派遣労働者と「テレビ番組の質」

3年で人が変わり、人材育成でいろいろ苦労しているのは、何もテレビ業界だけではありません。それでも他の業界は何とか対応してきたわけです。それが問題であれば、こうした派遣制度そのものを批判すべきかと考えます。

『産経新聞』が「TV業界、戦々恐々 派遣労働見直しで最長3年」という記事を配信しており、いろいろ思うところがあったので、これについて少し。

1 記事の紹介

「テレビ番組の制作現場が、政府が進める派遣労働の見直しに戦々恐々としている」という記事です。

その理由が厚生労働省の有識者研究会が、最終報告書に26の専門業務区分の撤廃を盛り込んだためで、「従来『専門性が高い』としてディレクターやアナウンサーとして長期間働き続けることができた派遣労働者が、3年で職を失う可能性が出ている」ためだそうです。

「制作現場でテレビ局の社員は派遣スタッフへの指示と査定が主な仕事で、実作業に携わるのは派遣スタッフが多い」という現実があるため、こうした派遣スタッフが3年で交代となると、経験豊富な人がいなくなって大変だという主張です。

3年で職場が変わったのでは、「人材育成の点でも問題がある」という意見も紹介されています。

「派遣には、実質無制限に働き続けられる『無期契約』もある」わけで、記事では一応これにも言及していますが、「無期契約を結べるのは『プロデューサーやベテランなど一部に限られる』(制作会社関係者)と」しています。

最後に、「テレビ業界に詳しい上智大の碓井広義教授(メディア論)」の「最終報告書が実現すれば、番組の質が下がる可能性が高く、人材育成への影響でテレビ業界全体の地盤沈下を引き起こす恐れがある。現場の意見を聞いて、議論を重ねるべきだ」という意見を紹介して終わっています。

2 派遣労働

現在の制度では、通訳やアナウンサーといった、専門の技能を要求される26業種については、派遣期間に制限がありませんが、それ以外の業種では、派遣期間は同一業務につき最長3年という制限あります。

それを最終報告書では、専門業務区分を取り払おうというもので、結果「専門性が高い」ディレクターやアナウンサーといった人たちも派遣であれば、3年の制限が付くようになる可能性があることを批判している記事です。

この見直しについては、いろいろな意見が寄せられていますが、労働関係については、使用者に有利か、労働者に有利かという観点から議論されることが多くなります(労基署に対する過度の期待とブラック企業批判)。

そして、今回の見直しについては、みたところ、人を変えさせすれば、派遣労働者をずっと利用できるようになっており、企業側に有利という議論がなされているような気がします。

3 特別扱い

本来見直しそのものに問題があれば、それを批判すべきなのではないでしょうか。しかし、消費税増税で新聞を対象外にしてもらう動きがある様に(スズキ会長の軽自動車税増税反対発言は理解できるか?)、どうもマスコミは自分達だけは「特別」だとでも勘違いしているような気がしてなりません。

今回の元記事の問題について、私に言わせれば問題があるのは、テレビ局の体制かと考えます。つまり、「派遣スタッフへの指示と査定」をするだけで、高級をもらっているテレビ局の社員がいる一方で、派遣として安い賃金で「実作業に携わる」スタッフという体制です。

思うに制作会社の位置づけそのものがあいまいで、現在はこうした特定のテレビの局員の指示のもと特定のテレビ局の番組を作るという形になっていますが、よりわかりやすくすれば良いだけだと考えます。

つまり、完全に制作会社を独立させて、どこのテレビ局にも番組を売れるようにするか、逆にNHKの様に完全子会社化してしまい、テレビ局が全面的に面倒を見る形にすれば良いだけではないでしょうか。

4 最後に

つまり無期契約を結ぶ者を増やせばよいだけの話ですが、それを、自分たちの都合だけで、「無期契約を結べるのは『プロデューサーやベテランなど一部に限られる』」などと主張すること自体が間違っていると考えます。

当たり前ですが、3年で人が変わり、人材育成でいろいろ苦労しているのは、何もテレビ業界だけではありません。それでも他の業界は何とか対応してきたわけです。それが問題であれば、こうした派遣制度そのものを批判すべきかと考えます。

ところが、今まで特別扱いされてきたかとを感謝するどころか、あれだけくだらない番組をつくっておいて臆面もなく、「番組の質」を主張できること自体が全く理解できなかったが故の今日のエントリーです。

(※この記事は、2013年9月25日の「政治学に関係するものらしきもの」から転載しました)

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