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2013年08月26日 22時32分 JST | 更新 2013年10月26日 18時12分 JST

『はだしのゲン』と教育委員会の体質

松江市の教育委員会が市内の市立小中学校に対して『はだしのゲン』の閲覧制限を求めた問題で、市の教育委員会は、臨時の教育委員の会議を開き、「手続きに不備がある」として閲覧の制限を撤回することを決めたそうです。これについていろいろ思うことがあったので、少し。

1 表現方法

『はだしのゲン』についての大まかな内容は承知していますが、絵柄が好きでなかったこと等から、これまで読んだことがないので、作品の表現及び内容に関してどうこう言うつもりはありません。

そのため、松江市教育委員会による「被爆描写や歴史認識を問題にしたわけではない」と説明や、「子どもにトラウマに与えるような暴力シーンが出てくるために、全巻について『閲覧の際は教師と一緒に見るように』と各学校長に要請した」という個別の価値判断(『はだしのゲン』全巻を閲覧制限 「被爆描写や歴史認識を問題にしたわけではない」松江市教委が説明)について、ここで言及するつもりはありません。

確かに一般論として、感受性の強いというか、まだ自我がはっきり形成されていない子供に不適切な映像や漫画(典型が成人向け漫画)があるということは周知の事実で、私もそうした措置の必要性は当然認めます。

ただ、先に述べたように私自身当該作品を詳細に見たことがないので、これが子供の閲覧を制限するのがふさわしいかふわさしくないか私自身判断する資格がないという話です。

2 歴史認識

そもそも今回の問題がここまで大きくなったのは、今回の閲覧制限が、昨年8月に市議会に対してなされた「歴史認識」を理由として学校図書館から撤去してほしいという陳情と連動しているのではないかという推測があったためと考えます。

本来であれば、これについても一言述べるべきなのでしょうが、すいません。先に述べたように私自身読んだことがないので、この漫画の歴史認識がどうかということについても、どうこういうつもりはありません。

なぜ、こんなことを延々と書いているかというと、かなり今回のことについては、いろいろ話題となったわけですが、この問題を論じておられる方々(今回の当事者の方を含めて)本当に全部読んだ上で議論をしているのかという思いがあるからです。

 

3 事務局の判断

そして今回の臨時会議における判断についてですが、教育委員に諮らずに事務局が(独断で)、各小中学校に対して要請した経緯に疑問の声が上がり、方針撤回に追い込まれることになったというものです。

私の専門は政治学なので、民主主義における手続き論の重要さというものは、いやという身にしみており、そういう意味で明らかな瑕疵のあった要請事項で、撤回というのは当然の判断かと思っております。

実際これが可能であれば、事務局だけで何でもできてしまうという話で、教育委員そのものの存在意義が問われることにもなりかねないので、教育委員としても当然の判断だったかと思います。

4 事務局の権限?

問題は何故事務局が当初の判断を独断で行ったかという話です。以前横浜市教育委員会で一部の事務教員の判断で副読本が書き換えられるということが起こりました(日本が朝鮮人「虐殺」を認めたという『産経新聞』の記事?)。

そのときは、関東大震災直後の「朝鮮人虐殺」についての記述で、今回とは全く逆の事案だったわけですが、今回のことを聞いて真っ先の思いついたのは、事務局(員)の判断だけで、こうしたことが可能となってしまうことについてです。

当然内部決済も受けずにこうしたことを行うのは論外としても、教育委員会にも事務権限の規定はあり、当然、事務局だけでできること、教育委員の採決を仰ぐべき事案などが決められているわけですが、今回はそれに逸脱していたという話です。

5 教育委員会の問題

以前大阪市の桜宮高校で体罰問題が起こったとき、教育委員会の体質について橋下市長がいろいろ批判を行ったことがあります(橋下市長の大阪市立桜宮高校の入試中止に関するコメントについて)。

その中で、教育委員(含む教育長)についてもいろいろ批判を行ったわけですが、実際問題として教科書の選定にしても外部有識者である教育委員が普段からどこまであれだけある教科書を読んでいるかという話もあり、どこまで内部の決定に関与しているかは疑問です。

つまり、今回こういう形で、問題が表面化したので、教育委員会の内部の決定不備という形で処理をしたわけですが、実際問題同じように事務局が単独で決定している(もしくは、形だけ教育委員にお伺いをたてる)という事案は結構多いのではないかと思った次第です。

そういう意味でも今回こうした不始末が発生した以上、何故このような問題が発生したのか、検討する必要があるし、松江市教育委員会は詳細について公表する必要があるのではないかと思った次第です。

(※この記事は、2013年8月27日の「政治学に関係するものらしきもの」から転載しました)