『月刊群雛 (GunSu) 2014年09月号』には、インディーズから商業出版を果たした『アニウッド大通り』の作者で、漫画家のさんの独占インタビューが掲載されています。なぜインディーズだったのか、どんな苦労があったのか、いろいろ突っ込んだお話をお聞かせ頂きました。最終回です。
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自分で萎縮しちゃうのが一番面白くない
── ちょっと気になってることとして、ニコニコ静画(マンガ)とpixivに掲載していた『アニウッド大通り』は、一部を除いて取り下げてますよね。KDP版はどうなりますか?
記伊 そのまま販売し続けます。すごく楽しみなんですよね。どういう売れ方をするのか、とか。収録不可能な話もあったりしますし(笑)
── あーなるほど。なんとなく想像がつきます。一緒にお風呂に入ったりするシーンが、商業だと難しいのかな? とか。どうなんでしょうね?
記伊 そういうのも全部、後で決めてもらうって感じだから、すごく楽しいですね。「これはダメだろう」「あれはダメだろう」って自分で萎縮しちゃうのが一番面白くないんで。「あ、これダメなんです」って、(後から)言われる方が楽というか。そっちの方がいいですね。
── 確かにそうですね。最近、連載が決まっていた漫画家さんがデビュー寸前で取りやめになっちゃったりとか、そういう話が目につくようになってますよね。
記伊 脳細胞が死んでいく音が聞こえるというか、どんどん塞がれていく感じがするんですよね。「アレもダメ」「コレもダメ」ってなっていく感じがあって、ほんとそういうの自分でもダメだなって。もっと自由に発想できないと、ほんと楽しくないっていう。
── 創作活動ってそういう部分が大事ですよね。「アレもダメ」「コレもダメ」って萎縮しちゃうと、どんどん小さくまとまっちゃうというか。
記伊 「いったいどこまでやっていいんだろうか?」というのを知りたいですからね。やってみてダメだったら「あ、ダメだったんだ」ってことなんで。それを知らないで「ダメだ」って言われるのが、我慢ならないんですよね。自分で描いてみて「あ、反応ないな」って話も、やっぱあるんですよ。そういうのも、やっぱ知らないと気が済まないという感じで。知ってみることで、編集者さんが言ってることは、こういうところが正しいんだな、とか。それを本当に、ちゃんと知りたかったんです。
── 生の声が聞こえるようになったことで、いろいろ自分でも試せるようになったってことですかね。
記伊 そうですね。
── そう考えると、本当にいい時代になったってことですよね、商業媒体しかなかった頃に比べたら。例えば『あにめたまえ!天声の巫女』のRebisさんが、クラウドファンディングを使って、商業流通ではなく同人流通で本を出されますよね。あれもまた、一つの手ですよね。ボクも自分で『月刊群雛』をやってる身ですけど、こういうことができちゃう時代というのが、ほんと面白い。
記伊 願わくば、ちゃんと届いて欲しいですね。自分としても、こういう活動が自分のアイデンティティになるだろう、と思ってやっていたので。そういうのはほんと、最大限使っていかないとな、と。
商業じゃないから、どこまで創作の根源に到れるかが試せる
── ではそろそろ、インディーズで頑張っている他の方々へ向けて、メッセージをお願いします。
記伊 うーん......何だろう。やっぱり、作り手が「創作の真髄」みたいなものを知らないといけないと思うんですよね。今って何か、ここから上くらいまでしか知れないというか、できていないというか。もっと根本から考えられるはずなんですよ、根っこから。ただ、そういう機会が、今って得られないんです。商業的に考えないといけないってのがあって。根っこから違うものを作ることは、なかなかできないんで。「創作って何だろう?」ってのを知ってる人が居て欲しい。それがインディーズでやる醍醐味じゃないかな? って。
── 創作の真髄ですか。
記伊 もう理論ができてるじゃないですか。「こうやったら売れる」みたいな。
── 方程式みたいな。
記伊 ええ。それは本当なのか? って、そういうことにすら疑問を持って......根源にどこまで到れるんだろう? みたいなことを試さないと、僕は楽しくならないと思ってるんで。失敗や犠牲もあるんですけど、そこからしか生まれない面白さみたいなのがあるんじゃないかな?
── 混沌というかカオスというか、ドロドロになった中からいものが生まれてくる、みたいな。
記伊 やっぱ、演出塾に通っていたというのもあって......高畑(勲)さん、宮崎(駿)さん、両氏は根っこからくるんですよ。根っこから「これは正しいのか?」とか。根っこが違う、っていうか。セル画はいまこうなってるけど、それは正しいのか? ってことを常に考えている人たちなんで。一回そういうところから、考えたいんですよね。あんまり人の言いなりになりたくない、というか。「本当なのか?」というのが知りたい。
── それが試せるのも、インディーズならではですね。
記伊 そうですね。生意気かもしれないですけど、そういうのって価値があるんじゃないかなって。
── では最後に、読者の方々へメッセージをお願いします。
記伊 読者を選ぶ作品なんですけど、でもそれが面白くない? ってのを問いたいんです。自分も、そういう作品が読みたいんですよ。自分は精一杯、自分に対し嘘をつかない作品を描いているんで、それを面白がって頂けたらいいな、と思います。まず自分が本当に面白いと思えることを追求していきたいですね。
── 本日はどうもありがとうございました。
〈了〉
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『アニウッド大通り(1) (星海社COMICS)』
記伊孝さんにはこのインタビュー以外に、特別読み切り漫画を寄稿頂いてます。他にもインディーズ作品が多数掲載された『月刊群雛 (GunSu) 2014年09月号』は、下記リンク先からお求め下さい。
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