「走り・旬・名残」と「出会いもの」に見る和食ならではの季節感

これこそが和食ならではの季節感なのではないか、と私が考えるのは、季節の移ろいを楽しむ「走り・旬・名残」と「季節の出会いもの」です。

4月、徐々に暖かくなり、お花見や行楽など季節感を意識する機会の多い時期ですね。食卓にも竹の子や山菜、ホタルイカなど、季節を感じさせる食材が多く登場します。昨年、無形文化遺産に登録された和食についても、その特徴を述べる際に「季節感」を挙げる人は多いのではないでしょうか。今回はその「和食における季節感」について、書いていこうと思います。

季節感というと真っ先に思い浮かべられるのは「旬」という言葉でしょう。しかし、季節の食材を用いるということならば、なにも和食に限った話ではありません。例えばフランスでは、春にはシェーヴルチーズやアスパラガス、冬にはジビエや牡蠣などが、季節を感じる食材として喜ばれ、頻繁に用いられます。

そこで、これこそが和食ならではの季節感なのではないか、と私が考えるのは、季節の移ろいを楽しむ「走り・旬・名残」と「季節の出会いもの」です。

■走り・旬・名残

「旬」とはその食材が食べごろを迎える最盛期。また市場に多く出回ることから、手に入りやすく値段もお手頃になるため、食材を気軽に楽しめるタイミングです。

それよりも前に初物、出始めのものをいただくのが「走り」です。特に江戸っ子が粋な楽しみとして好んだと言われています。他の人たちが食べるよりも早くに食べたい!と競って食べる感覚はゲーム機やiPhoneの発売日、海外から来た有名店の開店日、お店の前に行列をつくるのに似ているかもしれませんね。その貴重さや先取り感のほか、新しい季節の訪れを今か今かと待ち望む気持ちの表れでもあります。

逆に、旬が過ぎてもうそろそろ終わり、という食材を惜しむのが「名残」です。去り行く季節を惜しみつつ、来年また出会えることを心待ちにして、食材をいただきます。

食材について、「今、おいしい」ということだけでなく、その季節が訪れ、盛りを迎え、そして去っていくまでの移ろいに思いを馳せるのは、どこか仏教の無常観にも似ているような気がします。

また、走り・旬・名残は、食材自身の変化も楽しみのひとつです。その食材の美味しさを味わうならばやはり旬が一番、走りや名残は気分を味わうだけ、と思われがちですが、走り・旬・名残それぞれに違った味わいがあります。

一般的に魚は繁殖期が近づくにつれて成長し、徐々に脂が乗ってくるため、その時期のこってりした味わいを楽しむか、その前のさっぱりとした若いものを楽しむか、という違いがあります。

その代表例がカツオ。春〜初夏に出てくる初ガツオは、うま味がたっぷり。脂は少なめなのでたたきにしていただいたり、腹の皮が薄いので銀皮造りでもいただけます。秋口の戻りガツオは脂がのったところを刺身にしていただくのがおいしい。

サンマも秋が旬ですが、夏頃から出始めます。この時期のまだ脂がのる前のものは、焼いて食べるには物足りないものの、刺身にするにはちょうどいい具合。逆に秋のサンマは焼くにはジューシーですが、刺身にするには脂がギトギトとしつこいです。

野菜の場合、走りは細胞分裂が盛んで、若くて柔らかい時期。これが旬を過ぎ、名残に移っていくにつれて、ひとつひとつの細胞が成熟して繊維がしっかりとしてきます。そのため、走りの野菜は柔らかくてみずみずしいのが特徴。旬には加熱して食べるようなものも走りのうちは生でもおいしくいただけたり、逆に名残になった方がよく熟れてうま味や甘味が濃かったり、そのときどきの味わいがあります。

■季節の出会いもの

ちょうど今頃になると和食のお店や居酒屋さんでよく見かけるのが「若竹煮」。旬の竹の子と新わかめを炊きあわせて、出てきたばかりの山椒の若芽を添えた「春の出会いもの」です。

出会いものとは、同じ季節に出回る旬の食材で、料理の相性が良い組み合わせのこと。海の幸、山の幸、里の幸から、たまたま同じ時期においしくなる食材を出会わせて、それぞれの美味しさを引き出します。

若竹煮の他にも身近なものでは、冬の定番、ブリ大根がそう。脂がのっておいしくなった寒ブリに、ちょうど同じ時期に獲れる、甘味が濃い冬大根を組み合わせます。

料亭で食べる特別な「日本料理」だけでなく、鮎に蓼酢、サンマにスダチ、イカに里芋など、家庭の食卓や近所の居酒屋さんで日常的に食べられるような料理にも出会いものは根付いています。

ここに、走り・旬・名残を組み合わせるとさらに面白いのが鱧。旬の鱧は湯引きにして、たたいた梅干しと組み合わせるのが夏の出会いもの。名残になると、走りの松茸と組み合わせて秋の出会いもの、土瓶蒸しになります。

出会いものは、若竹煮やブリ大根のように広く愛されてきた組み合わせを楽しむだけでなく、新しい組み合わせを考えるのもまた面白いものです。私の中でこの春のヒットはホタルイカと竹の子の炊き込みご飯。ホタルイカの茹で汁で炊くので、ご飯が桜色に染まります。

この春のマイ・ベスト・出会いもの、探してみてはいかがでしょうか?

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和食の「走り・旬・名残」

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