商業誌を飛び出し、個人で「あにめたまえ!天声の巫女」の連載を続けているRebisさん。『月刊群雛 (GunSu) 2014年11月号』掲載のインタビューを公開します。後編です。前編はこちら。
── 『あにめたまえ!』は、どういう人を読者対象と考えていますか?
Rebis 難しい質問ですね。出版社や編集者さんとやる時には雑誌のカラーって大きな主題になるかもしれないんですけど、ウェブ漫画......というか独立した(インディーズの)漫画になると難しい。こちらから(読者対象を)決めてしまうよりは、とっかかりを多くしておいて、その何か一つの要素を好きな方が......例えばですが「僕は妖怪好きだけど、他も悪くないじゃん」みたいな感じで読んで頂くというのはアリかなと思っていて。そういう意味で『あにめたまえ!』は、美少女、セクシーな服、妖怪、東洋哲学、百合、声優さんとか......そういういろんな要素がぎゅっと凝縮されているんで、その中の1つ2つを好きな方が読んで頂けたら嬉しいです。そこからさらに、「××漫画」と呼ばれる枠を超えて多くの人に読んでもらえる作品にできたらもっと素晴らしいんですけど、それについては「できたらいいな」くらいで考えてます。
何を描いてはいけないのかが、全部自分に委ねられる
── ブログで、乳首を描くかどうか迷ったという話がありましたね。
Rebis あれは迷いました。もう商業誌じゃないからいいんじゃないの? とも思ったんですけど、ただ、僕の絵は肉感的というか、立っているだけでちょっとエロい系の絵だよねと言われちゃう可能性があるような作風ではあるんで、過度にならないようにしておこうかな、と。作品のサンプルを渡す時、「これは普段描いているようなエロいやつではなく、一般向けなんです」って言ってるんですけど、パラパラッって見た人が「いや、エロいじゃないですか!」って(笑) 普通の方だと、やはりそういう反応になっちゃうことが多いんで。これ以上エロくするのはやめておこうと。
── そこはもう、自主規制というわけですね。
Rebis 自主規制も全部、自分次第なんですよね。だから、社会的な範疇から外れないように、何かあった時に「いや、これは僕が描く必要あると思ったから、描いたんです」と胸を張れるように、とは思っています。ただやはり、何を描いていいのか、何を描いてはいけないのかが、全部自分に委ねられるというのは、僕自身は「面白いな」と思うんですけど、怖いことかもしれないですね。まあ、同人って結構そういう世界ではあるので。元々、自分の責任でやる世界。印刷会社や即売会の運営に迷惑がかからないように、自分自身で責任を持つ、意識を持つというのが同人の世界なので。そういう意味では、同じ状態ではあるのかな、と。まあ、ほんとに何か大変なこと......どこかから苦情が来たりしても、自分で向き合う必要があるんで。クレームに向き合いましょう、っていうのを描かなきゃいけないのかな? とは思ってます。
── 全部、自分ですもんね。
Rebis そうですね、基本的には。でもやっぱり、デザイナーさん、印刷会社さん、読者の皆さん、あるいは友人の漫画家たちに助けて頂いてて。だから「一人で連載ブログ」っていうタイトルは、ちょっと失敗したなって思ってるんです。「一人で」ってのは、ちょっと傲慢だなって。厳密には一人じゃないぞっていう意識はずっとあるんですけど、当時......特に始めた当時は、頻繁に通っていただくアシスタントさんもいない状態だったんで。時間を巻き戻したいとまでは思ってないですけど、ちょっと傲慢だったな、みたいな。
── ただ、あのブログを始められたことで、いろんなメディアが一斉にニュースにして話題になるきっかけにはなってますよね。
Rebis そうですね......個々の事例を挙げるのは避けますけど、漫画家と出版社とのトラブルとか、ここが大変だったとか、何かが原因で移籍とか、そういうことがだんだん表に出てくるようになってますよね。漫画を好きな読者の意識が、そういうところにも向く時代になっているとは思っていたんです。やっぱり一番大切なのは作品と読者で、「もっと続きを読みたい」「最後まで読みたい」ものが、ビジネス上の都合で終わってしまうというのは悲しい。皆さんそういう話には関心ありますし、できれば最後までやってよ! 何かないの? という感覚を、漫画が好きな方、皆さんが共有されていると思うんです。ですから僕自身、一人で始める前にすごく悩みつつも......「今なら一人でできるんじゃないの?」と思ったのは、そういう意識の高まりというか、「打ち切られても続く!?」みたいな、作品を終えずになんとか続けられるんだ! ということ自体に皆さんが関心を持ってくださるんじゃないかと思ったんです。
── 実際、続けられてますもんね。
Rebis そうですね。まあでも、なかなか......何もかも順風満帆ではなけど、がむしゃらにやっている、という感じです。それに、僕はある程度キャリアが長くて、読者さんがいてくださる状況だからやれているということもあるとは思うんですけど。でも、「こういう道を辿って成功できました」というパターンができることで、他の方がそれと似たような、全く同じではなくても「ああいう風にやれば、こういう風にできるじゃない」と、別のやり方を考える参考になれば、嬉しいかなとは思います。
元々クラウドファンディングが大好きだった
── そういう意味では、クラウドファンディングを使われたというのも先駆的事例です。プラットフォームに「キャンプファイヤー」を選ばれたのはなぜだったんですか?
Rebis 元々僕は、クラウドファンディングが大好きなんです。海外のTRPGやミニチュアを使ったゲームでは、クラウドファンディングがものすごく盛んなんです。オリジナリティあふれる作品が小ロットでも成り立つので、クラウドファンディングと相性が良いんですよ。大きい会社から出しても何万個とは売れないけど、千人は絶対買う人がいる、みたいなマニアックなミニチュア企画が、毎日のように出てくる状態になっていて、僕は大好きなんでよく利用していたんです。なので、初めから「これは今なら応用できるかも」というのが頭にあって、ブログにも書いていたんです。それで、具体的にキャンプファイヤーに決まったきっかけは、『東京トイボックス』のうめ先生が僕のニュースを見て、うめ先生のクラウドファンディングイベントにお招き頂いたんです。
── あ、そうだったんですね!
Rebis すごくありがたいことです。キャンプファイヤーで『スティーブズ』という......2人のスティーブ、ジョブズとウォズが若い頃の物語をうめ先生が描く。その続きの話を描くにあたって、直接読者から資金を募るという企画をうめ先生がやっていて、そのイベントで直接、キャンプファイヤーの担当の方々をご紹介頂いたんです。
── なるほど!
Rebis なので、いろんなクラウドファンディングのサービスがあるんですけど、そういう形でご紹介頂いたら、(キャンプファイヤーを)利用するしかないだろう、っていう(笑)
── 確かにそうですね(笑)
Rebis 大変お世話になって、おかげさまでプロジェクトも成功して。ほんと、うめ先生やキャンプファイヤーの方々に足を向けて寝られないです。
── うめ先生のクラウドファンディングで面白いなと思ったのが、連載の優先交渉権をリワードにしていて、すぐに星海社が落札されて。
Rebis あーありましたね。
── でも今、連載しているのは小学館、という(笑)
Rebis (笑)
── シビアだなーと(笑)
Rebis 僕、コメントしません(笑)
── まあ「交渉権」ですからね。条件が折り合わない場合もあるでしょうし。
Rebis 僕がクラウドファンディングをやる時にも、ああいうリワードが付けられるくらい自分自身にネームバリューや自信があればよかったんですけど。まだ商業連載作家としての本格キャリアが始まったばかりなんで、まずは地道に行こうかなということで僕のクラウドファンディングには(交渉権のリワードは)入れませんでした。
インディーズは揺籃期
── クラウドファンディングではないんですが、『アニウッド大通り』の記伊孝さんは星海社から商業で単行本化されました。他方、Rebisさんは同人誌流通とアマゾン(密林社)での販売を選ばれましたね。
Rebis 実は結構、出版の話とか、こういう新しいモノがあるんですけどやってみませんか? みたいなお話は頂いてたんです。でもその時すでにクラウドファンディングは動き始めていたんで、それをやめてしまってこちらから出しましょうというのは、さすがに腰砕けになっちゃうというか。「おお! 新しいことが始まるんだ!」と思って見てくださっている方々に、ちょっと申し訳が立たないなというのがあって。僕自身が、どこまでできるかを試したいというのもありましたし。だから、ありがたいお声をかけて頂いた企業にも、既にこういった企画(クラウドファンディング)が動いているので、まずはこれをやらせて頂いてその様子を見てくださいとご返答して。「一人で」なんて謳ってるんで、まずは自分で出版社並みに上出来な本ができるってことを、証明してみたかったというのもあります。でもやっぱり作品を育てていくうちに、流通などの面で限界がくるかもしれない、いい意味での限界がくるかもしれないとは思っています。そうなった時に改めて、提携のチャンスや、出版社と組んで何かやっていくようなチャンスがあればいいですね。
── そうですね。
Rebis まあ、まだ単行本1巻なんで。ある程度話数が溜まっている方が、出版社にとっても都合が良いというか、計算しやすいかもしれない。それまで頑張って描いておくぞ! みたいな。もしそういうのがなかったとしても、自分で頑張るぞと。両方の構えで行くつもりです。
── 出版社とインディーズって別に対立するものではなくて、大きい流通は出版社が担って、それができない小さいところがインディーズっていう方向ですよね。
Rebis そうですね。ブログに書いたんですけど、ニトロプラスさんやタイプムーン・ブックスさんのように、コンテンツを育てる最初の段階や、特に熱心なファン向けの限定版は自社で展開して、実質、同人流通でやるという形もいいですよね。でも、全国に届けるためにはやっぱり出版社の力が要る。そこは力を分け合うようなスタイルもあるのかな、そういう未来もあり得るのかな、と思います。とはいえ、ニトロプラスさんやタイプムーン・ブックスさんのように、出版社から見ても魅力的なコンテンツになるには、まだまだ僕自身頑張らなきゃいけないとは思うんです。メジャーで流通させるにはこのくらい部数が出ないきゃいけない、初動がこれくらいなきゃ続けられない、という問題が出てきてますよね。インディーズで充分に揺籃期を過ごして、コンテンツがメジャー流通に耐えられる状況になったら、ここまで育てば大丈夫っていう形で出すというのも、アリかな? って。
── 揺籃期ですか、なるほど。この雑誌の名前は『月刊群雛』ですが、読んで字のごとく「雛が群れる」という意味なんです。
Rebis 元々漫画って、バッと大量に世に出して、その中から人気のあるものを拾って生き残らせていくスタイルですよね。それによって傑作が生まれてきた歴史もあるとは思うんですけど、漫画家にとっては自分しかないんですよ。100のうち1つか2つ大ヒットが出れば、出版社はやっていける。でも作家は自分しかない。他の作家が大ヒットして、その恩恵で出版社の中での利益配分によって作家が続けられるというのもあるかもしれないですけど、でもやっぱりそこで作品が終わっちゃうのは悲しいですよね。自分が雛であるとして、(雛の時代を)なんとか安全に生き延びる、厳しい自然界の中で大きくなるまで生き残る術というのをいろいろ考えてもいいのかな、と。
やっぱりアニメ化を目指したい
── では今後の活動予定や、やりたいことを教えてください。
Rebis まず、単行本を今後も出します。ときどき「2巻出るんですか?」って聞かれるんですが、もちろん出していきます。自分でこの作品を「ここまでは続けたいぞ」というところまで、続けようと思ってます。ま、単行本の表紙にでっかく「1」って入れたら、もう聞かれなくなりましたけどね(笑)
── わはは(苦笑)
Rebis 最初の頃は「1冊単行本出たら終わりなんですか?」って聞かれることもあって。「まだまだ描きますよ! 1巻打ち切りは嫌だ、という面もあって始めたんですから」って答えてました。あと、クラウドファンディングのストレッチゴールに「ドラマCDの企画に挑戦!」というのがあって、挑戦を続けています。いろんな方にご協力頂いて、少しづつやってます。まあ、相手方もあることなんで、あまり僕がここで「今こういう状況です」というのは言いづらいのですが。けど、ドラマCDは何らかの形で世に出せたらいいな、ということで頑張ってます。後は......大きな目標をあえて言うとしたら、やっぱりアニメ化みたいな大きな展開は目指したいですね。口にしていればいつか実現するかもしれないんで。地道に自分で企画を進めるのであろうと、あるいは、いろんな企業にご協力いただく道であろうと......挑戦はしてみたいです。アニメ化自体がゴールというわけではないんですけど、作品を育てていく上で一つの到達点になると思いますし。やっぱり、雑誌を飛び出してそこまでたどり着けたら、夢があって面白いですよね。いつかそうなってもいいように、頑張るぞ! って感じです。
── では最後に、インディーズで頑張っている他の作家に向けて、メッセージをお願いします。
Rebis 一昔前までは、出版のインフラは限られた人しか使えなくて、そこから出てしまったら非常に難しい時代だったと思うんですが、今は技術やインフラの発展によって、いろんな人が出版とか作品にアクセスできる、いわば群雄割拠というか、大航海時代的な、すごく面白い時代になったと思うんですね。だから、そういった中で、読者と手を取り合って描いていけるというのはとても楽しいことだと思うんです。「楽しんでいきましょう!」なんて言うと、ちょっと偉そうなんですけど(笑) 僕自身、楽しんでいけたらと思うし、インディーズ作品でもすごいな! って驚かされるものがいっぱいあるんで、僕自身も楽しませて頂きたいな、って思ってます。新しい時代を楽しみたいですね。
── 楽しいが一番ですよね。
Rebis そうですね。創作の喜びの根っこは、変わらないと思うんで。その芯のところを捉えて、読者と一緒にやっていけたら、それが一番幸せなことなのかな。
── 本日はどうもありがとうございました。
(元記事はこちら)
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