年末年始に読みたい、仕事で圧倒的に役立つ5冊。主に、ネットメディアで働く人たちへ

ネットが直面している課題とは?
Chnit Siri Kan Ti N Cheiynghim / EyeEm via Getty Images

ここ最近、インターネットメディアが直面している課題とは何かを考えている。

表層的な課題はいろんな本で触れられているので、ここでは少し角度を変えて考えてみたいと思い5冊を選んだ。テーマは「ネットメディアの仕事で圧倒的に役立つ5冊」。ぜひ年末年始に手に取ってほしい。

(1)沢木耕太郎『作家との遭遇―全作家論―

インターネットメディアが発展してから圧倒的に増えた職業の一つに「編集長」「編集者(エディター)」「ライター」がある。名乗れば誰でもできる仕事だが、名乗る以上にはプロとして「読む力」を求められる仕事というのが共通点だろう。

読むというのは一見すると誰でもできるように思えるが、それは違う。的確に読むというのは、何かを創ると同じクリエイティブな作業なのだ。ノンフィクション作家として新しい時代を切り開いていった著者が学生時代から現代に至るまで書いた作家論は「読むこと」とは何かを教えてくれる。

(2)高村薫『レディ・ジョーカー

大げさに短い言葉で感情を刺激して共感を勝ち取る文章がインターネット上にあふれている。こうした文章は確かに面白いが、面白いだけだ。1回読めばもう十分だし、暇つぶし以上の価値を見出すことはできない。

文章を書くとはどのようなことなのか。エンターテイメントと文学を圧倒的な筆力で両立させた高村薫から学ぶことができる。余計な言葉を一切使わずに、シーンを描き切る技術と観察力に圧倒される。物事を描写するとはどういうことなのか。基本はすべて、ここにあると言っていい。複雑な事象であっても、簡潔な言葉を重ねるだけで書けるというのは驚きでしかない。

(3)伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?

政治的な立場を問わず、正義感に燃えて「敵」を見つけて攻撃するというやり方を取る人たちがいる。この手の人たちは何かにつけ徹底的にやらないと気が済まず、自分たちに落ち度があっても認めたら負けだと思うらしい。

正義感自体はとても大切な感情だが、どこか余裕を失ってしまうと危うさに転化する。

危うさを知りたければ、この小説を読むといい。伊坂さんの作品はいくつか体系にわけることができるが、僕が好きなのは、本作に代表される管理や監視といった大きな流れの中で、なんとか個人が生き延びようとする作品群だ。

一人になってもなお生きていく指針になるもの。それを大事にしたくなる。

(4)ロバート・フランク『成功する人は偶然を味方にする

会社でいかに大きな事業を任されたのか、最大で何PVを叩き出しか、ポジションを得るために自分はいかに努力をしてきたかという話を自慢げにする人によく出会う。この業界ではセルフブランディングが大事らしく、彼らは華麗な職歴とともにいかに自分がすごいかを語る。そんな人に出会ったときは、ぜひこの本を開いてほしい。

著者はコーネル大で教鞭を執る経済学者だ。「あなたがいまのポジションにいるのは、努力や才能ももちろんあるけど、やはり運に恵まれたんですね」。こう言われて、むっとするような人には注意をしたほうがいい。人は一般的に、成功は「自分の能力と努力」によるものであると評価する傾向にあり、逆に失敗する不運だと考える。だからこそ、成功はどこまでが努力で、どの程度が運なのかを見極める必要があるのだ。運を過小評価する人は「成功しない人は努力が足りない」まであと一歩のところにいる。

そんな人と一緒に働きたい?

(5)糸井重里『インターネット的

2001年に出版された一冊。そこから10数年、いやもうすぐ20年という時間が経っているにもかかわらず少しも古さを感じないのはなぜか。そこにインターネットの本質や可能性がすべて詰まっているからだ。

技術は常に変化していくけれど、体現されている価値観はそうそう変わらない。本質を捉えるとは、価値観を捉えることである。現状を嘆くだけでなく、変わらないインターネットの可能性を再認識する上で年末年始に読んでおきたい一冊だ。

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