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2017年12月25日 09時51分 JST | 更新 2017年12月25日 10時06分 JST

働き方改革に取り組んでいるのに、日本の労働生産性はなぜいまだほかの国と比べて低いのか?

「働き方改革」の傘下で行われている活動を見ると、正直とてもがっかりする。

bee32 via Getty Images
Asian People are across the crosswalk

2017年12月21日の日本生産性本部の発表によると、去年の日本の労働生産性は、時間当たりで46ドル(4694円)となったそうだ。前の年よりも0.5ドル増えた値となったが、まだOECDに加盟している35か国の中では前の年と同じ20位にとどまっている。これは6位のアメリカ(69.6ドル)の3分の2くらいの水準である。

最近、毎日のように「働き方改革」という言葉を耳にする。そして言葉だけでなく、実際に日本企業がそれに取り組み始めていたのだが、しかし何故日本の労働生産性はいまだ低いのだろうか。個人的には、働き方改革の名前で行われている活動がその重点を間違ったところに置いているのが生産性低迷の原因だと考察する。尚、今までの働き方改革の活動は真の問題に全然触れていないと思われる。そのため、的外れになっていて効果も薄いのだ。

実際働き方改革という言葉が登場した時に、最初は個人的にはとても嬉しく思った。なぜなら私はまさに日本の企業が最も必要としているのは働き方を改革することだと思っていたからだ。しかし、最近「働き方改革」の傘下で行われている活動を見ると、正直とてもがっかりする。働き方を根本的に変えるのではなく、多くの企業の活動の重点は「従業員の仕事時間の監視強化」や「従業員が残業しないように忠告する」ということだけに置かれている。例えば、多くの企業は正確な勤務記録の把握を目的にしたシステムを導入している。決まった時間に「そろそろ帰宅しましょう」というメッセージをスピーカーに流したり決まった時間に事務所の電気を消したりするものだ。パソコンが決まった時間に強制シャットダウンする仕組みを導入した会社までもある。オフィス内を飛行するドローンの定期巡回により退社を促すというジョージ・オーウェルを思わせるシステム登場した。こういったものは従業員を言うことを聞かない子供として強制的に指示に従わせているようにも見え、また職場をパノプティコンにしてしまう恐れがある。

もちろん、「残業ゼロ」を目指すことはいいことだ。しかし、働き方改革という名で行われているものの多くは残業の根本的な原因に対する対策となっていない。『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』という本でも詳しく書いたが、残業を生み出している日本企業の非効率的な働き方や管理慣行は様々ある。それを要約すると、以下のようなものが挙げられるが、これらに対して企業は今すぐ取り組む必要性がある:

一人あたりの仕事の量が多い。仕事の量が増えても、日本の企業は従業員の数を増やすことに対して抵抗が強いため、自然と小人数で沢山の仕事をこなさなければならない状況が発生する。尚、どれほどの人数が必要なのかを考える際、皆が残業をするという前提を持っているケースが多くある。

仕事の仕方が非効率。日本企業の仕事の仕方を見ると、従業員の時間を無駄使いしているところが沢山あるのに気付く。報告中心の会議、定例会議、誰も読まない週報や日報、承認を得るためのスタンプラリーのような活動、小さなことでも上層部の承認を得る必要性、沢山の書類やプロセスやルール、根回し、調整、報連相、など、リストアップしようとすると本当に山ほどあるのだ。こういった働き方は「当然」だと思われているが、実はとても非効率的で、長時間労働の大きな原因になっている。

ソフトウェアへの投資が不十分。仕事を効率化するソフトウェアはアメリカ企業の生産性を支えているが、日本企業はそういったものの導入が遅れている。

集団的なプレッシャー。ほかの人が働いている時に、自分一人が先に帰ることは好ましくないと感じている日本人は多い。仕事は集団でするものという感覚から来るものだと考えられる。

沢山働くことが評価される。日本の上司の多くは部下のアウトプットより、どれほど努力したかを重視する傾向にある。遅くまで残業している人は「一生懸命頑張っている」ように見えるため、評価されやすい。

時間管理の感覚がない。アメリカでは「時間は金である」という考え方が存在し、仕事をしながら時間の有効利用を重視する。しかしながら日本では、その感覚が薄い。そのため「なんとなく」残業してしまう人が多いのだ。尚、平社員の場合、残業するなら残業手当を貰えるため、残業する動機も存在する。

こういった根本的な問題を解決せず、ただ残業を制限する施策はモグラ叩きゲームのようなもので、夜の残業で終わっていない仕事はどこか別の時間にこなさなければならないというサイクルを生み出してしまう。例えば、朝早く出社したり、昼食の時にちゃんと休まず机で食べながら仕事する、仕事を家に持ち帰る、などのことになる。それを避けるために必要になるのは、まさに仕事の内容自体を見直すことである。具体的には、生産性の悪い仕事慣行をなくしたり、効率性を促進するソフトウェアや仕事の仕組みを導入したりする必要がある。つまり仕事の進め方を完全に考え直すべきだと言える。残念ながら、多くの企業は今のところそこまで考えていないようだ。

先日、労働生産性に関する新しい数字を発表した際に、日本生産性本部は「AI=人工知能を活用した自動化などによる生産性向上を期待したい」と述べた。このような考えは最近起きているAIへの投資ブームにさらなる追い風を送るかも知れないが、いつかAIが救いの手として労働生産性問題を魔法のように完全解決するとは思えない。最近、日本企業の新技術導入についてマイクロソフトと共同で研究しているが、その結果として言えるのは、どんなに新しい技術を導入しようとしても、組織の文化やメンバーの働き方を変えない限り、その技術を上手く導入することはできない。そのため、AIは日本の労働生産性問題を全面解決するものとはならないということだけでなく、日本の低い労働生産性を生み出している企業風土はAIの有効利用を妨げるはずだとも言える。

日本の組織のあり方や人事管理慣行は日本の経済の足を引っ張っている。無駄な作業をなくして付加価値が与えられる仕事に集中できるようなポジティブな環境で従業員が生き生きと働けることは必要である。働き方改革がそれをもたらすことを当初期待していたが、監視に重点が置かれすぎて実際そのような結果を生み出していない。生産性の向上を実現するために、日本企業がより深い取り組みをしなければならない。