子どもや若者の貧困が深刻化している─。
その最大の問題は、学ぶ機会が損なわれることだ。さらに、それを保障するための奨学金制度も不十分で、その返済の重さが若者の貧困化の一因にもなっている。奨学金を得て高等教育を受けても、貧困の連鎖を断ち切れない。これは深刻な社会問題だ。連合は、今年1月「奨学金制度の拡充に向けた連合の取り組みについて」方針を確認、4月20日には都内で「労働教育および奨学金制度に関するシンポジウム」を開催した。何が問題なのか、どう向き合えばいいのか、探ってみた。
所得低下と学費高騰
日本の奨学金制度の現状をみておこう。国の制度は、独立行政法人日本学生支援機構が事業運営を行っている。同機構は、2004年に日本育英会などを再編し設立されたが、これを機に返還特別免除制度などが廃止される一方、有利子貸与が拡大した経緯がある。
無利子の第一種奨学金は、成績の要件があり、月額3万円もしくは5.4万円が貸与され、卒業後20年以内に返済する。有利子の第二種奨学金は、貸与額を月額3・5・8・10・12万円から選択し、卒業後20年以内に元利均等で返済。2016年度の利用者は、第一種が47.4万人、第二種が84.4万人で計130万人を超え、受給率は50%に達している。
なぜ、ここまで奨学金の利用が広がったのか。最大の要因は、1990年代半ば以降、保護者の所得が低下する一方、大学・大学院などの学費が上がり続けてきたからだ。1975年に年間3万6000円だった国立大学の授業料は現在約54万円。私立大学の授業料も上昇を続け、平均で年間86万円、理系学部では100万円を優に超える。つまり保護者の収入は減っているのに、学費が高騰してきたために、奨学金を借りなければ進学できない学生が増え、その借入額も膨らんでいるのだ。
奨学金返済で生活困窮
もちろん奨学金を得て高等教育を受け、安定した仕事に就けるなら問題ないと思うかもしれない。しかし、平均返済額は300万円に近く、返済が困難になるケースも増えている。2012年以降、返済困難者への救済措置が拡充されてきたが、2014年度の返還猶予者は約5000人、延滞金を課されたのは1万7279人。背景にあるのは、若者の雇用の不安定化だ。学校卒業後に初めて就いた仕事が非正規雇用である若者は4割に近く、25-34歳のいわゆる「不本意非正規」比率は26.4%。とりわけ非正規で働く若者にとって月々の返済の負担は重く、生活が困窮していく要因になっている。
奨学金を得て高等教育を受けても、貧困の連鎖を断ち切れない。これは深刻な社会問題だ。なぜ、学ぶ機会の保障が重要なのか。若者支援の現場では何が求められているのか。
連合の取り組みなどは、「月刊連合5月号」にて紹介。
※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2016年5月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。