介護報酬引き下げの余波と簡易宿泊所の高齢化

少子高齢化が進み迫りくる介護時代に向けて、今どのような現状なのか。

【介護をめぐる課題と連合の取り組み ~介護現場の実態①~】

少子高齢化が進み迫りくる介護時代に向けて、今どのような現状なのか。

介護現場の実態をUAゼンセン日本介護クラフトユニオンの日下亮氏と、自治労横浜公共サービスユニオン副委員長であり、特定非営利活動法人「ことぶき介護」 管理者の梅田達也氏に話を聞いた。


処遇改善加算は賃金底上げにつながる運用を


介護報酬引き下げで、私が勤める会社は、前年比1億円以上の売り上げ減の見込みだ。2.27%という報酬引き下げは介護職員処遇改善加算による上乗せ分を含んだ数字だから、加算分が介護職員に還元された後は、事業所収入はさらに減るだろう。

事業者の収入減は、介護職員の一時金や定期昇給などの労働条件に悪影響を及ぼし、人材不足を深刻化させる。人材不足で職員1人当たりの負担が増せば、離職による人材流出を招く。さらに報酬改定に伴うサービス内容の見直しは、計画変更や説明・承諾のための利用者・家族の訪問など、介護職員に膨大な事務作業を強いることにもなる。


また、報酬改定の内容について、利用者への説明会や書面通知が行われておらず、サービスの継続性に不安を抱いている人も多い。改定で2割負担の対象となった利用者の中には、経済的理由でサービス利用を減らさざるを得ない人も出てくる。これを救済する仕組みも必要ではないか。

処遇改善については、2010年度から昨年までの5年間は、介護職員処遇改善交付金による処遇加算が年3回の一時金として支給されていた。初年度の一時金は月に約1万円だったが、次年度からは定期昇給分で相殺されるようになり一時金は減額。結局、年収は大きく変わらなかった。今年度から拡充された介護職員改善加算は、一時金ではなく月例基本給に含め、賃金の底上げにつながる運用にすべきだ。


安心して働ける労働環境をつくるためには、ある程度の介護報酬引き上げが必要だ。また、報酬改定は余裕を持ったスケジュールの中で行い、周知に時間をかけて利用者の不安を解消するとともに、事業者や介護職員の事務作業の効率化がはかられるようにするべきだ。

UAゼンセン 日本介護クラフトユニオン

東京総支部 常任

日下 亮

簡易宿泊所での急激な高齢化への対応が急務


「ことぶき介護」は自治労の組合員有志がつくったNPOで、横浜市中区の寿地区を活動エリアとしている。東京の山谷、大阪の釜ヶ崎に似た土地柄で、高度経済成長期に港湾や土木、建築の労働者向けの簡易宿泊街ができ、最盛期には日雇労働者が8000人以上住んでいた。今も6000人余りがここで暮らしているが、高齢化著しく、昨年の調査では60歳以上が67%を占め、認知症や障がいをもつ住民が急増している。川崎市の簡易宿泊所の火災で、そこが低所得高齢単身者の受け皿になっていることが浮き彫りになったが、寿地区では、要支援・要介護、障がいのある人の入居を前提に車いす用トイレなどの設備を備えた簡易宿泊所も増えている。かつて手配師のワゴン車が走った街を、今はデイサービスのワゴン車が行き交う。


横浜市の他区からの流入も多い。典型的なのは、病気を発症して退院後、後遺症で寮やアパートに戻れずに寿地区の簡易宿泊所を住居に設定するケースだ。また、特養やグループホーム等の契約になじまない人が、簡易宿泊所で暮らす例も多い。

高齢化が進む都市部では、通常の医療・介護の制度からこぼれ落ちる人が出てくる。横浜の場合は、そういう人たちが寿地区に集まっているのだが、今後、それぞれの地域でも、それぞれの実情に応じたやり方で、こうした人たちを支えていくことが必要ではないか。


寿地区には、精神科や内科の診療所、訪問看護師など、古くからこの地域を拠点に活動してきた方たちがいて、支援の体制は手厚いほうだ。ただ、患者や要介護者の増え方が尋常ではないため、追いつかなくなっている。介護に強い抵抗感を示す人への対処も課題だ。地域包括ケアシステムをどう構築していくか。地域防災拠点の委員会や地域保健福祉計画の推進会議などの場を通じて話し合いを続けているところだ。

自治労 神奈川県本部

自治労横浜公共サービスユニオン 副委員長

特定非営利活動法人「ことぶき介護」 管理者

梅田達也

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2015年7月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。

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