若者の声を各国首脳に伝える Y7サミット開催者にインタビュー

みなさんはY7という若者会議をご存知でしょうか?

突然ですが、みなさんはY7という若者会議をご存知でしょうか?

Y7とは、G7サミット公式会議の一つとして、各国から30歳以下の代表団を募り開催される青年国際会議のことです。ここでまとまったコミュニケ(共同声明文)は、実際のG7首脳サミットに政策提案として提出されるという大きな意味を持った会議になります。

今年は日本の伊勢志摩で、各国首脳が集まるサミットが開かれました。

Y7もそれに先立ち、早稲田大学にて、①テロ対策を始めとする安全保障、②少子化や人工知能などの労働と経済問題、③ジェンダーや人権などに関する持続可能な社会をテーマに4月30日〜5月2日の日程で開催されました。

私はこのY7が主催していた公開イベント(有識者講演会)にたまたま足を運ぶ機会があり、話を聞く中で様々な発見、感想、疑問を抱きました。こんな面白いイベントがあったのか、もっと知りたい!と思ったのです。

そこで、実行責任者を務めた中村美月さんに連絡をとってみました。実は彼女とは同じ大学に通っており、以前授業で一緒だったこともある顔見知りです。

共通の友人を介してFacebookで繋がっていたため、Y7の開催も彼女の投稿を通して私は知りました。

そこで、いくつか質問を投げかけた所、快く返事をしてくれました。また、中村さんのみに限らず、Y7サミット代表を務めた千葉宗一郎さんからも回答していただけることになりました。

以下、Facebookを使ったやりとりからの回答となります。

Y7代表の千葉宗一郎さん、Y7企画実行責任者の中村美月さんへのインタビュー

公開イベントの様子 / Y7 Facebookページより

1, 今回のサミットでは①安全保障、②労働と経済、③持続可能な社会 の3点をメインの議題に据えていたと聞きましたが、サミットを終えて具体的にはどのような政策提言をすることになったのでしょうか。

提言数が多いため、 詳しくは共同声明文(URL)を参考にして頂きたいと思いますが、簡単にいくつか抜粋させて頂きます。

①安全保障[International Security]

今世界を脅かすテロ及びそれに付随して生じる諸問題に関する対策が話し合われた"安全保障"では「テロ」と「難民」を扱い、

・「テロ」に関してはテロの根本的解決の必要性と若者の過激化の阻止するための政策

・難民」に関しては難民の人権及び社会への統合、そしてノウハウの共有に関する具体的な提言

の2点を行いました。

②労働と経済[Labor and Economy]

少子高齢化に加え、ITや人工知能の発達により変化する労働環境への対応が話し合われた、"労働と経済"では

・高齢者の比率が増えて、社会福祉の支出割合が高まることを念頭に、意欲のある定年退職者がより長く働ける環境を作るための具体的な支援。

・高齢者マーケットを拡大する事で、高齢者及び若者の双方の雇用の機会を増加するべきとい意見に基づいた具体的な提言

を中心に行いました。

③持続可能な社会[Sustainable Development]

男女平等や人権問題、様々な社会の変化を考えた、"持続可能な社会"では

男女平等 Gender inequality

・女性の家事など、これまで経済活動として認識されずにいた労働を認識し、GDPとして計算するという新しいアプローチを取り入れる提言

・気候変動により一番影響を受けやすい女性へのプロテクションをあげるべき、

など、従来型の女性活用促進教育やチャイルドケアのアクセスの充実も含めて、女性問題に関して可能な限り網羅的な提言

教育の平等 Education inequality

・家庭内におけるホームラーニングの重要性に基づく提言

・日本からは大学奨学金返済問題に関して、本人や両親の所得に応じて学費を調整する仕組みが提言

・また、EU諸国からキャリア教育やライフスキル開発の重要性が唱えられ、新たなカリキュラムとして追加されること

が提言されました。

より詳しくは共同声明文をご参照下さい!(千葉)

2, G7サミットに伴ってY7を日本で開催するにあたり、議題の設定や有識者講演の人選などを、どのように決定しましたか?

実際G7の議題と重なり、かつ若者(30歳以下)で話し合う意義があるものを意識して選ばせて頂きました。

Y7の議題に精通している専門家の方々をお呼びさせて頂きました。有識者の方々は、日本の文化や国際社会での立場を発信されていらっしゃり、私にとっても大変勉強になることが多く、参加者にとって刺激的だったと聞いています。(中村)

3, 現在の国際社会において、アラブ、アフリカ、南米などのプレゼンスは年々大きくなっています。今回参加していない国々の視点については運営上どのようにお考えでしたか。

もちろん、国内外の問題を論じる上で、より多くの国の声を反映することが重要なのは言うまでもありません。そのために、G20や国連など、多くの国が集まる枠組みがあるとは思いますが、反映する声の多さがメリットしてある一方、参加国が多いがために生じるデメリットもあります。サミットでは、全会一致で共同声明文の内容が決定するため、思い切った政策や方針を目的に共同声明文を作り上げる観点からすると、思うようにいくことが多くありません。

一方、G7(Y7)では、 基本的価値観を共有している7カ国の場であるため、実現性の高い政策をコンセンサスとし、共同声明文として世界に発信し易いメリットがあります。そして、先進国に共通する独特の問題、或は世界における問題に対して先進7カ国としてどのような貢献ができるかについて話し合うという点において、大変重要な場です。

他方、今回のY7では、G7各国以外の視点も聞きたいという声が多かったので、Y7の議題に関連する国から、カメルーン、ノルウェー、トルコの3カ国をオブザーバーとして招待するY7、なるべく多くの意見を会議に取り入れる取り組みを行わせて頂きました。(千葉)

4, 各国の代表団を日本に招き入れるにあたって、様々なプログラムの計画やそれに伴う配慮があったのではないかと思います。苦労した点や印象的なエピソードがあれば教えてください。

サミットで議論はもちろん大切ですが、それ以外でも、参加者の皆様に日本をよりよく理解して頂こうと、日本の伝統芸能を紹介するために工夫をこらしました!和太鼓、日本舞踊、三味線演奏、 阿波踊りや日本庭園を経験して頂く等、サミットを通して、日本文化に触れて頂く取り組みを致しました。講演会の後は涙されていらっしゃる方も多く、企画して良かったなと、心から思いました。

苦労した点は、やはり外国の方は宗教が多様ということもあり、色々な食べ物の制約がある方が多かったですね。笑 Vegan、pescatarian、各種アレルギーを持っている方でも日本滞在中に満足頂けるように、日本食で食べられるものをレストラン、お弁当業者側と話し合いを重ねました。

また、日本が初めてだという方も多く、できるだけストレスフリーな環境を整え、議論に集中して頂けるように、スタッフ一同全力を尽くしました。例えば、時差があるかと思い、コーヒーやチョコレートを休憩時に用意したり、昼食の直後にアクティビティを入れたりしました。

料理は日本食、お土産にはY7のロゴが入った伝統的な煎餅を用意する等、少しでも日本の食べ物に触れて頂こうと取り組みをさせて頂きましたね。(中村)

5, 最後に、会期中を通して千葉さん、中村さんの感じた「Y7サミットを開催する意義」をお教えください。

まず政策提言だと思います。若者独自の視点をG7の共同声明文に盛り込む事は、政治家や官僚だけでは気付くことのできない視点を提供する事に意義があると感じました 。30歳以下の、様々なフィールドで活躍するプロフェッショナルが今何を問題として捉えているのかを、各国首脳陣に聞いて頂く場としては、大変意義のあるものだと思います。

今年度は直接的な引用はないものの、内容が重複している所が多々あり、Y7とG7の互換がある程度なされています。国際問題に対し、価値観の異なる者同士で考え、一つのものをまとめあげる経験こそ、若者にとって非常に重要なものだと思いました。(千葉)

やはり千葉さんもいっているように、一つ目に、"30歳以下"の世界各国から集まる若者が独自の視点から国際問題について議論を行い、政策決定に携わることができた点ですね。世界各国より、学生、ビジネスマン・官公庁・研究者等の多様な業種が集い、議論の結果得られた合意を元に共同声明文を作成します。事実、2014年のオーストラリア開催のG20サミットでは、日本代表団の社会福祉に関する提言がG20の共同声明文にそのまま引用されるという快挙を達成しました。

二つ目に、サミットを通じて友情が育まれる瞬間を何度も目にしたことは主催者として喜ばしいことでした。サミットの最終日には、連絡先を交換し、別れを惜しんでいたり、サミット後に一緒に日本を旅行すると言っていた代表団もいました。学生、ビジネスマン・公務員・研究者等の多様な背景をもつメンバーの間で今後も続く友情が育まれるのも、このサミットの意義なのではないかと考えます。(中村)

(回答以上)

中村さん、千葉さんが山田美樹外務大臣政務官にコミュニケを提出する様子(5月9日)/ 中村美月さん提供

答えてくださったお二人は、20歳の私にとっては同世代、しかも中村さんに至っては同級生でもあります。そんな人たちが国際会議の実行責任者を務めているということは私にとって刺激的でした。

特に、私が参加した有識者講演では、若者代表の中村さん、千葉さんの開会挨拶から始まり、三重県知事からのビデオレター、そしてさまざまな分野のプロフェッショナルからのスピーチ、プレゼンにつながるという流れがとても印象的でした。

まるで、若者から先達へ、日本から世界へ、と思考が広がっていくようで、聞きながらわくわくした気持ちになったのを覚えています。

そのサミットの様子や有識者講演の動画は現在、YouTubeで公開されています。個人的には、日本の今後を憂うエコノミストのジャスパー・コール氏による講演、「Beyond the Abenomics: The Case for Japan」が最も印象に残っています。「アベノミクスを超えて」というタイトルからも、国際機関で活躍されてきた彼ならではの視点が非常に新鮮に感じられました。

全編英語で行われたのですが、わかりやすいデータやグラフが多用されているため、海外経験のない私でも割にすんなりと理解できました。それでいて示唆に富んでおり建設的で、大変興味深い見解が多数でてきます。

その他の講演者の方々もみなさん真摯に国際問題に向き合って具体策を提示されていました。これを受けて若者間で話し合われたY7サミットは、さぞかし濃密なものであっただろう、と予想されます。

中村さんからの言葉にあったように、「若者が独自の視点から国際問題について議論を行い、政策決定に携わる」ことは、まだまだ一朝一夕には実現するものではありません。多くの人の努力と支えの上で、質の高い議論が成り立っているのだということが、中村さんの言葉から伝わってきました。

「このままでいいの?」 私が抱いた疑問と答え

しかしその一方で私は、以前からサミットにある疑問を抱いてきました。

それは、

一部の「先進国」が集まって世界情勢に関わる話し合いをもつ、ということは本当に「いいこと」なのだろうか?

裕福な人々が国益の保持を優先させてしまい、ひいては格差の再生産につながるのではないか?

ということです。

特に次の世代を担うY7が、20世紀の「先進国/発展途上国」の枠組みをそのまま保持していることには違和感があります。

このことについて再び中村さんに見解を求めてみました。

<中村さんからの回答>

仰るような格差の拡大に繋がらない、Y7は今回のサミットのテーマでもあった、"持続可能な社会"を念頭に、話し合いを進めなくてはならないのだと思います。

無論、G7の議題全てが先進国特有の問題ではありません。世界経済やインフラ開発など、先進国特有の議題ばかりではありません。しかし、それらを含め、社会福祉、人権問題等、"先進国に共通する課題"についての方針や政策について、G7なりの共通見解を示すことで、それらの問題に対する取り組みや考え方の一例を、国際社会に示すことに意義があるのではないでしょうか。

もちろん、国によって背景が異なるため、それらが全て当てはまるということではありません。しかしながら、持続可能な社会に向けたG7の共通見解や取り組みは、先進国にのみならず、世界各国の参考になると信じています。

(回答以上)

会議の様子 / 中村美月さん提供

個人的には、テロや難民問題に関してのみ言えば「先進国特有の問題」ではなく、世界共通の話題ではないか、と考えてしまいます。確かにオブザーバーという制度は対策の一つですが、彼らはあくまでも会議の正式な加盟国ではなく、また参加できる国の数にも限りがあることが気にかかります。

しかし現実には、安全保障問題がいち国際会議として無視できない話題であることも事実です。先進国のみで解決出来る問題ではないとはいえ、それでもなお話し合う必要があります。Y7が提出した共同声明文中でも、次の世代を担うものとして広い視点での良心的な文言が並んでいました。

ここで私が考えたことは、「今後求められることは、G7、G20のような先進国だけでなく、さらにグローバルな規模での若者会議が活発になることではないか」ということです。先進国には先進国の、新興国には新興国に特有の問題がありますが、それと同時に、世界レベルで今後を話し合うべき議題も多くあります。

まずは、G7、G20、国際連合、と様々な枠組みがあるように、若者会議にも多様な組み合わせが今後増えていってしかるべきでしょう。しかも、本家の政治家たちよりも国益などのしがらみが少ないことから、議論自体もより流動的でオープンなものになると期待できます。

次の世代を担う若者たちが、「どのような社会に生きていきたいか」を真剣に考え、意見を交わすことは、政治家たちの駆け引きよりもいい影響力をもつはずです。

経済的・政治的なことにしばられず、当事者がみんな席につくこと、適切な第三者も交えて対等に意見を交わすことが、より一般的となる未来を願います。

その際にきっといいロールモデルとなるのが、現在ある形のY7、Y20でしょう。中村さんらの活動が発端となって、若者の前向きな声が世界に届き、よりよい国際社会が広がっていくことを信じています。

終わりに

会場となった井深大ホール / 田嶋嶺子撮影

ここまで様々な疑問や感想を書いてきましたが、なによりも、まずは自分から行動に移すことが大事です。

同世代である彼らの活動を心から尊敬していますし、Y7をはじめとした若者会議の継続・発展を応援していきたいと思います。

自分から動くことで疑問がはっきりするし、その動きが波及してどんどん周りの環境も変わっていく。私自身もまずはこうして発信していくこと、そしてたくさんの人に話を聞きに行き、自分の頭で考えることから取り組みたいと思います。

Y7とは

G7サミットの開催に先立ち、先進七カ国+EU諸国から5名ずつ(合計40名)議題に精通している30歳以下のプロフェッショナルが集い、G7首脳陣に政策提言を行う事を目的としたもの。ロシアのクリミア危機により、G8がG7になって以降、Y7は2016年が世界初の開催となる。

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