日本のプロ野球を守ったものは?  〜そこに労働組合の原点がある〜 【日本プロ野球選手会 結成30周年特別対談①】

2015年、日本プロ野球選手会は結成30周年を迎えた。労働組合の原点について森忠仁新事務局長と神津会長が語り合った。

日本プロ野球選手会は、もっとも歴史ある「個人事業主」からなる労働組合。

その本領が発揮されたのは、2004年の球界再編問題だ。選手会は、一方的な球団合併決定に対し、ストライキを決行して12球団・2リーグ制を守り抜いた。

連合はその行動を支援して以来、連合メーデー(今年は4月29日)への参加や、東日本大震災ボランティア活動における協力など、連携を重ねてきた。

2015年、選手会は結成30周年を迎えた。労働組合の原点について森忠仁新事務局長と神津会長が語り合った。

連合会長

神津里季生(こうづ・りきお)

森 忠仁(もり・ただひと)

日本プロ野球選手会事務局長

1981年、千葉商高から阪神タイガースに入団。2000年日本プロ野球選手会事務局に入局。

労働組合「プロ野球選手会」結成の原点

―昨年、選手会は結成30周年を迎えられました。その直前、松原前事務局長が急逝されたことは本当に残念でした。

私自身も、まさかこんな形で事務局長の重責を引き継ぐとは思ってもみませんでした。結成30周年をいちばん楽しみにしていたのは、松原さんでしたから。

神津 本当に残念です。私が松原さんと初めてお会いしたのは、20年ほど前になります。実は第4代の正田耕三選手会長は、社会人野球の新日鐵広畑(当時)出身で、私はマネージャーとして2年間寝食を共にした仲なんです。

その頃、幹事をしていたある勉強会でプロ野球選手会の話が聞きたいと正田会長にお願いし、一緒に松原事務局長にも講師として来ていただきました。私自身、多少なりとも野球に関わり、大のプロ野球ファンであると同時に、労働運動に身を投じた者として、そのお話に強い関心を持ちました。

東京都労働委員会(※1)の認定を受け法人登記したのは1985年ですが、プロ野球選手にも労働組合が必要だという思いは、もっと前からあったんです。選手は、毎年契約交渉に臨みますが、その立場は弱かった。1966年に稲尾和久さんと王貞治さんが労働組合設立を求めましたが、当時はコミッショナー(※2)に一蹴されました。

その後、1980年に「野球普及」を目的とする社団法人日本プロ野球選手会が発足します。初代事務局長の山口恭一さんは、退団金共済制度の整備に取り組む一方、12球団をまわって、選手生活の短いプロ野球において労働組合の存在がいかに大切かを説いてまわりました。選手の要望をまとめ、対等な立場で球団と交渉するには労働組合しかないんだと。村田兆治さんたちも陰ながら協力し、「労働組合」の発足に至りました。

神津 労働条件は労使が対等な立場で決定するものですが、一人ひとりの労働者は弱いから、団結して労働条件の向上に取り組む。まさに労働組合の原点ですね。

はい。選手全員が組合結成に賛同したのは、球団と選手の関係があまりにもフェアでなかったからです。当時、「野球協約」に基づく統一契約書によって、一度契約したら、その球団に保留され続ける状況がありました。

年俸も、よほどの主力選手でなければ、一方的に提示されるだけ。初代の中畑清会長、落合博満・梨田昌孝副会長は、まず選手全員に労働組合の意義を説いてまわりました。選手会を通して選手の要望を球団側や機構側に伝えられる。選手会が選手の権利や生活を守るから安心してプレーに専念できると。

神津 それは大切なことですね。どんな労働組合でも、一人ひとりの組合員が「自分たちの問題だ」と思えるかどうかで、組織の力量が大きく違ってきます。

そう思い、まずは4つの基本的な待遇改善に取り組みました。最低年俸の引き上げ、統一契約書の見直し、オフシーズンの確立、そして球場の安全対策です。特に地方の球場ではラバーフェンスが設置されていないところが多く、重大事故につながることから早急な対応を求め、ダグアウトのエアコンも設置させました。

神津 そういう地道な活動をトップクラスの選手がリーダーシップをとって進める。交渉で優位に立てる主力選手が、若い選手や下積み選手のために活動する。非常に象徴的なあり方だと思います。

確かに簡単にクビを切れない人が矢面に立たないと、立場の弱い選手を守れない。それを自覚してみんな役員を引き受けてくれます。それでも矢面に立ったことで不利益な扱いを受けるケースもありました。

(※1)労働組合と使用者との間で生じた紛争を、公正・中立の立場から解決するため設置された準司法的機能をもつ行政委員会

(※2)プロの野球・ボクシング・レスリングなどで、その統制をとる最高権威者の職名。

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2016年3月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。

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