『ほこ×たて』のヤラセ問題と「組織の論理」

フジテレビの番組『ほこ×たて』でヤラセがあったと告発され、話題となっており、いろいろ興味深かったので、これについて少し。

フジテレビの番組『ほこ×たて』でヤラセがあったと告発され、話題となっており、いろいろ興味深かったので、これについて少し。

1 事件の経過

『日刊サイゾー』の「『怖がる猿の首に釣り糸を......』フジ『ほこ×たて』ヤラセ告発で番組崩壊か」によると、事件の概要は以下の様になっております。

問題となったのは、10月20日に放送された『ほこ×たて 2時間スペシャル』内の「実弾スナイパーVS逃げるラジコン」で、「告発したのは、老舗ラジコンメーカー・ヨコモに勤める広坂正美さん」。そして彼は、同社のサイト上に「ヤラセが放送された経緯を明か」す形で告発を行いました。

番組では「ラジコンヘリ、ラジコンカー、ラジコンボートを操縦する"日本ラジコン軍団"と、逃げるラジコンを銃で仕留めようとする"米国スナイパー軍団"の3対3の勝ち抜き戦を放送。」

放送された内容では、日本側連敗し、最後の「ラジコンボートがスナイパー3人に連勝し、日本ラジコン軍団の勝利で幕を閉じた」こととなっております。

ところが、告発文の説明によると、「ラジコンボートがあっさり3連勝してしまったためか、急きょヘリとカーの対決を追加撮影することに」したそうです。

他にも対戦相手が「内々のルールを・・守らず、開始早々にラジコンカーが大破。撮影は中止」となり、「広坂さんは制作スタッフに出演辞退を申し出」、企画は中止となりました。

「しかし、放送直前になって、番組サイドから今回の編集内容が広坂さんに知らされ」、「広坂さんは『もしこの内容で放送された際には、事実を発表します』と変更を要請したが、そのまま放送されてしまったため告発に踏み切った」というものです。

2 組織の論理

絵に描いたような「組織の論理」かと思います。視聴率をとるためには番組内の対戦が盛り上がった方が良く、簡単に決着がついてしまえばおもしろくありません。

そのため、放送するテレビ局としては、いきなり三連勝で片が付いてしまうより、最終戦までもつれ込んでくれた方が良いと考えているのは間違いないかと思います。

実際、彼らにしてみれば、サッカーのワールドカップ予選でも野球のCSでも簡単に決まってしまうより、最後の最後までもつれた方が視聴率がとれるので、ありがたいと考えているのではないでしょうか。

ま、この世にはいろいろな立場の人がいるので、その人たちがどう思おうが基本的に自由です。ただ、やっかいなのはその自分の希望を無理矢理実現させてしまう方がいることです。

それらの典型的な例が、検察による調書偽造(冤罪)や新薬のデータ改ざんかと思います(パソコン遠隔操作事件容疑者の再逮捕と情報の公開)。今回のヤラセも基本的には同じもので、こうだったら良いなという思いこみを形にしてしまったというところではないでしょうか。

3 真実

何度か書いている様に私はこの世に「真実」などというものが存在するとは思っておらず、あるのは個々人の認識だけだと思っているので(領土問題における「真実」らしさの重要性)、こうであれば良いと思う人が多いことについてはとても理解できます。

しかし、意図的にこうしたことをすることについては、だからこそもっともやってはいけないことだと思っております。

実際問題、現在の様に専門が細分化している時代では、ある方の行った実験を再現しようにもやれる方は限られており、その他の人にしてみれば、信頼するしかない面も多いわけで(『専門家はウソをつく』)、それがこうしたことをやられたのでは、世の中が成り立たなくなってしまいます。

そういう意味で、偽造やねつ造というのは、その道の「プロ」(職業人)として最も恥ずべき行為であるとも言って良いものかと考えています。

4 告発の無視

それと興味深かったのは、今回、広坂氏が「もしこの内容で放送された際には、事実を発表します」と警告していたにも関わらず、放送されてしまったことです。

おそらく、広坂氏に話をもってきた人も既に「組織の論理」で、そう決まってしまったことなので、今更言われても個人の判断で取り消しができなかったという面はあるかと思います。

しかし、それ以外にも、個人が何を言ってもマスコミの前には大したことはないだろうという思い(うぬぼれ)があったのではないでしょうか。

実際、これまでは個人が何か意見を述べたとしても、周りにいる人位しか聞いてもらえなかったわけで、それほどの影響力を持つことはありませんでした。

こうした状況がインターネットの普及により、大分変ってきているわけですが、マスコミとしては、おもしろくないのか、あまりこうした状況を認めたくないのではないでしょうか(ネットの影響力とマスコミの責任逃れ)。

今回、そういう思いもあって、広坂氏の警告を無視して放送したのかとも考えます。多分こうしたことが続けば、テレビ局も考え方を改めてくれるのではないか、そういう意味でも興味深い事案と思ったが故の今日のエントリーでした。

(2013年10月25日の「政治学に関係するものらしきもの」から転載しました。)

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