上回り、高卒内定率も92・9%と改善している。しかし、第一次産業や運輸、介護では有効求人倍率が2倍を超える一方、事務や軽作業では求職者が求人を大幅に上回るミスマッチが生じている。道内の大卒者の3分の1は首都圏に転出し、3年以内の離職率は、大卒者37・1%、高卒者46・9%といずれも全国平均を上回る。経営者団体では「北海道で働こう!」キャンペーンを展開しているが、なぜ人材が確保できないのか、その原因をよく考えてみる必要があるだろう。実は、北海道では、労働生産性が上がっているにもかかわらず、労働分配率は過去4年間で5・8ポイントも下がっている。雇用の安定や処遇改善を進めなければ、人材流出は止められない。今、「雇用確保・創出に向けた社会的キャンペーン」を通じて、そのことを訴えている。社会的キャンペーンは、2008年秋のリーマンショックによる就職難に対し、新卒者の就職支援・雇用確保の取り組みとしてスタートしたもので、今年度も自治体、商工会議所、建設業協会、農協、漁協、高校など約100カ所を訪問して、地域の声を集め、政策要請に反映させている。

また、早期離職対策として、学生と企業のミスマッチを減らそうと、労働組合として仕事や労働条件の実情を紹介する「就活応援セミナー」も計9回開催。北海道が道内14地域に設定した「若者の地元就職や職場定着に向けた協議会」(地域雇用ネットワーク会議)にも積極的に参加している。

─非正規労働者の処遇改善の取り組みは?

道内の非正規労働者は、37・3%(86万人)を占め、職場に不可欠な存在となっている。連合北海道では、2月21日に「中小・パート共闘会議」を開催し、非正規労働者の賃上げについて、全単組が要求化することを確認した。今季の最大の課題は、無期転換ルールの周知だ。組織内では、昨年から取り組みの徹底をお願いしてきたが、未組織の職場にも周知しなければいけない。そこで北海道労働局の協力を得てシンポジウムを開催し、初めての試みとして北海道社会保険労務士会と共同で地下歩行空間(札幌市)に相談コーナーを設置した。

中小・地場の闘いはこれからが正念場だ。4月以降は、地場中小支援・懇談交流会や解決促進集会を開催し、「底上げ春闘」を盛り上げていきたい。

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無期転換ルールに関する相談コーナー

使用者からの相談には社労士会が、労働者からの相談には連合北海道非正規労働センターが対応。

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無期転換ルールに関するシンポジウム

連合埼玉 交渉力強化こそ、中小・地場組合への最大の支援

─地方連合会としての取り組みのポイントは?

2018春季生活闘争にあたっては、誰のために行動するのか、誰に向けて発信するのかを明確にして取り組みをスタートさせた。産別や単組の第一の役割は、当事者として労使交渉を進めることだとすれば、地方連合会に求められるのは、その交渉の成果をすべての労働者にどう波及させるかだ。そこで、街宣行動等を通じた世論喚起(社会運動)および中小・地場組合を支援する活動を推進し、これにより県内の未組織労働者や非正規労働者を含むすべての労働者への波及をはかることを連合埼玉の取り組みの柱とした具体的行動を組み立てた。

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佐藤道明

連合埼玉 事務局長

パワーアップセミナーで交渉力アップ

─中小・地場組合の支援活動とは?

毎年開催しているのが、中小・地場組合の交渉力を高める「春季生活闘争パワーアップセミナー」だ。

中小・地場組合は、賃金制度が未整備であることが少なくない。要求を組み立てること自体に苦労している。また、経営に関する情報を得るのも困難で、経営分析の専門知識を持つ専従役員をおく余裕もない。そのため実際の労使交渉においても、説得力ある要求の根拠を示すことができず、経営側の論理に押し切られてしまうということが起きていた。

そこで、実際に労使交渉にのぞむ中小・地場組合の役員を対象とし、取り巻く情勢や連合の春闘方針、財務諸表の見方や要求の考え方・根拠などを再確認できるセミナーを開催することにした。日常的に労働組合が会社の経営状況を把握し、チェック機能を果たしつつ、良好な労使関係を築いていくことは、企業の持続的発展につながり、組合員のためにもなる。まさに交渉力の強化こそ、中小・地場組合への最大の支援になる。

今季は、1月28日(日)と2月4日(日)、同じプログラム内容で週末に2回開催、非専従の役員が参加しやすいよう工夫した。連合の闘争方針と「春闘で何が話し合われるべきか」と題した講義で財務諸表の見方や賃金の基礎知識、要求根拠や要求水準の考え方などを解説し、理解を深めた。資料は『連合白書』のほかに、日本経団連の『経労委報告』を購入し、連合の「『経労委報告』に対する見解」とセットで毎年配布している。実際の労使交渉は、労働側の主張だけを繰り返しても進展しない。事前に『経労委報告』とそれに対する連合の見解を読み込み、経営分析力を身につけることで、経営側の主張に対し、根拠を示して的確に反論できる交渉力を高めたいと考えるからだ。

連合埼玉では、中小組合のために通年の「組合役員教育プログラム」(基礎講座、実務講座、スキルアップ講座合わせて年間20講座)も実施している。そこで経営分析についての基礎知識を学んだ上で、交渉がスタートするタイムリーなこの時期にパワーアップセミナーを受講すると、相乗効果で交渉力が高まる構成になっている。

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2018春季生活闘争パワーアップセミナー

格差是正に向けた地域ミニマム賃金

─世論喚起の取り組みは?

街宣行動は、ミニマム賃金や働き方改革などについて幅広くPRすることで、賃金相場の形成や底上げ・格差是正の必要性を訴える運動につなげていくことが目的だ。

1次行動は、2月6日、大宮駅東口で「2018春季生活闘争・闘争開始宣言2・6決起集会」を開催。翌日から各地協での駅頭行動や、連合埼玉による県内各地を街宣車でまわるキャンペーンも展開した。

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1次行動 2018春季生活闘争・闘争開始宣言 2.6決起集会

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朝日新聞2/7

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朝日新聞2/4

2次行動は、3月6日に「3・8国際女性デー」と重ねて実施。女性委員会のメンバーが参加し、チラシ・ティッシュとラスクを配布した。一昨年まではバラを手渡していたが、ラスクに変更した。ラスクは県内の障がい者施設でつくっているもので、「ネットワークSAITAMA21運動」(連合埼玉と埼玉労福協が運営する「共生の地域社会づくり」をめざす自主福祉運動)を通じての関係があったからこそ実現したものだ。

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2次行動 国際女性デーとあわせた街宣でラスクを配布

3次行動は、県内の経営者団体への要請。これまでの経営者協会、中小企業団体中央会、商工会議所連合会、商工会連合会に加え、今年は初めて正式に中小企業家同友会にも要請を行った。特に強く要請したのは、格差是正に向けた地域ミニマム賃金の設定だ。埼玉県において、このミニマム以下の賃金をなくすよう理解を求めた。

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3次行動 中小企業家同友会への要請

─地域ミニマム賃金の活用方法は?

連合埼玉では、1996年から賃金格差是正のためにミニマム賃金を設定し、これ以下の賃金をなくそうと訴えてきた。今年は、連合埼玉に加盟する中小の組合員4161名の賃金データをベースに、20歳から45歳まで5歳ごとのミニマム賃金を設定。第9十分位、中位、第1十分位を算出し、前年のミニマムと今年の第1十分位を比較して、前者が高い場合は、その差額分の賃上げを要求する仕組みだ。今年は、35歳で前年より6000円アップの22万8000円をミニマム賃金として大きく掲げ、運動を進めている。最低賃金や連合リビングウェイジ(さいたま市の生計費をモデルに算出)もあるが、中小零細企業においては、この地域ミニマムが最も現実的な指標になっている。

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2017年個別賃金および2018ミニマム賃金設定額

─中小・地場組合の解決促進に向けては?

3月中旬の集中回答ゾーンを過ぎると、マスコミでは「春闘は終わった」という扱いになるが、中小・地場はそこから交渉が本格化する。そこで世論喚起の4次行動として、中小・地場組合解決促進アピールを、4月10日(大宮駅)、11日(川越駅)、13日(南越谷駅)、16日(熊谷駅)、18日(川口駅)と連続して展開する。ここには、青年委員会、女性委員会も積極的に参加し、底上げの必要性を自らの言葉で訴えていく予定だ。ぜひ注目してほしい。

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