新たなステージへ 誰もが生き生き働ける職場をつくろう

新たなステージへ 誰もが生き生き働ける職場をつくろう

6月27日、連合は「障がい者雇用シンポジウム」を開催。 障害者雇用促進法が改正され、昨年4月から合理的配慮の提供が義務化されるとともに、来年4月からは法定雇用率が引き上げられ、その算定基礎に精神障がい者を含めることとなっている。雇用の現場ではどんな取り組みが進められているのか。報告を受け、その現状と課題を共有した。

障害者権利条約と国内法整備

連合が、「障がい者雇用」をテーマにシンポジウムを開催するのは、2009年以来8年ぶりのこと。前回は2007年に採択された国連障害者権利条約の日本における早期批准と実効性ある国内法整備を求めての開催だった。以降、労働政策審議会への対応をはじめ、障がい当事者団体との連携による積極的な政策対応を行い、2013年に改正障害者雇用促進法、障害者差別解消法が成立。翌年、条約が批准され、その柱である「障がい者に対する差別禁止」「合理的配慮提供の義務化」「障がい者雇用にかかる苦情処理・紛争解決援助の整備」は昨年4月に施行、「法定雇用率の引き上げと算定基礎の見直し(精神障がい者の雇用義務)」は、来年4月に施行される。

連合は、こうした動きを受けて、2015年に「改正障害者雇用促進法に関する取り組みについて」の方針を確認し、差別禁止、合理的配慮の提供義務に関する労働協約や就業規則のチェック・見直し、職場への定着促進と法定雇用率を下回らない雇用確保、労働組合の組織運営における確実な対応などを求めてきた。

この8年、障がい者雇用を取り巻く状況は大きく変化した。現場では、それをどう受け止め、取り組みを進めているのか。その現状と課題を共有することが、今回のシンポジウムの目的。神津会長は、主催者あいさつで「私たちは今、新たなステージの出発点に立っている。障がいの種類や重さにかかわらず、働く意欲と能力に応じて地域社会で働きながら暮らしていける社会の実現に向け、働く者の権利を守り、誰もが生き生きと働くことのできる職場をつくるという、労働組合の本来の役割を果たしていこう」と呼びかけた。

手話通訳、字幕入力、点字資料も用意

障がい者雇用の現状

では、障がい者雇用の現状はどうなっているのか。その人数は確実に伸びている。実雇用率は平均で1.92%。1000人以上の企業では2.12%と法定雇用率を継続して上回っている。ただ、法定雇用率達成企業は48.8%にとどまり、ゼロ企業も3割超。中小企業を中心に取り組みが進んでいない実態がある。

この間、雇用者数が伸びているのは、発達障がいを含む精神障がい者だ。朝日教授は、「身体障がいや知的障がいに比べて、精神障がい者の雇用の取り組みは遅れていたが、法改正を機にようやく進み始めたということだろう」と解説。一方、身体障がい者の雇用の伸びは緩やかになっているが、背景には高齢化による退職者の増加があるという。今後は、中途障がい者(ある日突然、病気や事故により障がい者となった人)に対する環境整備等も課題になってくる。

朝日雅也 埼玉県立大学 社会福祉子ども学科教授

課題は職場への「定着」

さて、雇用拡大が進む中で課題となっているのが、職場への「定着」だ。特に精神障がい者は、3分の2が1年以内で辞めているという実態がある。

朝日教授は、定着を支える要素として、

① 本人の努力と家族の協力

② 企業による適切なマッチング、職場環境改善、合理的配慮の提供

③ ジョブコーチなど支援機関による適切な支援

④ 職場の同僚の理解や声かけ

を挙げ、「特に共に働く職場の同僚の役割は大きい」と訴えた。

障がい者雇用のメリットを職場全体で認識することも重要だ。朝日教授は「特に注目されるのは、従業員満足度の向上。障がいのある従業員が能力を発揮できるよう工夫やサポートすることは、結果的に誰もが能力を発揮しやすい職場をつくることになる。実際に障がい者雇用をきっかけに業務体制の見直しを行い、効率化、生産性の向上につながった職場は少なくない。もう一つ障がい者雇用を考える上で大切なことは、働くことで得られる喜びや感動、充実感を分かち合うということだ。きっかけは法定雇用率の達成であったとしても、それは、誰もが働きやすい社会を創造し、ディーセント・ワークを実現し、障害者権利条約の理念であるすべての人々のための社会(A Society for All)を実現していくことになる」と説いた。

職場における支援

では、職場ではどういう支援をしていけばいいのか。

朝日教授は「合理的配慮の提供については、当事者と話し合い、何が必要なのかを引き出していくことが重要だ。障がい特性は、職場にオープンにして同僚に理解してもらったほうが、定着にも効果がある。環境の改善や同僚のサポートが本人の職業能力を高めていく」という。

また、今後の取り組みについて、厚生労働省の尾崎課長は「働き方改革実行計画には、多様な障がい特性に対応した障がい者雇用の促進、職場定着支援を進めるため、障がい者団体、労使、有識者が参画する会議の場を設置することが盛り込まれた。ここで、定着支援、高齢化対策、中小企業支援などの課題について議論を深め、施策につなげたい」と報告した。

尾崎俊雄 厚生労働省職業安定局 雇用開発部 障害者雇用対策課長

連合2017 障がい者雇用シンポジウム

構成組織、地方連合会、関係団体、障がい者雇用促進に取り組む団体などが参加。神津会長の主催者あいさつの後、朝日雅也埼玉県立大学教授、尾崎俊雄厚生労働省障害者雇用対策課長が講演。続いて現場の取り組みについてパネルディスカッションを行った。パネラーは、電機神奈川福祉センターの石原康則理事長、連合三重の金森美智子副会長、(株)栄和産業の伊藤正貴代表取締役、NTT労働組合NTT持株グループ本部・持株総分会の佐藤貴美子副分会長、コーディネーターは村上陽子連合総合労働局長。

パネルディスカッション

続いて行われたパネルディスカッションでは、村上総合労働局長のコーディネートで、それぞれの取り組み報告とともに、障がい者雇用の意義、今後の課題、労働組合の役割をテーマに意見が交わされた。

石原康則 電機神奈川福祉センター理事長

【電機連合神奈川地協では、障がいのある子を持つ組合員からの相談をきっかけに、労働組合活動の一環として障がい者雇用問題への取り組みをスタート。カンパ活動を行うとともに、1995年、社会福祉法人電機神奈川福祉センターを設立。障がい福祉事業の自立支援事業、就労支援事業などを行っている。】 毎年、約2万人が特別支援学校を卒業するが、一般企業への就職者は3割弱で、6割は障がい福祉サービス(就労移行支援、就労継続支援A型・B型)を利用する。センターは、この就労系福祉サービスから一般就労への移行を支援し、定着させるという機能を担っている。

障がい者雇用の意義は、企業が社会的責任を果たし、ダイバーシティ、共生社会を実現していくことだ。障がい者が賃金を得て働くことの意味は大きい。福祉から雇用への移行を実現し、生き生き働くその姿は、私たちのやりがいにもなっている。最近、労働契約型ながら福祉サービス事業である就労継続支援A型事業所が急増しているが、ここで抱え込んでしまうと一般就労への道が閉ざされる懸念がある。本来の趣旨から外れた運営が行われている事業所もあり、注視が必要だ。

課題は、その賃金だ。最低賃金が引き上げられると労働時間を短縮して調整するケースが少なくない。また、労働組合の組織化も進んでいない。 労働組合は、働く仲間として、障がいを持つ人の悩みを聞き、その権利を擁護し、労働条件の改善に取り組んでほしい。法定雇用率の達成は事業主の責任とされているが、私は労使の責務だと思う。まず、自らの職場の雇用率を把握し、取り組み事例の共有を進めてほしい。

金森美智子 連合三重副会長

【三重県では、障がい者雇用率が全国最下位を記録したことから、政労使の三重県雇用創造懇話会で連合三重が課題提起し、取り組みをスタート。企業に障がい者を雇用しない理由を聞いたところ「障がい者と接したことがないから」が多数を占めた。そこでステップアップカフェCotti菜を2014年12月にオープン。障がい者の職業訓練、障がい者が製作した商品の展示販売、交流の場として、県内企業の障がい者雇用促進に大きく貢献している(見学は随時受付)。】

ステップアップカフェCotti菜の来場者数は、2年半で6万4000人。2号店もオープンした。成功のカギは、行政だけでなく、企業、労働組合、障がい者団体など、オール三重で取り組んだこと。その体制として「障がい者雇用推進協議会」を設置し、各実務責任者による運営会議も置いた。

障がい者雇用の意義は、多様な理解が生まれ組合員の成長につながることだ。同じ働く仲間として職場に障がい者がいることで、みんなの意識が変わってくる。日常のさまざまな場面でも、障がいを持つ人々と交流しサポートできるようになる。県内の雇用率が伸びているが、1人採用したところが、2人目、3人目と増やしていることがわかった。課題は、ゼロ企業への働きかけだ。 それぞれの職場で、労使協議などのテーマに挙げ積極的に議論していきたい。また労働組合活動においても、手話通訳など合理的配慮を積極的に提供していければと思っている。

伊藤正貴 株式会社栄和産業 代表取締役

【栄和産業は、トンネル掘削車のリアカバーやショベルカーのエンジンフードなどの部品を製作する中小企業。事業所は神奈川県、静岡県に10拠点あり、社員総数は133名。養護学校の生徒の職業実習受け入れをきっかけに、障がい者を雇用し、現在、知的障がい者、精神障がい者、計7名が、健常者と同じ製造現場で働いている。】

製造現場は、危険な作業も多い。実習生受け入れには不安があったが、その頑張りをみて、やらせればできることがわかった。現在、法定雇用率を上回っているが、実習後入社を希望すれば、できるだけ雇用するよう努めている。また、ポケットティッシュを製作し、他社にも実習生受け入れを呼びかけている。

実際に雇用して気づかされたのは、障がいを持つ人も「働きたい、働いて賃金を得たい」と思っていることだ。最近入社したAさんは、地域の福祉作業所で仕事をしていたが、報酬は1日140円だったという。その彼が、今は1日4時間働いて納税者になっている。支えられる側が支える側になる。本人や家族にとっても、社会にとっても、その意義は大きい。

課題は、仕事をつくること。障がいが重くてもできる作業工程の多くは、ロボットによる自動化や海外生産に移行している。消費者としては、安価なモノが買えるという恩恵があるが、多少コストが上がっても、障がい者雇用の場を生み出せれば、社会全体としてメリットがあるのではないか。国からは法定雇用率を守れという縛りが強くなる一方で、仕事を奪うような動きがある。その矛盾を現場から強く訴えたい。そして、障がいが重くても、実習や雇用を受け入れられる体制づくりに労使でチャレンジしていきたい。

佐藤貴美子

NTT労働組合NTT持株グループ本部

持株総分会副分会長(クラルティ部会)

【NTTクラルティは、特例子会社として2004年に設立。2017年6月1日現在、社員数は322名、うち障がい者は267名。連結グループ各社で障がい者雇用率は2・3%を維持。ユニバーサル情報サイト「ゆうゆうゆう」の運営、紙媒体文書の電子化、料金センターの受付、リサイクル紙による手漉き紙の製造・カレンダー製作、オフィスマッサージなど、障がい特性を活かした業務を行っている。また、東京パラリンピックの強化選手でもある社員が講師を務める障がい理解研修やイベントなども実施。】

私は、32歳の時に関節リウマチと診断されて人工関節となり、身体障害者手帳を持っている。中途採用でNTTクラルティに入社し、営業を担当するとともに、組合活動にも参加。障害者雇用促進法などの法制度が整備され、特例子会社の仕組みが定着したことで、私も含め多くの障がい者が企業に雇用されるようになっている。NTT労組クラルティ部会は、組合員数203名、うち障がい者は184名。職場対話会では、要約筆記や手話通訳などを入れている。レク活動も活発で仲間との交流を深めている。

山梨県の塩山ファクトリーでは、重度の知的障がいの社員が自らの能力を発揮し、地域で自立した生活を送りながら働いている。障がいのある人が、能力を適正に発揮し、地域で自立した生活が送れる社会になる。それが障がい者雇用の意義だと思う。 今後の課題は、法定雇用率引き上げへの対応と定着支援。個々の特性を考慮した業務の選択、合理的配慮の提供のために、精神保健福祉士の配置なども考えている。労働組合としても、障がい者が安心して働き続けられる会社をめざして、労使が一体となって取り組みを進めていきたい。

村上陽子 連合総合労働局長

連合は、2013年に成立した改正障害者雇用促進法について、合理的配慮の提供を義務化し、長年の課題であった精神障がい者の雇用を義務づけたことを高く評価し、取り組み方針もとりまとめている。来年4月には、法定雇用率が引き上げられる。労働組合として、法定雇用率が達成されているかを確認し、その上で差別的取り扱いや不利な取り扱いがないか、合理的配慮が提供されているか、労使で確認する取り組みを徹底してほしい。

今日は、現場からさまざまなご意見をいただいた。地域や職場に持ち帰って、さらなる雇用の促進や定着の取り組みに活かしてほしい。連合としても、こうして議論し意見交換する場をこれからも積み上げ、政策に反映していきたい。 連合の取り組み

まず、職場の雇用率の把握を!

2018年4月から、民間企業の法定雇用率が2・2%に引き上げられる。まず、自分の職場の障がい者雇用率が何%なのか、それは現行の法定雇用率の2・0%を達成しているのか確認してほしい。そして、労使協議の場で、雇用率引き上げへの準備、新たに算定基礎に入る精神障がい者への対応、また、合理的配慮提供の対応状況など、話し合ってほしい。合理的配慮については、何が必要なのかは当事者でないとわからない部分がたくさんある。労働組合としても、そのニーズを把握する取り組みを進めてほしい。

特例子会社は、雇用の場を確保し、雇用率を上げていく上で、大きな役割を果たしてきた。当面の間は活用を進めるべきだが、やはりその先のめざす社会を見据えて、これからの障がい者雇用のあり方を考えていくことも必要になっていると言えるだろう。

障がい者雇用は、身近な問題だと受け止めにくいかもしれない。しかし、誰もが安心して働ける職場づくりは、労働組合にとって重要な課題だ。障がい者が働きやすい優しい職場は、誰にとっても働きやすい職場である。 すべての職場において障がいのある人も健常者も、高齢者も若者も女性も、育児中の人も、家族を介護する人も、治療を続けながら働く人も、さまざまな事情を抱える人たちが、当たり前のように同じ職場で共に働けるというのが、私たちのめざすべき職場の姿だ。

吉住正男 連合雇用対策局長

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